これが「裁定取引」だ。裁定取引とは、価格差を利用して利益を得ようとすること。同じ商品であれば、一物一価の原則から価格も同じになるはずだ。ところが、取引されている市場が異なる場合などは、価格差が生じていることがある。裁定取引はここに注目、「安く買って高く売る」ことで利ザヤを稼ごうとする。
「売り」と「買い」をほぼ同時に実行することで元手が少なくても実行可能で、リスクも低いのが裁定取引の特徴だ。同じ週刊誌であるにもかかわらず、日本と海外という異なった市場での取引価格に差がある。そこで、売買を同時に実行することで、確実に利益を手にできる「儲け話」が裁定取引なのである。
裁定取引の中でも広く知られるのが「金利裁定取引」だ。金利は「お金の価格」だが、その水準は各国によって大きく異なっている。
金利水準が1%のA国と3%のB国があると仮定しよう。この場合、A国でお金を借りてB国で預金をすれば、自動的に2%の利ザヤを得ることができる。そこで、裁定取引が活発になり、A国からB国に大量の資金が流入する。この際、A国で借りたお金をB国の預金などで運用するには、A国の通貨を売ってB国の通貨を買う必要があるから、B国の為替相場は上昇圧力を受ける。
たとえば「日米の金利差が拡大したことで、円安・ドル高になった」といった動きは、金利裁定取引がもたらしたもの。金利の低い日本との金利差の拡大が、アメリカでお金を運用することをより有利にさせ、金利裁定取引に伴う円売り・ドル買いが強まるというわけだ。こうした国際間の金利裁定取引はキャリー取引(キャリートレード)とも呼ばれる。
裁定取引は株式市場でも行われている。株式市場には通常の売買である「現物市場」と、3カ月、6カ月先などに実際の売買が行われる「先物市場」がある。取引手数料などを除けば、現物価格と先物価格は同じになるはずだが、一時的に価格差が生じていることがある。株式トレーダーはこれを敏感に察知、「現物市場で買って、先物市場で売る」といった裁定取引で、利ザヤを稼いでいる。
裁定取引は「一物一価の原則」が崩れて価格差が生じるわずかなチャンスを狙って行われるもの。知人が行っている週刊誌の裁定取引も、専門業者が参入し大規模に行えば、競争原理が働いて海外での販売価格が下落、価格差は解消されてしまう。多くの投資家が取引を行っている金融市場では、少しでも価格差があれば裁定取引が殺到し、「儲け話」は瞬く間に消えてしまうはずだ。
ところが、現実には裁定取引が十分に行われず、価格差が放置されていることも少なくない。これは、裁定取引が不完全で、リスクが残されているため。金利裁定取引も、為替相場の変動というリスクが残ることから、二つの国の金利が同じになるまで続けられることになる。
価格差を素早く探し出す情報力と実行力が成否を左右する裁定取引においては、残り物に福はない。デリバティブを駆使した高度な裁定取引も、その存在が知られた途端に妙味は薄れてしまうのだ。週刊誌をこっそり売買している知人のように、微妙な価格差を探し出し、人知れず行うのが本当の裁定取引なのである。