インターネット上、特にX(旧Twitter)やInstagram、TikTokなどのSNSで、多くのユーザーによって模倣され形を変えながら、テンプレート化して広がる画像や動画、言い回しのこと。
話題の「猫ミーム動画」を例にとるならば、まず一人の動画の作成者が、猫を映した動画から切り取った素材で、日常生活で体験した “クスッと笑えるエピソードを紹介する動画”や“腹の立った出来事を紹介する動画”を作成し、SNSに投稿する。
すると、喜怒哀楽を猫の動画素材で表現したり、猫がセリフを話しているように文字を配置したりといった、その動画にある既存のアイデアや表現の型が模倣され、次々と別の作成者によって換骨奪胎されながら新たな投稿が繰り返されていく。
このように、すでにテンプレート化している元の素材、そしてそれを用いて次々と生み出されるコンテンツのことをインターネット・ミームと呼ぶ。
ミーム(meme)とはもともと、生物学者リチャード・ドーキンスが1976年に出版した『利己的な遺伝子』で提唱した造語である。ドーキンスはミームをコピーや模倣によって人から人へと受け継がれる、遺伝子に類似した小さな文化的構成要素と定義した。ミームの例には、メロディ、キャッチフレーズ、服装の流行などの具体的なものから、抽象的な観念や信念、宗教までが含まれる。遺伝子と同様に、ミームもまた、競争や淘汰を受け、環境に適応したミームだけがうまく広まり、他のミームは絶滅する。ミームという言葉は、遺伝子geneに対応させてmemeとした。これは、ギリシャ語で模倣を意味するmimemeを縮めたものである。この定義がネット文化に応用されたと考えられている。
インターネット・ミームの爆発的な広がりは、現実に社会問題を引き起こすこともある。
2023年には、「バーベンハイマー」というSNS上でのムーブメントが日本で物議をかもした。米国では同日公開の映画、『バービー』と『オッペンハイマー』の両作をまとめて鑑賞しようと盛り上がりを見せ、原爆を想起させる炎をバックにしてオッペンハイマーの肩に乗るバービーや、キノコ雲をバービーの髪型とコラージュして表現するといったミーム画像が次々に作られ拡散された。映画『バービー』の公式アカウントは、そうした投稿に「忘れられない夏になりそう」とハートの絵文字を添えて返信するなどした。こうした対応に、被爆国の日本では批判の声が上がり、配給元の米ワーナー・ブラザーズが公式に謝罪コメントを出すに至った。
さらに、2016年の米大統領選挙期間中には「カエルのぺぺ」騒動がおこった。
「カエルのぺぺ」は、アメリカの漫画家マット・フューリー氏のマンガ作品『ボーイズ・クラブ』に登場する、政治とは無縁な擬人化されたカエルのキャラクターである。主に悲しみの感情を表現するミーム画像として一部のネットユーザーの間で用いられていた。
ところが、2015年頃からはナチスの格好をさせられたり人種差別的な発言を加えられたりするなど、悪意や憎悪を反映したミーム画像へと変化しネット上で拡散された。
そして2016年の選挙期間中には、トランプ氏を模した「ぺぺ」が出回り、トランプ氏が自身のTwitter(現X)でそれをリツイートしたことでトランプ支持のシンボルとなる。それに対して、ヒラリー・クリントン陣営が公式に「ぺぺ」を白人至上主義者のシンボルだとして批判。主要メディアがそれを取り上げるなど社会的に注目を集め、1913年に設立された米国の反ヘイト団体であるADL(名誉毀損防止同盟)から「カエルのぺぺ」はナチスの鉤十字と同等の扱いである“ヘイトシンボル”として指定される事態となった。
インターネット・ミームは、ますます身近なものとして浸透してきている。そして時にその影響は、ネット上のエンタメとして消費されるだけにとどまらず、現実の政治や社会にまで及ぶこともある。