都民ファーストの会でESAT-J導入に反対する立場の都議にとっては、厳しい状況が続いていました。教育委員会に提出した要望は認められず、この問題を審議する文教委員会からも締め出されました。また、活用中止に向けた条例案の共同提案者となることも阻まれました。10月7日の本会議での意思表示は、残された数少ない選択肢だったに違いありません。彼らにとって本会議における条例案への賛成投票は、党執行部からの重い処分を覚悟した上での勇気ある行動だったでしょう。そこには強い政治信念に加え、その後ろ盾として反対運動の盛り上がりがありました。
この問題では「都立高校入試英語スピーキングテストに反対する保護者の会(以下、保護者の会)」「都立高校入試へのスピーキングテスト導入の中止を求める会」「入試改革を考える会」などによる署名、請願、学習会、街頭宣伝、都議会議員への働きかけが、今も盛んに行われています。これらの広範な市民の運動が、彼らを後押ししたのだと思います。
10月7日、条例案に賛成した都民ファーストの会の3人の都議が、本会議後にマスコミの取材を受けた際にそれぞれ手に持っていたのは、保護者の会が作成した「都立高入試にスピーキングテストはいりません。ムリっ。」というタイトルのチラシでした。このことは、彼らが何をもっとも大切にして行動したのかをはっきりと示しています。
一連の動きを、都民ファーストの会の内紛や主導権争いとして捉えるのは誤りです。都政が主権者である受験生・保護者・都民の立場になって、どれだけその声に耳を傾けているかが問われているのです。
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その日、都議会ではもう一つ大きな動きが起こりました。都立高入試へのESAT-J導入に反対する超党派の「英語スピーキングテストの都立高校入試への活用中止のための都議会議員連盟(以下、英スピ議連)」の発足です。日本共産党、立憲民主党など多数の会派から42名もの都議が集まりました。都民ファーストの会を除名された3名も加わっています。これは都議会議員定数127名(現員123名)の約3分の1に達しています。
10月8日の東京新聞(朝刊)には、都民ファーストの会の執行部が反対する都議に対して発したとされる「知事がやりたいんだ」という言葉が、見出しで掲載されました。これは重大な問題です。教育基本法に次の条文があるからです。
【教育基本法第16条】
教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり、教育行政は、国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の協力の下、公正かつ適正に行われなければならない。
この条文は、教育内容への政治・行政権力の介入を「不当な支配」として禁じるものです。「知事がやりたいんだ」という言葉が事実であるとすれば、小池都知事は教育への「不当な支配」を行ったことになり、教育基本法違反となります。また、このことは文教委員会で「東京都立高等学校の入学者の選抜方法に関する条例案」を政治的中立性に反するとし、浜教育長への要望書提出において「教育委員会は首長から独立した機関である」と批判した、自民・公明党、都民ファーストの会内のESAT-J推進派の主張を自ら崩すものです。
11月27日に予定されているESAT-J実施日まであと1カ月ほどですが、反対運動は日に日に力を増しています。都民ファーストの会3都議の勇気ある行動と反対運動の広がりが、超党派の英スピ議連を生み出したことからも分かるように、教育の民主主義を求める主権者の声は大きなうねりをつくり出しつつあります。
私が代表をつとめる入試改革を考える会は、10月31日13時から都庁記者クラブで英スピ議連と共同で記者会見を行います。また、英スピ議連は11月2日18時から、都議会第1会議室(都議会議事堂6階)で議連総会と都民集会を行います。都⽴⾼⼊試へのESAT-J導⼊を阻⽌することが できるか否か、主権者である私たちが問われています。