2020年10月に発表され、同年12月10日にメダルなどが授与された、6部門のノーベル賞。
医学生理学賞は、米国立衛生研究所(NIH)のハーベイ・オルター名誉研究員、カナダ・アルバータ大学のマイケル・ホートン教授、米ロックフェラー大学のチャールズ・ライス教授の3人に贈られた。受賞理由は、肝臓がんなどを引き起こすウイルス性肝炎の原因として、A型、B型肝炎ウイルスとは異なる「C型肝炎ウイルス(HCV)」を発見し、感染した血液の輸血で肝炎が起きることを明らかにしたこと。検査法の確立や治療薬の開発につながった。
物理学賞は、英オックスフォード大学のロジャー・ペンローズ名誉教授、独マックス・プランク研究所のラインハルト・ゲンツェル博士、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校のアンドレア・ゲズ教授の3人に贈られた。ペンローズ名誉教授は一般相対性理論に基づいてブラックホールの存在を数学的に証明したこと、あとの2人は地球が属する銀河系の中心にブラックホールが存在することを観測によって発見したことが、それぞれ評価された。
化学賞は、米カリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ教授とフランス出身で独マックス・プランク研究所のエマニュエル・シャルパンティエ博士に贈られた。遺伝子を改変するゲノム編集技術「クリスパー・キャス9」の開発が評価されたもの。この技術は農水産物の品種改良や医療に活用されている。一方で、ゲノム編集技術には、人の受精卵の遺伝情報改変など、倫理的な問題もはらんでいる。
文学賞は、アメリカの詩人でエール大学教授のルイーズ・グリュックに贈られた。グリュックは1968年に詩集『First born』を発表して高い評価を受け、93年には『The Wild Iris』でピュリツァー賞、2014年には『Faithful and Virtuous Night』で全米図書賞を、それぞれ受賞した(いずれも未邦訳)。
平和賞は、飢餓の解消を目指して各地で食糧支援を行ってきた国連機関「世界食糧計画(WFP)」に贈られた。飢餓との闘いに加え、それによる地域の安定や平和への貢献が評価されたもので、特にコロナ禍での取り組みが高く評価された。
経済学賞は、米スタンフォード大学のロバート・ウィルソン名誉教授とポール・ミルグロム教授に送られた。「オークション理論」の発展に寄与したことが評価されたもの。「オークション理論」は、ミクロ経済学の研究分野である「ゲーム理論」の一つで、両氏が考案した新たなオークション形式は社会の幅広い領域で活用されている。1994年にはアメリカ政府が行う携帯電話の電波周波数利用権の競売に採用されて成功し、その後、この形式が各国に広がった。
ノーベル賞の授賞式は例年、ノルウェーのオスロで行われ、その後は晩餐会も開かれるが、2020年は新型コロナウイルスの影響で中止され、WFPはその本部があるイタリア・ローマで、その他の受賞者は居住する各国で、それぞれメダルなどが授与されるかたちとなった。