すごく寒い日だったのに、結局2時間くらい続いてね。
松尾 その一方で、予測していたように、最初メディアはほとんど来ていなかったんです。「ここであきらめるんじゃなくて、声を上げ続ければいいよ」という話を私たちはしていたんですけど。でも、1回目のフラワーデモが朝日新聞で取り上げられたこともあって、2回目からは一気に参加者も、メディアの数も増えました。5月以降、毎月11日に実施していますが、東京だけではなくて各地で「私たちもやりたい」という人たちが立ち上がってくれて。今は、名古屋や大阪や鹿児島や、日本全国にフラワーデモが広がっています。
男性にとっての「#MeToo」
雨宮 6月には、福岡でのフラワーデモにも行かれたんでしょう? さっき、福岡は「男尊女卑の牙城みたいな場所」とおっしゃっていましたが、どうでしたか。
松尾 実は私自身は、福岡でフラワーデモなんて、まだまだ無理! 今は絶対あり得ない、と思っていたんです。それが、2回目の5月に、「福岡でもやりたい」と手を挙げ、開催してくださった地元の方がいて。
当然ながら、福岡にもずっと、性暴力被害者支援などの活動をずっと続けてこられていた方たちがいるんですよね。デモを通じて、そういう女性たちともたくさん知り合えて、本当によかったと思いました。私が福岡時代に感じていた違和感についても話して、「そうだよね」と共感してもらったり。あと、印象深いことがあったんです。滞在中に聞いたある男性の発言なんですけど。
雨宮 男性ですか。
松尾 フラワーデモに来る男性は、「今までこんな事実は知りませんでした」とか「僕らも応援します」とか、まだまだ他人事な発言をされる方がほとんどなんですね。でも、その70歳くらいの男性が話してくれたのは、まさに自分自身のお話だったんです。その方は、現役の頃、職場の飲み会に出ると、そのあとはみんなで必ず性風俗に行くのがお決まりの流れになっていたというんですね。そこで「私は行きません」と言うことは、男性社会からパージされるということ。だから自分は「行きません」とは言えなかったし、毎回一緒に行っていた。でも、本当は行きたくなかった。心が引き裂かれて、ずっと辛かったんだ、とおっしゃっていました。
雨宮 うわあ……なんだか、日本の男社会の象徴みたいな話ですね。「職場の付き合い」のために、引き裂かれながら性風俗にも行って、傷つきながら妻子を養っていた、みたいな。あまりにつらすぎるし、誰も幸せじゃない。それにしても、世代的にも、弱音を吐くのなんて男らしくない、という教育を受けているだろうに、よくそんなにストレートに話をしてくれましたね。
松尾 そうなんですよ。よく言ってくれたなと思って。男性にとっての#MeTooってこういうことなんじゃないか、そういう発言をもっと聞きたいな、と思いました。
ウーマンリブから「フラワーデモ」へ
雨宮 5月以降の東京でのフラワーデモって、松尾さんたち最初の主催メンバーは他の都市に行っていたりして不在だったでしょう。でも、その場にいる人たちが、それぞれ自分たちのやり方でつくり上げているという感じがして、すごくよかったですよ。これまでの市民運動って、最初に声を上げたのが女性であっても、途中から年配男性の運動家が入ってきて「そんなやり方じゃダメだ」みたいに仕切り始めて、ということがよくあったと思うんです。フラワーデモは全然そうではなくて、ずっと女性が主体になっている。それってすごいなと思いました。ある意味で、戦後の日本の運動で初めてのケースではないかという気もしています。
松尾 そうですね…….。大先輩のフェミニストが、フラワーデモは当時のウーマンリブの空気と似ている、という話をしてくださって。ウーマンリブの運動の中では、女性たちが「いかに自分たちが差別構造の中で抑圧されてきたか」ということを語り合って意識を高めていく、同時に自分の内なる差別意識にも気づいていくという、CR(Consciousness Raising : グループ討論により意識改革・意識高揚をめざす運動形態)という手法が取られていたんですね。このCRと、シスターフッド(女性同士の連帯)が、ウーマンリブの二大柱になっていた。今、フラワーデモで起こっていることはまさにそれだよね、と言ってもらえたんです。
雨宮 ここ2年くらい、以前は「フェミなんて大嫌い」と言っていたような女友達が、「やっぱり私、フェミになるわ」と言い出すということが続いているんです。きっかけは伊藤詩織さんの事件 (元TBS記者の山口敬之氏から意識を失った状態で性行為を強要されたと訴えている)とかいろいろですけど、かつては「フェミニスト」イコール「清く正しく高学歴でなくてはいけない」、だから自分にはフェミニストの資格がない、と思っていたような人たちが、次々に「フェミニスト宣言」をし始めていて。それはやっぱり#MeTooが広まって、たくさんの人たちが自分の経験を語り始めたからこそだと思って。「語る」「経験を共有する」というのは、本当にフェミニズムの基本だなあ、と思います。
松尾 はい、本当にそう思います。先ほど「90年代サブカル」の話をしましたけど、ああいう「何でもあり」「ひどいことをやったほうが勝ち」みたいな空気の中で、日本のフェミニズムも見えづらくなってしまっていた側面があるかもしれません。でもその前からもその頃も、ずっと声を上げ続けてきた人はいたわけです。それを再び「更地」に戻さないためにも、声を上げることは絶対にやめてはいけないと思っています。今、フェミニズムに注目が集まっているのは「一時的なブームに過ぎない」とか揶揄されることがありますが、その「ブーム」が終わってからも声を上げ続けていけるかどうかが大事なんじゃないでしょうか。
『エトセトラ』とフラワーデモの今後
雨宮 では、最後に今後の話を。『エトセトラ』は今後、どのくらいのペースで出していく予定ですか?
松尾 年間2冊、春と秋に出していく予定です。