自前での戦力強化にこだわるのか、外部から助っ人を呼んでくるのか……。日本の製造業も同様の決断を迫られている。「垂直統合」か「水平分業」かの選択だ。
製品開発から部品の製造、組み立てにいたるまで、自社で一貫生産するのが垂直統合。全てを自社で賄うことから利益も大きく、社員の士気や忠誠心も向上する。生え抜きの選手たちが一丸となって戦うのが、垂直統合といえる。
しかし、近年は垂直統合から、水平分業に切り替える動きが広がっている。水平分業は、生産プロセスを、それぞれに秀でた外部企業に委託、これらを下請け会社で組み合わせて製品化する戦略で、コスト削減に加えて、市場の変化に柔軟に対応できる利点を持つ。4番打者が不調なら、チーム内で代わりを探すのではなく、他のチームから強打者を引き抜いて、戦力アップを図るという方法だ。
水平分業で躍進したのがアメリカのアップル社。液晶や半導体などの部品は、その時点で最も優れたものを世界中から調達、これらを組み立てて製品化している。自社が担うのはわずかな部分だが、圧倒的な製品力で市場を支配している。自前にこだわらず、世界中から実力のある助っ人を集めることで、アップルは最強チームを作り上げた。
成績が落ちた選手はすぐに解雇し、新しい選手を補充するというドライな側面を持つことから、水平分業型の経営は日本の企業風土にはなかなかなじまなかった。しかし、エレクトロニクス分野を中心に水平分業型の企業が躍進すると、垂直統合にこだわってきた日本企業は苦境に立たされる。こうした事態を受けて水平分業へ方針を転換し、海外企業との思い切った提携など、助っ人探しに奔走する日本企業が増えているのである。
近年、垂直統合から水平分業にかじを切った企業の代表がソニーだ。テレビの液晶パネルを、他社からの供給に頼る一方で、「VAIO」ブランドで一時代を画したパソコン事業を、赤字を理由に売却する。4番打者に外部からの助っ人を据え、生え抜きの名選手を解雇する戦略に出たのだ。
しかし、水平統合にも欠点はある。外部戦力に頼ることからノウハウが蓄積されず、社員の忠誠心や一体感も希薄になる。垂直統合型の企業に比べて経営基盤が弱く、瞬く間に消える企業も多いことから、トヨタ自動車のように垂直統合の経営にこだわり続ける企業も少なくない。
「ソニーらしさがなくなった」。大慌てで水平分業を進めるソニーに失望する人は多い。明確なビジョンを欠いた水平分業は、経営危機を拡大しかねないのである。