2022年のノーベル賞6部門が、同年10月に発表され、同年12月10日にメダルなどが授与された。
医学生理学賞は、独マックス・プランク研究所のスバンテ・ペーボ教授に贈られた。人類学にDNA解析の手法を導入し、人類史の知見を塗り替えたことが評価された。ペーボ教授は、3万~4万年前に絶滅した旧人であるネアンデルタール人の骨からDNAを抽出し、現生人類との間で一部交配があったことを発見した。また、出土した骨のDNAを解析して、未知の旧人を発見し、「デニソワ人」と名付けた。旧人から受け継いだ遺伝子が新型コロナウイルス感染症の重症化に影響を及ぼしているとの研究結果も発表している。沖縄科学技術大学院大学の客員教授も兼任している。
物理学賞は、仏パリ・サクレー大のアラン・アスペ教授、米J・F・クラウザー&アソシエイツ研究員のジョン・クラウザー博士、オーストリア・ウィーン大のアントン・ツァイリンガー教授の3氏に贈られた。アインシュタインも疑った「量子もつれ」と呼ばれる量子力学に特有の現象を実験によって立証。量子力学の正しさを明らかにし、量子コンピューターなどの技術の土台となる量子情報科学を切り開いたことが評価された。
化学賞は、米スタンフォード大のキャロライン・ベルトッツィ教授、デンマーク・コペンハーゲン大のモーテン・メルダル教授、米スクリプス研究所のバリー・シャープレス教授の3氏に贈られた。簡単な化学反応によって分子を効率的に合成する「クリックケミストリー」と呼ばれる手法を開発したことが評価された。この手法は、抗がん剤や抗HIV薬などの開発に応用されている。シャープレス教授は2001年に続く2回目の化学賞受賞となった。
文学賞はフランスの作家、アニー・エルノーに贈られた。勇気と冷静さをもって個人の記憶や疎外、集団的な抑圧を描いたことが評価された。フランス北部ノルマンディー地方に生まれ、1974年に作家デビュー。自らの人生を題材にした『場所』『ある女』などの作品を通して、ジェンダーや階級の問題に切り込んだ。妊娠中絶が違法だった時代の中絶体験を描いた『事件』は映画化され、2021年のベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞。日本でも『あのこと』というタイトルで2022年12月に公開された。
平和賞は、ベラルーシの人権活動家アレシ・ビャリャツキ、ウクライナの人権団体「市民自由センター(CCL)」、ロシアの人権団体「メモリアル」に贈られた。権力を批判し、市民の基本的人権を守ることを推進し、人権侵害を記録するために努力したことが授賞理由。ビャリャツキはベラルーシで人権団体を結成し、同国のルカシェンコ大統領への抗議行動で逮捕された人々の権利擁護などに奔走したが、2021年7月以来、拘束されている。「メモリアル」は1987年にスターリン時代の犠牲者を記録する資料センターとして設立されたが、その後、政治犯の取り扱いやロシア軍の戦争犯罪などの調査も行うようになった。2021年12月、ロシア最高裁から解散を命じられた。「市民自由センター」は2007年にウクライナの人権状況の改善と民主化を目的に設立された。2022年2月のロシア軍のウクライナ侵攻以降は、ロシア軍の戦争犯罪を記録する取り組みを進めている。
経済学賞は、米連邦準備制度理事会(FRB)のベン・バーナンキ元議長と、米シカゴ大のダグラス・ダイヤモンド教授、米セントルイス・ワシントン大のフィリップ・ディビグ教授の3氏に贈られた。1930年代の世界恐慌などを分析し、銀行の破綻が金融危機につながるメカニズムを解明したことが評価された。1980年代にこうした研究を行っていたバーナンキは、2006年から14年までFRB議長を務め、08年のリーマンショックでは研究成果を政策に反映させた。
ノーベル賞平和賞の授賞式はノルウェーのオスロで、それ以外の賞の授賞式はスウェーデンのストックホルムで、それぞれ12月10日に行われた。