2022年5月26日、東京都教育庁が「東京都立高等学校入学者選抜における東京都中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)結果の活用について」と題する文書を公表しました。新たに定められたポイントは「不受験者の扱い」です。
その前にESAT-J(イーサット・ジェイ English Speaking Achievement Test for Junior High School Students)について簡単に説明しますと、東京都教育委員会が都内の全公立中学3年生に対して今年11月から実施を予定している英語のスピーキングテストのことです。ESAT-Jの成績は翌年の都立高校入試で各志望校へ提出し、点数化して学力検査の総合得点に加算されることになっています。
都立高校入試へのESAT-J導入については、これまで様々な議論がなされてきました。そうした中で「ESAT-J不受験者の扱い」が問題化したのは、22年3月2日の衆議院文部科学委員会においてです。吉田はるみ衆議院議員が、質疑の中でこの問題を取り上げました。
吉田議員は同委員会で、スピーキングを苦手とする生徒が病気などを理由にESAT-Jを受けなかったり、ESAT-Jを実施しない私立中学や他県中学の生徒が都立高校入試を受けたりする事例が発生しうること、それに対し「受験しないですませられる人がいるのはずるい」という声が受験生や保護者からすでに出ていることを紹介。「入試の公平性や公正性が保てないのでは?」と末松信介文部科学大臣に迫り、大臣も「釈然としません」と答弁しました(本連載「文科大臣も『?』となった都立高入試英語スピーキングテストの構造的問題」)。
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東京都教育庁の当初の説明では、ESAT-Jを受けなかった生徒は入試時の学力検査の得点から「仮のESAT-J結果」を算出し、総合得点に加算するとなっていました。その算出方法が3月2日の文部科学委員会の時点では「検討中」でしたが、今回、ようやく明らかになったのです。公表資料「東京都立高等学校入学者選抜における東京都中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)結果の活用について」には、不受験者の「仮のESAT-J結果」は次のように算出されるとあります。
英語学力検査の得点で順位を決め、不受験者と英語学力検査の得点が同じ者のESAT-J結果を「3 評価の点数化について」 に基づいてそれぞれ点数化し、その平均値により、不受験者の「仮のESAT-J結果」を求める。その際、平均値が18点以上はA、14点以上18点未満はB、10点以上14点未満はC、6点以上10点未満はD、2点以上6点未満はE、2点未満はFとする。
ちなみに都立高校入試における「評価の点数化」とは、ESAT-Jの結果をA〜Fの6ランクに評価し、A=20点、B=16点、C=12点、D=8点、E=4点、F=0点とするものです。さらに具体例として、以下の表も掲載されていました。それによれば、英語の学力検査の得点が同じ者(この表では75点)のESAT-Jの結果はA=3人、B=5人、C=2人で、「評価の点数化」による平均値は16.4点となるため、不受験者の「仮のESAT-J結果」は14点以上18点未満で「B」と算出されます。
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しかし、この算出方法には大きな問題点があります。まず、英語の学力検査の得点が同じ(あるいはその前後の)者のESAT-J結果から不受験者の「仮のESAT-J結果」を求めるうえで、「根拠」が示されていないことです。英語の学力検査の成績とESAT-Jの結果に、高い相関性があることが証明できなければ、この算出方法は正当性が保てません。今回の公表資料の中には、相関性を示すデータは添付されていませんでした。
22年5月27日の東京都議会文教委員会でも、この点について注視すべき質疑応答がありました。戸谷英津子都議会議員の「英語学力検査の結果とESAT-Jの結果の間に相関はあるのか?」という質問に対し、都立学校教育部長の答弁が次のものだったのです。
「具体的な相関関係のデータはただ今持っておりません。ただ、繰り返しになりますが、都立高校入試におきましては多様な事情を抱えた受験者がいることを考慮した特例的な措置は必ず必要となります。そうした措置の一つであると考えております」