2022年2月、厚生労働省が昨年の出生数を84万2897人(速報値)と発表しました。20年と比較すると2万9786人(3.4%)減り、6年連続で過去最少を更新。とりわけ6年前に出生数100万人を割ってからの減り方は急激です。
一つには、新型コロナウイルスの感染拡大で婚姻数が減り、妊娠を控える動きが広がっていることも影響していると見ることができます。しかし、出生数の減少は新型コロナ禍以前から長期にわたって続いていますから、主たる理由は別のところにあると見るのが妥当でしょう。
そこで、出生数の減少に最も関係すると思われるのが「未婚化」と「晩婚化」です。総務省の「国勢調査」によると、たとえば30~34歳の男性の未婚率は、1985年の28.2%から2015年には47.1%に上昇しました。同時期の25~29歳の女性の未婚率は30.6%から61.3%に上昇しています。
この未婚化・晩婚化に影響を与えているのが、非正規雇用の増加にともなう若年層の貧困化といえます。17年度の「就業構造基本調査」によれば、30~34歳の男性で正規雇用労働者の未婚率が41%なのに対し、非正規雇用の場合は77.7%にも達します。非正規雇用で低賃金の若い男性が、結婚しにくくなっている状況なのは明らかでしょう。
非正規雇用の増加で若年層が貧困化し、未婚や晩婚につながっていることについてはさまざまに報じられていますので、すでにご存じの方も多いでしょう。さらに今回、私が注目したいのは、若い未婚者が親と同居する傾向が強まっていることです。
◆◆
総務省統計研修所の「親と同居の未婚者の最近の状況(2016年)」によれば、親と同居する壮年未婚者(35~44歳)は、1980年の39万人から2016年には288万人へと7倍以上に急増しています。同じく若年未婚者(20~34歳)は、817万人から908万人に増加しました。増加数は壮年未婚者よりもかなり少ないですが、そこには若年層人口の急減が影響しています。20~34歳の総人口に占める、親と同居している若年未婚者の割合は1980年の29.5%から2016年には45.8%まで急速に上昇し、親との同居が常態化していることが分かります。
この「親同居」率の高まりは、未婚化とは少し位相を異にしています。結婚には相手が必要ですが、親との別居は自分一人で判断・決定することが可能です。しかし親同居率の高まりと未婚化は、無関係ではない点も見ておく必要があります。結婚すると多くの場合には親と別居することになりますが、未婚原因のかなりの部分が「親との別居が困難なため」という可能性を考えなければいけないでしょう。
実際、現代の若者が親元から独立し、自分で家を借りることは容易ではありません。20年度の厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によれば、20代の正規雇用労働者の月平均賃金は21.5万〜24.9万円。対して非正規雇用は18.3万〜20.2万円となっています。
家賃については、全国賃貸管理ビジネス協会が定期的に全国の「家賃動向」を調査しています。それによれば、たとえば20年6月の全国の平均賃料は1カ月5万5057円です。つまり平均的な20代の若者の場合、正規雇用でも給料の20%以上、非正規雇用の場合は給料の30%近くが家賃で消えることになります。しかもこれは、税金や社会保険料などを差し引いていない「総支給額」を元にした計算です。実際に支給される、いわゆる「手取り額」で考えれば、家賃の占める割合はもっと高くなります。
これでは、若者の多くが親同居を選択するのも当たり前です。家賃を支払い続けることが困難、あるいはぎりぎりの生活になってしまうことは明らかなのですから、言わば「生活防衛」の手段として親同居を選んでいるのだと見ることができます。
◆◆
大学生や専門学校生についても、親同居の傾向は強まっています。こちらは、年々下がっている親からの仕送り額の推移からも、その状況が見えてきます。親は一向に上がらない賃金と学費の高騰で、子どもに仕送りをすることが困難となっています。子どもはアルバイトなどで生活費を稼がねばならず、よって自宅外通学を選ぶ学生は年々減少し、自宅通学者が増えているのです。
経済的なひっ迫が主たる原因ですから、「親同居」する若者を責めるのは不適切です。しかし、この若者の親同居が、さまざまな問題を生み出していることについては注意する必要があります。
まずは、親による子どもへの介入や監視が強まったということです。家庭による差はありますが、実際に学生たちに接していると、授業科目やゼミの選択に親が口を出したり、門限を決められてゼミのコンパ中も親から電話がかかってきたり、学生自身が決めてきた就職先を親が無理やり変えさせたりなど、私が学生であった1980年代にはそれほど見かけなかったと思われることが近年は日常的に見かけられるようになりました。
私の時代もすべての学生が自宅外通学だったわけではなく、自宅から大学に通う学生も大勢いました。しかし親元から離れて下宿し、自宅外から通学する学生の存在は、自宅から通う学生のみならず、親たちの意識や当時の社会意識にも一定以上の影響を与えていたように思えます。すなわち、学生を親から精神的に独立した「大人」として扱おうとする雰囲気です。80年代、この点で「高校生」と「大学生」に比較的明確な境界が存在していたことを、その境界が極めて曖昧となっている現在の大学生と接していて、より印象深く思い出すようになりました。
そして親による介入や監視が行われることは、子どもたちの「生活の自由」を抑圧することに加えて、学生が「大人」の仲間となるために自立し、成長する機会を奪っているという点でも問題です。
◆◆