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特集

「1995」再考

座談会 「1995」とは何だったのか/⑤「リベラル」と「保守」

雨宮処凛(作家、活動家)

香山リカ(医師)

浜崎洋介(文芸批評家)

吉田徹(同志社大学教授)

(構成・文/加藤直樹)

(「④「リベラル」とは何か?」からの続き)
 1995年を再検証する、4人の論客による座談会。リベラルと保守、それぞれが抱える課題とは?(収録日2026年4月4日)

「左翼ワンセット」では声が届かない

雨宮 私は97年に右翼団体に入って、でも自分は右翼じゃないなと思って2年でやめたんですね。で、2000年に1冊目の本を出しました。その後、2006年に貧困の問題に出合い、自分たちの世代がロスジェネとして不遇な状況にあることを突きつけられ、それをメインテーマとしてこの20年、取材に執筆に活動してきました。
 それで、貧困の問題を書き始めたら、「九条の会」とか、そういう市民団体に講演に呼ばれるようになった。そうすると、「貧困の問題をやっているなら当然、護憲ですよね。反戦、平和ですよね」と言われ、最初は戸惑いました。そんな「左翼ワンセット」があるの? みたいな。

吉田 (笑)。あるあるですね。

浜崎洋介氏(左)と雨宮処凛氏(右)

雨宮 ちょうど2008年ぐらいに、アメリカの「経済的徴兵制」のことが紹介されるようになったんですね。日本でも同時期、困窮者支援団体に自衛隊の勧誘が来るようになりました。それで、ああ、戦争と貧困ってこういうふうにつながっているんだなと思ったんです。私の場合はそこで納得したものの、そうでなかったら突然「左翼ワンセット」前提で話を進められると引いたかもしれないと思います。

香山 それぞれのイシューで「私はこうだ」というのを分けたほうがいいってこと? 原発についてはこう考える、とか。

雨宮 ワンセットを当然のものみたいにせず、一つひとつそれぞれが自分の言葉で伝えることが重要だと、自戒を込めて今は思います。
 リベラル系で市民運動をしている人のうち、少なくない人が「左翼ワンセット」を共有している気がします。それが良い部分もあるでしょうが、そのせいで、外に対して言葉が通じにくくなってるところもあると思います。たとえば今年の衆院選で話題になった「#ママ、戦争を止めてくるわ」というハッシュタグ、私は理解するし共感もしますが、私の周りの非リベラルの人たちは「意味が分からない」と言うし、「武器より飯」みたいなスローガンも、全然通じないんですね。なんか特殊な訓練を受けてないと読み解けない言葉が、リベラル界隈にはたくさんある。そういう「左翼ワンセット」を前提にしてきたことが、今のリベラルの限界を招いた部分もあるんじゃないかと思うんですね。
 去年(2025年)の参院選で「日本人ファースト」というスローガンが出てきて以降、世の中が急激に排外主義的な雰囲気に流れました。こういうことが出てきた背景を考えたとき、私自身も「左翼ワンセット」を当然のものとして関心がない層に伝えることをサボってきたんじゃないかと、めちゃくちゃ反省したんです。関心がない層に届く言葉で話さないといけないと。

香山 でも、反省しすぎてはいけないですよ。「なぜ私たちは嫌われるのか」などと敗北主義に陥って自戒しすぎるのも、典型的な“リベラルしぐさ”だと思ってます。

リベラルのあり方とは?

