性に関する「エビデンス」は難しい
――メディアにあふれる様々な性の情報の中には「本当なのだろうか?」と疑問に思うようなものもあります。私たちはどのような点に注意しながら情報に接していくとよいと思われますか。
小堀 ネットやメディアで喧伝される性情報で「エビデンス」とされているものの中には、「確かにそうかもしれない」と思えるものもあれば、話題づくり先行と感じられることも少なくありません。
たとえば、「赤ん坊の泣き声を聞くと男性ホルモンの値が下がる」という研究結果をピックアップして、「イクメンは男の能力を下げる」という男性週刊誌の記事のエビデンスに使ったり、70代で子どもを授かった男性の例を挙げて「精子は生涯現役」などと謳ったりすることがあります。「エビデンス」自体は間違いではなくても、「イクメンは男の能力を下げる」「精子は生涯現役」と主張したいがために、意図的にそれに沿ったデータを選別して、「エビデンスがある」と言っているようなところもありますね。
そもそも、医学界で常識とされているようなものは別として、ある研究結果だけを取り上げて「エビデンスだ」と言うのには無理があります。特に性に関する医学研究では、なかなか信頼に足るエビデンスを得にくく、たとえば男性不妊症では「なぜそうなのか」ということはほとんど解明されていません。不妊治療は男性だけではなく妻側の因子も大きいですから、なぜ妊娠できたのか、なぜ妊娠しないのか、治療との因果関係を証明することが非常に難しいんです。
性情報に振り回されないために
――エビデンスがあるからといってメディアの情報を鵜呑みにはできないということですね。男性が自分の性やからだについて正しい知識を得にくいのが現実とすると、それによってどのような問題が生じているのでしょうか?
小堀 先ほど、「特に意識しないでも困らない」と言いましたが、そう思っているのは本人だけということもあります。
たとえば、正しいマスターベーションのやり方を知らないと、男性不妊の主な原因のひとつである「腟内射精障害」につながる「床オナ」が習慣になってしまったりするのですが、これは今、不妊治療の現場で大きな問題になっています。また、感染者が多いクラミジアや近年急増している梅毒のリスクから身を守るには、正しい性病の知識が不可欠です。
やはり「知らなくても生きていける」というのではなく、男性は自分の生殖機能についてもっと意識を高めることが必要と言えます。また女性にとっても、男性のからだの仕組みを知ることでパートナーに対する理解が深まるはずです。
女性が思春期から更年期、老年期とからだが変化していくように、男性も年齢と共に心身の状態は変わっていきます。信頼できる情報を元に、必要なときは専門家のアドバイスを受けながら、正しい性やからだの基本的知識を身につけていってほしいですね。
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停留精巣
陰嚢(おちんちんの下のふくろ)の中に精巣(睾丸)が入ってない状態。
「腟内射精障害」
マスターベーションでは射精できるが、腟内では射精できない状態。
「床オナ」
手を使わずに、床や畳にペニスをこすりつけるオナニー(マスターベーション)のこと。