脚本家ギルド(WGA)の反乱
北島明弘(映画評論家)
インターネットや次世代DVDなどの新しいメディアの普及によって、そこから得られる利益配分をめぐる争いが表面化してきている。脚本家ギルドは、長期ストライキで利益の配分を要求。脚本がなければ、新作もできない。人気のテレビ番組シリーズが、中断、中止になるかもしれない。視聴者側にとってはなんとも気の揉めるできごとだ。このストの影響は、これからボディーブローのように響いていきそうである。
アカデミー賞授賞式も危機!?
アメリカでは2007年11月から脚本家のストライキが行われ、アメリカ映画業界最大のイベントであるアカデミー賞授賞式も無事開催されるかどうか危ぶまれていた。脚本家のストと聞いて不思議がる人もいるだろうが、アメリカの映画、テレビ業界にはさまざまな職能別の組織、労働組合があり、それらがプロデューサーやスタジオ側と基本待遇を一括しておおむね3年の複数年契約をするシステムになっている。脚本家が所属する脚本家ギルド(WGA)がプロデューサーの組織AMPTPに報酬の増額を要求したが、AMPTPが拒否したため、2007年の11月5日から1万2000人以上の脚本家が脚本執筆をストップしてしまった。脚本家ギルドはニューヨークとロサンゼルスの東西2つに支部を持ち、映画、テレビ、ラジオの脚本家が所属している。一方、AMPTPはメジャー映画会社やテレビ放送網の有力プロデューサー397人の利益を代表する組織だ。
それぞれの主張のぶつかり合い
WGAは、新しいメディアであるインターネットやDVDセールスが好稼働しているので、そのロイヤリティー(著作権使用料)をもっともらいたいと要望。これまでの契約では、DVD1枚の売り上げ19ドルのうち、脚本家が受け取るのは5セントでしかなく、ストリーミング、ウェブ番組、インターネット向け番組といった、インターネット・コンテンツについては、1セントも支払われていない。今回の契約改定交渉で、「DVD売り上げからは8セント、新メディアからは収益の2.5%を支払ってほしい。また新契約では、テレビのリアリティ番組やアニメの脚本家も保障してほしい」と申し入れた。だが、AMPTPは、DVDセールスは高騰する製作費、マーケティング費用を埋め合わせるのに必要だし、インターネット・ビジネスはそんなに儲かっていないと主張し、交渉は決裂。
交渉中断、製作も中断
スト突入を見越して映画、テレビの製作が前倒しになったりしたが、それでも2008~09年シーズンのテレビシリーズは、通常22~24回のところが8~12回分しか作られないだろう。07年11月5日までに脚本が完成しなかった映画作品、テレビ番組は、製作作業が中断している。また、解決しても日の目を見ない可能性が高い。脚本が完成していても、ハリウッド映画にありがちな手直し作業が行われないことになる。多くのテレビ番組、映画の製作がストップし、小道具、音響といったスタッフの仕事もなくなった。彼らには給与も支払われず、休業状態となっている。08年1月13日のハリウッドの外国人映画記者が選ぶゴールデン・グローブ賞の授賞式はテレビ中継もなく、記者会見方式で受賞者の名前が発表された。WGAのストライキを俳優ギルドのスターたち、ジュリアン・ムーア、ロビン・ウィリアムス、ティム・ロビンスらが支援し、ピケットラインでプラカードを振り上げたりもした。事態打開のために双方の協議は続けられ、俳優出身のカリフォルニア州知事アーノルド・シュワルツェネッガーも調停に乗り出したものの、功を奏してはいない。
スト終結へ
08年1月12日からはAMPTPと監督ギルドとの交渉が始まり、短期間で新契約が締結されたのを受け、1月20日に再びAMPTPとWGA双方が協議の席に着き、妥結に向けてトップ交渉が再開された。WGAはテレビのリアリティ番組やアニメの脚本家の保障条項を取り下げて、グラミー賞授賞式(2月10日)でのピケットラインも敷かないと表明。2月9日に暫定的に合意に達し、2月12日の午後2時から6時までに、WGAメンバーは新契約を受諾しストを終わらせるかを問う投票を行った。その結果、92.5%が新契約を承認し、14週に及んだストライキが終わり、脚本家たちは再びキーボードをたたき始めることになった。同意された契約内容だが、インターネットでストリーミング配信されている映画、テレビ番組のロイヤリティーとして、最初の2年間は、1時間もので年に1200ドル、3年目は、配給業者が得た収入の2%相当の金額が支払われることになった。そのほかにも最低賃金の3.5%増や、ウェブ専門コンテンツもWGAの管轄とすることが認められた。
“金の卵”をめぐって
新メディアに関する利益配分を求める要求が出てきたことは、それが利益を生み出す“金の卵”と認知されてきたことの証明でもある。2006年現在、アメリカ全家庭の64.9%がインターネットを利用し、インターネット・ユーザーは3億4860万人、携帯電話ユーザーは4960万人にのぼっている(ともに1カ月に最低1回は利用した人数として換算)。1990年代後半に映画興行収入をビデオ収入が超え、そのビデオもカセットが激減してDVDへ移行し、さらに次世代DVDが普及しようとしている。同時にインターネット・コンテンツも重要性を増しているが、こちらは日進月歩の分野だけにまだまだ不確定要素が多い。それが固まってきた段階で、利益配分をめぐってまた一波乱起きそうな気もする。
今後の状況は?
ストのため製作が中止になった分の脚本料はもらえないので、1月に入ってから、WGAメンバーから早期妥結を望む声が高まっていたことも事実。2月24日に迫ってきたアカデミー賞授賞式だが、授賞式関係者によると、少なくとも構成台本を書くのに2週間は必要だが、そんな余裕はなく、現段階では授賞式がどうなるかは予想がつかない。今回のストによる経済的損失は、3億8000万ドルから15億ドルまでと制定額もまちまち。6月には、12万人が所属し、WGA以上に戦闘的な俳優ギルドとの契約更改が控えており、これからもアメリカ映画、テレビ業界の労使関係はつばぜり合いが続きそうだ。
著者情報
映画評論家
北島明弘
きたじま あきひろ
1948年生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業。キネマ旬報社で15年間映画雑誌、書籍の編集に従事。2007年度日本映画ペンクラブ奨励賞受賞。著書に『世界SF映画全史』(2006年、愛育社)、『世界ミステリー映画大全』(2007年、キャプラ愛育社)、『アメリカ映画100年帝国―なぜアメリカ映画が世界を席巻したのか?』(2008年、SCREEN新書)、『クラシック名画のトリビア的楽しみ方』(2013年、近代映画社)など多数がある。