そして当初は10月上旬であったはずの通知が、11月1日まで遅れたことにより、事前に受験会場を下見することも難しくなりました。なぜなら11月には、多くの中学校で2学期の期末試験が行われます。志望校に提出する調査書に大きな影響を与える、とても重要な試験です。自宅から遠い受験会場で入試にのぞむ場合、遅刻などをしないよう交通機関や道順を下見しておく必要がありますが、期末試験が近づく中で下見に行く時間を作ることは容易ではなかったでしょう。
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さらに当日の試験日程、試験会場で昼食をとることが禁止されたことによる、受験生のコンディションの悪化と不公平も見逃せませんでした。
11月27日の試験当日の実施時程は次のようになっています。
○12:15~13:00
会場到着・受験教室入室(前半・後半実施組共通)
○13:00~14:05
前半試験実施組の試験実施、後半試験実施組は待機
○14:25~15:30
後半試験実施組の試験実施、前半試験実施組は待機
○15:40
前半試験実施組、後半試験実施組ともに解散
受験生の多くは、時間に余裕をもって受験会場に着くようにするでしょう。すると自宅から会場まで1時間以上かかる人は、10時台には自宅を出なければなりません。
受験会場では昼食をとることが禁止されていますから、受験生は会場に入る前に食事をすませることになります。10時台に自宅を出る人が家で食事をすませて行くなら、少なくとも10時前にはとらなければならなりません。すると後半実施組の中には、その後5時間近く食事をしていない状態で試験を受けさせられる人も出てきます。「会場近くで入室前に食事をすれば」という意見もあるかも知れませんが、すべての受験生がそうできるとは限りません。遠隔地に指定された受験会場で、さらに長い待機時間を要求されることは、結果的に試験を受けるコンディションとして望ましくないと言えます。
また、私が最も気になったのは受験生間の格差です。受験会場までものすごく移動時間がかかる人に対し、徒歩圏内に受験会場がある人は労力が著しく軽減されます。こうした受験生間に格差のある環境で実施される試験が、入試に活用されることは大きな問題です。
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22年11月に入ってから「都立高校入試英語スピーキングテストに反対する保護者の会」が、ESAT-Jの受験申し込みについてアンケート調査を行いました。回答57件の内、「子どもが学校でESAT-Jの受験申し込みをしたけれど保護者は同意していない」というケースが11件も見つかりました。このことが個人情報保護法に違反するかどうかは今後、法律の専門家による判定が必要です。私はこのアンケートの自由記述欄で、自分の身が引き裂かれるような保護者の言葉に出会いました。
〈子どもは、私がESAT-Jに反対しているのを知っているので、登録を迷っていたようです。私はTwitterで、保護者の同意が必要なことも、登録先がベネッセだということも知っていて、怒りを大爆発させていました。今も登録に関しては、許せないことだらけです。夏休み明け、子どものクラスではほとんどの子達が未登録でしたが、締め切り3日くらい前に「登録しないと、20点分が0点になるよ」と話があり、子どもも保護者も青くなって登録を始めました。我が家も娘が泣きながら、「ママの言うことが正しいと思う。でも、0点は怖い」と。あげく、過呼吸をおこして苦しむ娘を見て、しぶしぶ登録しました〉
ESAT-Jに受験登録する際に、過呼吸になって苦しむ受験生がいます。これは子どもに対する人権侵害ではないでしょうか。
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一方で、全くかけはなれた現実が存在します。ESAT-Jの試験監督のアルバイト募集は、11月27日の試験当日8日前となった時点でも続いていました。私の知る限りでは、以下のような求人情報がインターネットに掲載されています。
学生歓迎&11月27日のみ短期の試験監督
○激ゆる採用
○時給1500円
○勤務時間は9時25分~16時45分(実働6時間35分)
○交通費支給、上限1500円
過呼吸で苦しんでまで受験登録を強制される受験生がいる一方で、「激ゆる採用」で集められたアルバイトの試験監督によって運営されるESAT-J試験。両者のあまりにもかけはなれた現実に、強行した東京都の教育行政のおぞましさがよくあらわれていると私は思います。かくして第1回目のESAT-J試験は予定通り終了しましたが、私たちが危惧していた問題が現実味を帯びてくるのはまさにこれからです。
住民監査請求の却下を受け、11月21日、私たちはESAT-Jが個人情報保護法制に違反するとの理由で東京都を相手に住民訴訟を起こしました。ESAT-Jの問題点を明らかにすることで、子どもたち一人権利と尊厳を第一に考える教育行政をつくっていきたいと考えています。