核兵器は非人道的な兵器であるとしてその開発、保有、使用などを全面的に禁止し、廃絶を定めた条約。2017年に国連で採択された。1968年の核不拡散条約(NPT)が米ロ英仏中5カ国の核保有を認めているのに対して、核兵器禁止条約はいかなる国にもいかなる状況下でも核兵器を全面的に禁じている。
成立の経緯は、2010年に赤十字国際委員会が核兵器は国際人道法に反するとの声明を出したことに端を発する。以来オーストリアやメキシコなどの国々が核兵器の非人道性に関して共同声明を発したり国際会議を開催したりするなど運動を展開した。これら諸国政府と国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」が連携し、広島・長崎の原爆や世界中の核実験による被害について、また今日核戦争が起きた場合の世界的影響について議論を喚起した。そして2016年の国連作業部会での議論と国連総会決議を踏まえ、17年3月から条約交渉会議が国連本部でコスタリカ大使を議長として行われ、7月に賛成122カ国で採択された。同年末、ICANはその貢献が評価されノーベル平和賞を受賞した。
条約は前文で、被爆者(hibakusha)や核実験被害者らの「受け入れがたい苦痛」に言及しつつ、いかなる核兵器の使用も国際人道法に反するとしている。第1条では核兵器の開発、保有、使用、威嚇、配備などをいかなる状況下でも禁止するとし、他国によるこれらの行為を援助・奨励することも禁じている。第4条では、核兵器を保有する国や保有していた国が条約に加わった場合に、国際的な検証下で、不可逆的に(再び保有できないように)廃棄することを定めている。第6条では、核兵器の使用・実験の被害者に対する援助や汚染された環境を回復する義務を定めている。
この条約は、50カ国が批准した後に発効する(2019年11月末現在、34カ国が批准)。発効後の締約国会議で、核兵器廃棄の道筋の詳細などが話し合われることとなっている。
今日核兵器を保有する9カ国(NPT上の5核保有国のほかイスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮)はいずれも、この条約に加わる意思を見せていない。とりわけNPT上の5カ国は条約への反対姿勢を鮮明にしている。また、北大西洋条約機構(NATO)加盟国や日本、韓国、オーストラリアなど米国と軍事同盟条約を結ぶ国々(いわゆる「核の傘」下の国々)も、同様にこの条約に反対している。唯一の戦争被爆国である日本は、条約交渉にすら参加しなかった。その理由について日本政府は「米国の核抑止力が日本の安全保障に不可欠」であるからとしている。これに対して広島・長崎両市長や被爆者団体などは、日本の条約加入を繰り返し求めている。