都市部(アーバン:urban)の市街地周辺の森林を、日常の行動圏として、または一時的に利用し、市街地周辺で目撃されたり、時に市街地内部にまで侵入する、もしくは侵入する可能性のあるクマ類(日本ではツキノワグマおよびヒグマ)のこと。
2000年代以降、人の生活圏の中でも森林に近くクマ類にとって魅力的な食べ物がある農村部などだけでなく、都市近郊の緑の多い住宅地や都市内部にまでクマ類が侵入し、人の安全を脅かすという事例が北海道や本州の各地で発生するようになった。
アーバン・ベアの出現は、クマ類の個体数や分布の変化、行動の変化だけでなく、人間社会の土地利用の変化や街づくりとも関係している。
近世以降1990年代に至るまでは、人間の生活圏拡大に伴う平野部の開発、森林環境の劣化や分断、さらにクマ類の過剰な駆除等の影響により、クマ類の個体数は減少を続け、地域ごとにまとまりのある集団(地域個体群)が各地で孤立化し、地域個体群単位での絶滅が危惧されるようになった。
これを受けて1990年代以降、地域個体群の保全と、クマ類による各種被害(人身被害、農業被害、人の生活圏への侵入被害等)の軽減という2つの課題の両立を目指した管理が行われるようになった。クマ類の生息地である森林内での積極的な捕獲が抑制された結果、北海道と本州のほとんどの地域で個体数が増加し、生息分布が拡大。農村部だけでなく都市部に隣接する森林など人の生活圏周辺にクマ類が定着し、冬眠、繁殖するようになった。さらに人の生活圏周辺で生まれたクマは、生まれながらに人や車の気配や人間社会の喧騒が身近な環境の中で育ち、また人に追われた経験がないため、人への警戒心が低い個体も現れるようになった。
同時期に人間社会も変化した。クマ類が個体数を減らし分布を縮小した時代に、都市周縁部の新興住宅地は森林の間際にまで拡大した。こういった地域の住民は、農村部とは異なり、クマ類と身近に接した経験やクマ類への対処法といった知識を持たない。背後の森にクマ類が身近に存在するようになることのリスクを想定しないまま、豊かな自然環境に囲まれつつ都市の方を向いて暮らすようになった。
さらに1990年代以降、生物多様性保全が世界的な課題となり、日本でも国家戦略を立ててその実行にあたっている。特に都市部におけ る生物多様性保全を進めるため、森林と都市を「緑の回廊」でつなぐ生態系ネットワークの構築が施策として進められてきた。森から都市に向けて伸びる尾根、 豊かな森林に源流を持ち中流部や下流部に発達した都市に向けて流れる河川に沿った河畔林や河岸段丘斜面緑地が生態系ネットワークとして機能するようになると、小鳥類や小動物だけでなくクマ類までも、この緑地を辿って都市の中に迷い込むようになった。
この生態系ネットワークを通じた人間にとって不都合な都市への侵入は、クマ類に限ったことではない。北海道ではニホンジカが、また本州ではそれに加えてイノシシやニホンザルなどの大型野生動物もまた都市に迷い込み、市民生活に不安を与えている他、交通事故や食害や人身被害などをもたらしている。また外来種の分布拡大にも貢献している。
生物多様性保全は重要な課題であることは間違いないが、これら大型野生動物の都市への侵入は様々な被害をもたらす可能性がある。そうした被害から地域住民を守ることは行政としての責務であろう。侵入ルートの遮断、侵入時の緊急対応体制の構築、地域住民への速やかな周知など平時からの備えが不可欠である。特に侵入ルートの遮断については、生物多様性地域戦略やまちづくり計画の策定の中でもあらかじめ考慮しておくべき点であり、鳥獣保護管理行政の枠を超えた部局間連携が求められる。
鳥獣保護管理行政としては、都市周辺に警戒心の薄いクマ類が定着・繁殖している状況を放置することは、偶然の侵入を招きやすく、人身被害などが発生するリスクが高い。捕獲を通じて生息密度を低減させたり、個体の定着を抑制したりすることで、地域住民がクマ類に遭遇する機会を減らす対策も必要となる。
また地域住民はクマ類がもたらす危機に備え、クマ類の生態や対処法に関する知識を身につけ、クマ類を誘引しかねない生ゴミや、家庭菜園・庭木の果樹などを確実に管理するほか、地域コミュニティが共同で、地域の草刈りや柵の設置などを行って侵入ルートを遮断し、個人や地域の脆弱性を改善することも求められる。
クマ類のアーバン・ベア化は決して望ましい状態ではない。アーバン・ベア化させないように、「ゾーニング管理」(すみわけ)という考えのもと、クマ類の生息地と人の生活圏を明確に区分し、その境界部分におけるクマ類の管理を徹底することで、すみわけによる新たな共存関係を構築することが望まれる。