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特集

「1995」再考

座談会 「1995」とは何だったのか/⑥これからの日本の生きる道

雨宮処凛(作家、活動家)

香山リカ(医師)

浜崎洋介(文芸批評家)

吉田徹(同志社大学教授)

(構成・文/加藤直樹)

(「⑤「リベラル」と「保守」」からの続き)
 1995年を再検証する、4人の論客による座談会。対話の果てに見えてきた、これからの日本の姿とは。(収録日2026年4月4日)

リベラルは金儲けを批判できるか

浜崎 ところで、さきほど香山さんの話で、医者が投資に熱中して、金儲けに走ってるという話があったでしょう。でも、リベラルの立場からそれを批判できますか?
 
香山 どうして?
 
浜崎 だって、リベラルは「価値の自由」と「選択の自由」を前提にするでしょう。ぼくなら、そういう医者の話を聞けば「そんな奴らはクズだ」と言って、はっきりと否定します。リベラルの人たちと話していると、「そこは個人の自由だから、否定しきるのもどうか……」となるわけです。

香山 投資に熱中してる医者たちを擁護するわけではないんだけど、今年、初めて小学生が大人になったらなりたい職業のランキングに「投資家」が入ったんだって(笑)。そういう世の中で、夜も当直して昼も働いて、給料はそこそこ、サービス残業とかサービス早出して、夜も呼ばれたらすぐに行くみたいな、まあ今の私はまさにそんな感じで働いているんだけど、若い医者たちが、なんで俺たちだけそんなことしなくちゃいけないんですかってなるのも無理ないなとも思うんだよね。
 だからやっぱり、お金を追いかけているのではない人がきちんと報われて、尊敬される世の中にならないといけないと思う。それこそ中村哲さんに国民栄誉賞を贈るとかね。
 まあ昔、自販機本でエロ写真の隣にコラム書いてた私がこんなこと言うのは口幅ったいんだけどさ、私はそう思うな。

左から浜崎洋介氏、雨宮処凛氏、香山リカ氏、吉田徹氏

雨宮 実は貧困層の間でも最近投資は熱いんですよね。ロスジェネももう、40代、50代。非正規でいくら働いても年収200万とかで、これから収入アップも見込めない。だったら最後の手段で、投資で一発逆転を狙おうって。しかも国も投資を勧めてるわけで。もちろん、投資をするお金さえない人もいるけれど、投資で全財産を失うみたいな話もちらほら出てきています。
 そっちに行く理由もはっきりあって、90年代以降に出てきた若手のオピニオンリーダーって、たとえばホリエモンやひろゆき、前澤友作氏など。なんかみんな投資系というか、何かをコツコツやってきたとか、努力してきたとかじゃなくて、トリッキーなやり方で一発逆転したみたいな人ですよね。そういう人たちがたくさんお金を持っていて、時に弱者をクサして、自己責任論的な話をしてる。成功モデルはそんな人しかいないとなると、それを目指すしかない。「努力が報われる」社会がとっくに終わっているとなればなおさらです。

吉田 ロスジェネで言うと、その代表格に赤木智弘さんという人がいます。彼は75年生まれで、僕と同い年なんですよね。彼は「『丸山眞男』をひっぱたきたい 31歳、フリーター。希望は、戦争。」という文章を2007年に書いた。なぜなら、戦争になれば総動員体制になって階級もなくなり、金持ちも貧乏人もなくなって平等になる。ロスジェネも格差から救われる可能性はもうそれくらいしかないと。まあ、「希望は戦争」より「希望は投資」の方がまだマシと思うべきなのかもしれない……。

香山 どうしてそんなことになっちゃったんだろう……。90年代以降、日本はなんでそんなことになったんですかね……。

浜崎 大衆消費社会の完成と共に「おひとりさま」の社会が完成したんでしょうね。それで、人は貧乏でも、実は共同体さえあれば案外楽しくやっていけることが分からなくなってしまったんでしょう。

香山 だから、地方に来ればいいんですよ。
 
浜崎 そうそう、最近、僕もよく誘われます(笑)。
 
香山 私が今いる北海道の山の中なんてさ、そりゃ所得は少ないけど、でも、お金がかからないんですよ。家賃なんてタダ同然だし、夏の間に木を一本もらえば、それを薪にして冬はそれで過ごせるんですよ。だから燃料費がかからない。農業やってる人が多いから、食べ物もみんなで交換して。私から見ると、皆さん、すごく豊かな生活をしていますよ。
 
浜崎 まさに互酬社会ですね(笑)。
 
香山 私も行く前は散々脅されましたよ。プライベートがなくなるよ、とか。でも来てみたらね、プライベートなんて、たいしたことじゃないっていうことがよく分かった。

避けて通れない移民問題

香山 日本の経済力や技術力が低下して、人口も減ってきてるわけでしょう。もう前のような形ではやっていけない。その現実を直視しないといけないのに、保守派のメディアや政権は、中国とか韓国とか、外国人といった敵をつくって、彼らが悪いんだといった話をしてきた。選挙のときには、保守を名乗る政党が「もう移民はいらん」なんてスローガンを掲げてたし。
 北海道では江別市でパキスタン人が営む事業所が放火されたんですよ。これはもうヘイトクライムでしょう。現実ではなくて幻想、妄想に基づいたプロパガンダを真に受けて、外国人が仕事を奪っているから自分は不安なんだと考える人たちが増えてきた。こんなのが保守なんだろうかと、私は言いたいですね。

