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社会問題

「マイナンバー」は私たち個人にメリットはあるのか

具体的な使われ方と個人情報の守り方

清水勉(弁護士)

 個人番号をつけられた国民の側には、個人番号を告知することに、とくにメリットはありません。電子申請の際の電子証明書になったり、本人確認のための住民票の写しが不要になったり、引っ越しの手続きが簡易化されたりはしますが、こうした手続きは日常生活でそう頻繁には発生しません。メリットとして挙げることがあるとすれば、個人番号カードが運転免許証と同様、公的に有効な身分証明書になるくらいでしょうか。
 市町村や都道府県で、どれほど行政効率が上がるかも疑問です。たとえば、市町村では、個人番号カードを地域住民の利便性のために条例で定める事務に限り利用することができます(18条1号)。住基カードにも同じような条文がありますが、独自事業を行うことで相当の費用がかかるので、これまでほとんどの市町村は利用しませんでした。こうした前例を見るに、個人番号カードについても市町村での独自利用はあまり広がらないでしょう。
 税金や年金など国や独立行政法人の業務では一定の効率効果があるかもしれませんが、それが投下した経費に見合うかは疑問です。
 また、マイナンバーによって収入や財産が全体的に国に把握されるようになれば、行政の側から「あなたはこのような行政サービスを利用できる」と告知してもらえるようになる、という説明がなされることがあります。理想論からすればそのとおりです。しかし、少子高齢化社会、日本経済全体が長期的に見て上昇方向にないという現実からすれば、行政はいかに福祉による支出を抑制するかを考え実行することはあっても、逆に、積極的に給付を行おうとすることなどあり得ません。
 また、個人番号カードを取得すれば、インターネットを通じて自分の個人情報へのアクセス記録を確認したり、行政サービスの情報を表示したりできる「マイナポータル」へのログイン手段としても利用できます。これまでも個人情報保護法や個人情報保護条例に基づいて自分の個人情報へのアクセス記録の開示請求はできましたが、実際にはほとんど利用されていませんでした。行政の窓口まで行って開示請求するのが面倒だったと考える人もいるでしょうから、その点からすれば、一定の意義はあると言えるでしょう。
 ただし、個人のパソコンなどへの行政サービス情報の表示などは、提供情報の内容にもよりますが、マイナンバー制度を採用しなくてもできることです。個人番号カードを持つ人にのみ個人情報を自宅のパソコンから見ることができるという仕組みは、便利である一面、本人になりすまして操作できるということなので、不正利用の危険があります。

危惧される個人番号の不正利用

 法律が予定している個人番号による本人確認は、顔写真付きの個人番号カードか、通知カードと顔写真付きの運転免許証やパスポートなどが必要なので、これが厳格に実行されるかぎり、個人番号が流失してだれかがなりすましに利用することはできません。この点では、マイナンバー法は諸外国のなりすまし事案を十分に配慮しています。
 問題は個人番号の流出よりも、個人番号が生涯不変の番号として社会に広く知れ渡る社会環境になることです。たとえば、子どもたちがお互いの個人番号を教え合うようなことは、容易に想像できます。個人番号に関心のない人が自分の個人番号を他人に教えるということも、無数に起こるでしょう。何らかの事情から、自分の個人番号を他人に教える人もいるでしょう。このような社会では、個人番号を手掛かりにして特定の人の個人情報を収集、集積できないかと考える人が、当然、無数に現れます。
 そうなると、マイナンバー制度の枠の外で、人々が勝手に個人番号で紐づけされた個人情報を集めるようになります。ここは法制度の枠外なので、何が起こるかわかりません。このようなことをすることは、もちろん、違法です。しかし、ネットの世界は、違法だと言ってもだれもが守るわけではありません。おもしろいと思い、儲かると思えば、年齢・国籍を問わず、国境を越えて、だれもが参入してきます。そこでは本人の知らない間に特定の個人の情報が集積され、利用され、本人にとって取り返しのつかない事態になるかもしれないのです。

個人番号の流出を防ぐために

 そういう危険性のある中で、事業者は、従業員や取引先(個人)の個人番号を記録し、利用せざるを得ません。不正利用や流出を防ぐ一番の方法は、これらの個人番号を持っている時間をできるだけ短縮することです。具体的には、従業員数が少ない事業者は、個人番号の記載が必要なときに、各従業員に確認して記載するだけにとどめ、自分では従業員らの個人番号を管理しないようにすることです。従業員数が多くなると、このようなことはできませんが、他の個人情報と一緒に管理しないで、個人番号が必要なときだけ使うものとして独自に管理すべきです。そうすることによって、人的ミスを回避することができるでしょう。
 個人の話に戻れば、先に説明したように、個人番号は本人の管理によっては簡単に流出するものであることを自覚することです。そして、単に行政側から与えられたままではなく、これからの時代、自分たちはどういう個人識別制度を必要しているのかを考えていくべきでしょう。

著者情報

弁護士

清水勉

しみず つとむ

1953年埼玉県生まれ。東北大学法学部卒業。東京弁護士会所属。さくら通り法律事務所所属。日本弁護士連合会情報問題対策委員会前委員長、秘密保全法制対策本部前事務局長。民主主義社会の情報の流通の仕方(情報公開とプライバシー保護)を継続的な課題としている。おもな共著は、『「住基ネット」とは何か?』(2002年、明石書店)、『秘密保全法批判―脅かされる知る権利』(2013年、日本評論社)、『「マイナンバー法」を問う』(2012年、岩波ブックレット)、『秘密保護法 何が問題か―検証と批判』(2014年、岩波書店)、『逐条解説 特定秘密保護法』(2015年、日本評論社)など。
(2015.8)

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