これは「サプライチェーン・マネジメント」の失敗例だ。サプライチェーン・マネジメントは、その名の通りサプライチェーンを効率的に運用するためのノウハウのこと。企業が原材料を調達、商品を生産して、消費者に供給(サプライ)するまでの「鎖」のような過程を示すサプライチェーン。売り上げや利益に直結、消費者の信頼も左右することから、サプライチェーン・マネジメントは、企業経営の重要な要素となっている。
原材料調達や部品調達というサプライチェーンの「入り口」では、品質や価格に加えて、どの程度の量を手元に置いておくかという「在庫管理」が重要なポイントとなる。コスト面を考えれば、注文が来た段階で原材料を調達、在庫を持たないのが理想だが、調達に時間がかかる場合などでは、間に合わずに生産が止まる恐れもある。これらの要素を総合的に調整するのがサプライチェーン・マネジメントであり、これに失敗すると、カレーという「商品」を作ろうと思ったら、「主要部品」であるルーを調達ができず、カレーが食べられないという情けないことになってしまうのだ。
調達先の選定もサプライチェーン・マネジメントの重要課題だ。品質や価格面で優れている調達先に集中させるのが効率的だが、何らかの理由で調達が不能になった場合、たちまち生産がストップしてしまう。こうした事態を避けるために、調達先のバックアップを作っておくこともサプライチェーン・マネジメントの課題の一つ。なじみの1店舗だけでなく、代わりの商店を見つけておけばカレーが食べられたはずであり、筆者のサプライチェーン・マネジメントは、ここでも失敗したことになる。
サプライチェーン・マネジメントは、供給の出口でも重要な役割を担う。需要を的確に把握、必要なものを必要なだけ供給できるルートを構築、販売現場での過剰な在庫や品切れを防ぐことが求められる。カレーのルーを品切れにしていたのは、近所の商店がサプライチェーン・マネジメントに失敗していたことの現れであり、筆者にカレーのルーを売りそこなうというビジネスチャンスの喪失を生んでいたのである。
近年、経済の国際化とIT化によって、サプライチェーン・マネジメントは一層高度化した。在庫をぎりぎりまで圧縮、国境を越えて調達先を厳選することで、企業は大きな利益を上げてきた。
しかし、その弱さを露呈したのが東日本大震災だ。部品調達ができずに自動車メーカーの生産がストップするなど、影響は全世界に及んだ。調達先の一極集中が招いた事態であり、世界中の人がカレーのルーの調達を1社に頼っていたため、その1社の生産がストップしたことで、カレーを食べられなくなってしまったわけだ。
サプライチェーン・マネジメントは企業活動の生命線である。これが適切に実行されるかどうかは、企業の生産活動のみならず、人々の生活にも大きな影響を及ぼす。「カレーが食べられない!」という事態を避けるために、サプライチェーン・マネジメントのさらなる進化が求められている。