浜崎 ただ僕は、今、国内にいる外国人を不当に扱うことを批判するのは正しいと思うけど、これ以上、移民を入れることに反対している人まで排外主義者として扱うのは不当だと思います。アメリカでもヨーロッパでも、どこでも移民問題が解決されていないことはもうみんな知っています。もちろん移民の数や同化の度合いにもよりますが、文化や宗教が違うということは、生き方が違うってことで、ぶつかる可能性は常にあるでしょう。

香山 それはね、体験してないからですよ、と私は言いたい。私が住む地域にも外国人が大勢いますよ。農業で働く中国人もいれば、介護施設にはフィリピン人やインドネシア人の介護士もいる。工場にはベトナム人もいる。その人たちがいないと、地域の経済も介護ももう、回らないんですよ。そりゃ文化は少しは違うかもしれないけど、人手がないんだから、そんなこと言ってられない。そうするしかないとなれば、乗り越えられますよ。

吉田 これから、不可逆的にグローバル化していくから、外国人の数は増えることはあっても、減ることはありません。これは日本社会にとっての試金石にもなるでしょう。外国人は言葉が通じないとか、習慣が違うのは当然ですが、そういう人たちとチューニングできる社会になれば、日本人自身も生きやすい社会になるんです。たとえばこれからどんどん老人が増えるなかで、もっといろんな場面でのコミュニケーションや移動のスピードを落とさないといけない。違うステータス、違う価値観、違う習慣を受け入れる社会になった方がいいと思うんです。

浜崎 いや、もちろんそうなればいいと思いますよ。でも移民の「数」は必ず「質」に転化しますから、一定数を超えれば、まさに「自由の条件」は崩れると思います。

吉田 ただ、移民はスケープゴートに過ぎないわけですよ。社会って、困窮化するとスケープゴートを見出すんです。今はたまたまそれが外国人だけど、過去には生活保護受給者だったり、老人だったりもする。その意味では、移民問題も、政治的に作られてるに過ぎないといえます。

雨宮 こないだ、国立社会保障・人口問題研究所の是川夕これかわゆうさんを取材したんです。それで思ったのは、日本って、移民政策はとらないと言いつつ、技能実習生制度などの形でたくさんの外国人を受け入れてきたんですよ。建前と実態が違うのに、ちゃんとした議論が行われてこなかった。だから一度、オープンに議論することがいちばん大切なんじゃないかなと思う。

香山 でも、こんなに二極化したなかで、今からそういう議論ができるのかな。

吉田 これも「こんなはずじゃなかった問題」でね。政府は移民は受け入れませんと言ってるのに、実際には明らかに増えてきたわけですよ。公的な言説の次元とわれわれの生活実感があまりも乖離すると、剥奪感を持つ人が増えちゃう。だから、政治が持つ言説の力はとても大事なんです。でもね、日本は衰退していくんですよと政治がきちんと語るのは、なかなかつらいものがありますね(笑)。

著者情報

作家、活動家

雨宮処凛

あまみや かりん

1975年、北海道生まれ。反貧困ネットワーク世話人。バンギャ、フリーター、右翼活動家などを経て2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。2006年からは貧困問題に取り組み、『生きさせろ! 難民化する若者たち』(2007年、太田出版/ちくま文庫)は日本ジャーナリスト会議のJCJ賞を受賞。著書に『学校では教えてくれない生活保護』(‎河出書房新社、2023年)、『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書、2024年)など多数。

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

文芸批評家

浜崎洋介

はまさき ようすけ

1978年埼玉生まれ。雑誌『表現者クライテリオン』編集委員。京都大学大学院特定准教授。2022年『小林秀雄の「人生」論』(NHK出版新書)で、第31回山本七平賞奨励賞受賞。そのほかの著書に『福田恆存 思想の〈かたち〉イロニー・演技・言葉』(新曜社)、『反戦後論』(文藝春秋)、『三島由紀夫 なぜ、死んでみせねばならなかったのか』(NHK出版)、『ぼんやりとした不安の近代日本』『小林秀雄、吉本隆明、福田恆存――日本人の「断絶」を乗り越える』『日本人の「作法」 その高貴さと卑小さについて』(いずれもビジネス社)がある。

同志社大学教授

吉田徹

よしだ とおる

1975年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。専門は比較政治学、ヨーロッパ政治。著書に『ミッテラン社会党の転換』(2008年、法政大学出版局)、『二大政党制批判論』(2009年、光文社新書)、『ポピュリズムを考える』(2011年、NHK出版)、『感情の政治学』(2014年、講談社)、『「野党」論』(2016年、ちくま新書)、『アフター・リベラル』(2020年、講談社現代新書)などがある。

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