先頃の東京都知事選挙はいつも以上に若い人たちの関心を集めたようですが、それと同様に今、国公立大学の授業料値上げ問題も加熱しています。
2024年7月12日、東京大学が来年度の入学者選抜要項を公表しました。しかし検討中の授業料値上げについての正式発表はされず、夏頃に途中経過を説明し、11月までに決定する方針とのことでした。
前回の本連載でも取り上げたように現在、東京大学の学部と大学院修士課程の授業料は53万5800円(大学院博士課程は52万800円)となっており、今年5月16日に授業料改定の検討を公表しています。東京大学の学生たちが編集・発行している「東京大学新聞」によれば、その2日前の5月14日、科所長会議(研究科長・学部長・研究所長合同会議)において、学部・大学院(法科大学院を除く)の年間授業料を、現行から2割ほど値上げした64万円程度とする素案が議論されていたとのことです。
また、科所長会議の後には各学部・研究科で教授会が開かれ、学部長から値上げ案に関する説明があり、「議論が拙速」との批判も出たようです。しかし一方では、すでに意見は集約されており、7月に授業料改定に関する記者会見を開くスケジュール案が提示されたとの情報もあり、「値上げが既定路線化している可能性もある」と報じられました(東大新聞オンライン「【学費問題】東大の未来を考える ―授業料値上げ検討の経緯と東大の財政事情」、24年6月17日)。
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この動きについては、後に大手メディアも明確に報道しています(朝日新聞「授業料増、入試要項と同時の発表見送りへ 東大、学内の反発に配慮か」24年7月3日)。こちらの記事でも7月中旬に授業料値上げを発表する意向だったことが触れられており、「値上げが既定路線化している可能性もある」という東大新聞の予測は正しかったと言えます。しかし実際には、7月12日の正式発表は見送られました。ということは授業料値上げ発表のスケジュールが、当初の予定から「変更を迫られた」ことになります。
東京大学が授業料値上げの正式発表を先延ばしにした理由は、何といっても学生による反対運動の広がりによるものでしょう。同大学で授業料引き上げが検討されていることが一部メディアによって初めて明らかになった翌日の5月16日、東京大学教養学部学生自治会が情報公開と学生の議論への参画を求める要望書を教養学部長宛に提出しました。自治会の動きとは別に、有志の学生によって「五月祭学費値上げ阻止緊急アクション」(現「学費値上げ反対緊急アクション」)も組織されました。
5月27〜29日までの3日間、教養学部自治会は全学生を対象に「授業料値上げに関する全学一斉アンケート」を行い、9割以上が授業料値上げに「反対」または「どちらかといえば反対」と回答しました。また、学費値上げ反対緊急アクションは6月28日、オンライン署名「東大の学費値上げに反対します」を開始しました。この署名にも多くの賛同が集まり、7月18日時点で署名数は2万6000筆に達しています。
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学費値上げ反対運動は、東京大学以外でも広がっています。5月下旬の定例記者会見で越智光夫学長が授業料の改定を検討中と明らかにした広島大学では、6月4日には「学費値上げ阻止緊急アクション 広島大学」が、オンライン署名「#学費値上げ反対 広島大学の授業料値上げに反対する請願署名にご協力ください!」を開始しました。この署名運動の反響も大きく、7月23日時点で1万7500筆以上が集まっています。
こうした学生たちの動きが、東京大学の7月時点での学費値上げ発表を阻止する要因の一つとなったことは間違いないと思われます。しかし正式発表は一旦ストップしたものの、学費値上げそのものが中止となった訳ではありません。冒頭で触れた通り東京大学はオンラインで開いた会見の中で、授業料の引き上げを来年度から行うかは現在も学内で検討中であり、一般入試の募集要項を公表する今年の11月までに決定、公表すると説明しました。これはむしろ受験生や在学生にとって、学費の納入時期がより迫ったタイミングでの発表になるとも言えます。
国立大学の運営費交付金の削減が続いていることに加え、円安によって促進された急速な物価高によって、国立大学の財政は相当ひっ迫しています。学費値上げはその中から出てきたプランです。7月の正式発表を阻止した功績は称賛に値しますが、学費値上げそのものを阻止するためには、これまで以上の運動の広がりが求められると思われます。
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今回、当事者である学生の動きが広がる中で、私も彼らの支援につながる新たな署名活動に「呼びかけ人」として参加することにしました。それが、オンライン署名「高等教育費や奨学金返済の負担軽減のため、公的負担の大幅拡充を求めます!」です。この署名活動の提言は、下記の3つから成り立っています。
1.授業料を半額に
すべての学生を対象に、大学、短大、高等専門学校(4年・5年)、専門学校の授業料を現在の半額にしてください。
2.大学等修学支援制度の拡充を
大学等修学支援制度の対象を多子世帯や理工農系に限定することなく年収600万円まで拡大するとともに、授業料減免額も拡大してください。
3.奨学金返済の負担軽減を
奨学金返済に係る負担の軽減に向けて、貸与型を有利子から無利子へ、所得に応じた無理のない返済制度や返済困難な場合の救済制度を拡充してください。
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