LOH症候群の診断は、テストステロンの値を血液検査で測定するとともに、「AMSスコア」という問診票を使い、当てはまる症状が多ければLOH症候群の可能性があるということで、治療を検討します。テストステロンは低くないのに、症状はあるというケースも見られ、なかなか一概には言えないのですが、テストステロンを補充することで劇的に症状が改善されることがあります。気になる症状があるなら、LOH症候群に詳しい医療機関に相談するとよいでしょう。
テストステロンが下がる意外な原因のひとつに、年齢不相応にハードな運動があります。ジョギングでいうと月200キロメートル以上走る中高年ランナーは要注意です。月間走行距離が増えれば増えるほど、テストステロンが低下し、健康被害のリスクが高まります。ハードなトレーニングの結果、タイムは良くなったけど、貧血になった、以前より疲れやすくなった、早朝勃起(朝立ち)がなくなったなどの症状が出てきた、という男性を診察する機会が多くなりました。まずはトレーニングを少し控えめにして、テストステロンの補充を行うと比較的短期間で症状が改善されていきます。
60代以降から増えてくる前立腺のトラブル
「前立腺肥大症」は高齢男性に起こる病気です。前立腺は男性にしかない生殖器で、膀胱(ぼうこう)のすぐ下にあります。なぜ高齢になると前立腺が大きくなるのか、原因はよくわかっていませんが、前立腺が大きくなることで尿道を圧迫し、尿の出が悪くなる、頻尿や残尿感などさまざまな尿トラブルを引き起こします。前立腺肥大症によって頻尿になっている場合、頻尿を改善させるための市販薬を飲んだりすると、さらに尿が出にくくなって、頻尿の症状も悪化してしまうこともあります。自己判断で薬やサプリメントに頼らず、まずは泌尿器科を受診し、原因を突き止めて、その治療をすることが先決です。
実は前立腺が大きくなっているけれども気がついていない、という人も大勢います。女性の子宮筋腫と同じで、前立腺の肥大の度合いよりも、肥大する位置によって症状の出方が変わってくるからです。前立腺が大きくなっても、尿道への影響が少ない位置での肥大なら症状は出ませんし、逆にそれほど大きくなっていなくても、尿道を非常に圧迫する形で肥大していれば、症状は強く出ます。ですから、治療するかどうかは、前立腺肥大症の有無よりも、排尿症状があって困っているかどうか、どれくらい困っているのかが基準になります。軽度〜中度では薬物療法が基本です。
「前立腺がん」も高齢者に多い病気で、90歳以上の男性のほとんどは前立腺がんをもっていると言われています。前立腺がんの初期は自覚症状がなく、がんが進行すると、前立腺肥大症に似た尿のトラブルや骨への転移による腰痛など痛みの症状が出てきます。
今、前立腺がんは年々増えていて、日本の男性が罹患するがんでは患者数第1位です。一方、死亡数で見ると6位に下がります。治療方法はさまざまな選択肢があり、予後が比較的良いがんでもあります。進行が遅めなので、悪性度がそれほど高くないなどのケースでは、前立腺がんと診断してもすぐに治療を開始せず、経過観察を続けるという選択をすることもあります。
前立腺がんを見つけるには、前立腺上皮細胞で産生されるPSA(前立腺特異抗原)の値を調べる血液検査を受けます。PSAの数値が高ければ前立腺がんの疑いがあるということで、前立腺生検(前立腺の組織を採取する検査)でがん細胞の有無を調べます。前立腺がんは、早期がんで治療を始めても、がんがある程度進んだ状態で見つかってから治療しても、予後はあまり変わりません(病期Ⅰ~Ⅲ期の5年生存率は100%) 。骨などに転移した状態で見つかった進行がんの場合でも、長期に生存される方が珍しくありません(病期Ⅳ期の5年生存率は63.4%)。そうしたことから、検診として毎年PSA検査を必ず受けるべきかどうかについては、専門家の間でも賛否両論があります。私自身は、50代の男性は2年に1回もしくはオプションの検査(希望する人だけが受ける検査)で、60~70代の男性は1年に1回、80代以上は2年に1回もしくはオプションの検査で受けるというぐらいでもよいのではないかと考えています。もちろん、PSAが高値の方は、もっと短い間隔で定期的に泌尿器科でPSAを調べる必要があります。
おわりに~年齢を問わず、日頃のチェックで早めの受診を