「新電力」とは、2016年の電力自由化によって地域大手電力会社の他に設立できるようになった小売電気事業者のことで、そのうち、自治体や市民が主体となった事業者を「地域新電力」と呼ぶ。
大手電力会社が発電・送配電・小売を独占的に供給する旧来の仕組みは、競争原理が働かないため、情報が不透明で、設備の無駄や価格の高止まりなどが懸念されるものだった。そのため、1990年代以降、世界的に電力改革が進み、巨大発電システムから分散型発電システムへ、一社独占から複数会社の自由競争(電力自由化)へという大きな流れとなった。
日本でも、電力自由化は、1995年の電気事業法改正以降、徐々に進み、2016年4月の電力小売自由化を経て、20年4月からは発電事業者が送配電事業を営むことが禁止された。大手電力会社がもつ送配電部門は分社化され(法的分離)、送配電網は電力広域的運営推進機関(OCCTO)が全国一体で管理する。これにより、大手電力会社と新電力の競争がより公正に行われるようになった。
新電力は自ら発電したり、あるいは発電事業者と契約したりして電力を販売する。16年の電力小売自由化以降、大手ガス会社から石油会社、携帯電話、私鉄、IT企業まで、あらゆる分野の企業が参入し、600社以上の新電力が生まれている。そうした中には、地域のガス会社や生活協同組合、さらには自治体や市民団体が設立した地域新電力もある。
このうち、自治体が出資して設立したものを「自治体新電力」と呼ぶ。鳥取県米子市の「ローカルエナジー」、群馬県中之条町の「中之条パワー」、山形県の「やまがた新電力」など、全国で35社を数える。そのほとんどが、メガソーラーやバイオマスなど独自の電源を持ち、その電気を公的施設に供給している。
これに対して、地域の中小企業や市民団体が設立したものを「市民新電力」と呼ぶ。地域の企業が中心となったものとしては、小田原市(神奈川県)の「湘南電力」、八女市(福岡県)の「やめエネルギー」、鹿児島県の「太陽ガス」などがある。生協系では「パルシステムでんき」、「生活クラブエナジー」、「グリーンコープでんき」など。さらに、再生可能エネルギーの発電事業等を行う会社や市民団体が中心となって設立した「みんな電力」、「グリーンピープルズパワー」や、京都の僧侶たちがつくった「テラエナジー」など、そのあり方は多様である。
地域新電力の特徴は、おおむね地域資源である再生可能エネルギーの活用を重視していること。大手電力のように原発や石炭火力は使わず、地球温暖化問題や地域の環境や産業振興に配慮した事業者が多い。しかし再生可能エネルギーの発電量は気象によって変化するため、需給管理が難しい。そのため、送配電網への接続制限をはじめ、発電抑制など、制度的に様々な制約が課せられている。
また新電力は、契約した発電事業者から供給される電気だけではユーザーの需要を満たさない場合、不足分を電力小売市場から調達することになる。しかし発電と小売の間で電気を取引する電力小売市場の規模はまだ小さく、大手電力の発電部門が市場に電気を出さなければ価格が高止まりする恐れもある。発電と小売の完全な分離と、送配電部門が大手電力から法的に分離されるだけでなく、さらに所有権分離に進むことよって、公平で透明な需給管理が行われることが望まれる。
地域新電力
(市民電力連絡会理事長)
2020/06/26