――他方で、保守はどうなんでしょうか。最近、地域や生活に根差したかつての現実的な「保守」というより、イデオロギー的な、昔だったら「右翼」と呼ばれたような保守政治家が多くなっている気がするんですが。

吉田 リベラルの反対語は、本来は保守じゃなくて権威主義です。ぼくの知的参照点はフランクフルト学派ですが、彼らの理論的探究ならびにサーヴェイでの発見は、剥奪感を抱えた人間こそが権威主義的になりやすい、というものです。日本でも90年代以降、見せられている夢と、現実との間にあるギャップが、剥奪感として広がっている。それを利用して、権威主義的な価値観を振り回しているのが、今の劣化した保守政治なんだろうと思います。
 一方、70年代以降のリベラリズムの中心には個人の自己決定権が据えられている。でも、経済的、社会的なリソースがない限り、自己決定は可能にならない。今のように貧しさが広がってくると、リベラルはリソースを持ってる人たちだけの強者の論理になってしまう。比較的に高学歴で、都市部に住んでいる人たちということです。そうすると、リベラルの内実はやせ細っていくし、それに反発する人は権威主義に流れるという構図だと思います。自民党も配分するだけの物理的リソースがなくなって、イデオロギーを配分するようになりました。
 日本の全体的な困窮化が、政治的、価値観的なリベラルへの支持減少の理由のひとつです。

香山リカ氏(左)と吉田徹氏(右)

香山 95年くらいから、「リベラル」というものに、ネオリベ的なものが忍び込んできて、なんか違う方に行っちゃったのかなという気がするんですよね。
 95年ごろから、私は民間事業所の産業医の業務も月に何度かしていたのですが、関わってたいくつかの会社で、バブル崩壊後の苦境への対処として「成果主義というのが、どうもいいらしいぞ」とか言って、それを取り入れていったんです。そうしたら、会社のなかでうつ病になったり、休職したりする人が増えて、私みたいな産業医の面談が増えちゃったんですね。

吉田 日経連の「新時代の『日本的経営』」が出たのがまさに95年ですよね。これが成果主義や非正規労働の拡大が進められていく起点になりました。

香山 カルロス・ゴーンさんが日産のCEOになったのが99年でしょう。すぐにリストラだ、工場閉鎖だとなって、いわゆる日本的な終身雇用制度とか年功序列制度みたいなものが完全に否定されていった。
 そういうなかで、「私だけ稼げればいいんだ」といった考え方が広がってきた。貧しい人が増えても、「そんなの知ったこっちゃない」と。それどころか生活保護の人とか外国人に対するバッシングが始まった。
 医療の世界でもそう。最近、若手研修医が初期研修2年を終えたら、そのまま美容業界に行っちゃう「直美ちょくび」っていうのが問題になってるんです。そうすると、たとえば心臓外科医の成り手もいないし、地方に行って医療に従事しようという医者もいなくなる。みんな東京で、しかも美容ばっかりという状況になってしまうんですね。
 若い医師たちが、投資したらいくら儲かったとか、開業したらいくらだ、とか。お金の話ばかりしてる。そういうのを見てると、こんなのが、みんなが目指してきた自由で素晴らしい世界なのかなって思いますね。

吉田 本来は、リベラルは強い中央集権の国家を志向するはずなんです。福祉国家を目指すのであれば、増税もマイナンバーカードも必要だということになるのが当然だからです。スウェーデンなんか、隣の人がどれくらい所得税を払ってるのか分かるくらい透明性が確保されてます。

香山 でも、やっぱり政治、政府に対する不信感っていうのがあると思うんですよね。マイナンバーカードにしても、コロナのときのアプリにしても、全然使えないじゃないですか。政府にそういう能力があるのかなと思っちゃう。

雨宮 あと、お金をどっかでかすめ取られてるんだろうなっていう。

香山 そうそう。広告代理店がすごいお金もらってるんじゃないかとか。

吉田 それは事実でしょうけれども(笑)。

香山 だから、何か新しいことをやりますよと政府が言うたびに、ほんとに大丈夫なの?って思ってしまう。素直に「私もやります」という気にならないですよね。

著者情報

作家、活動家

雨宮処凛

あまみや かりん

1975年、北海道生まれ。反貧困ネットワーク世話人。バンギャ、フリーター、右翼活動家などを経て2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。2006年からは貧困問題に取り組み、『生きさせろ! 難民化する若者たち』(2007年、太田出版/ちくま文庫)は日本ジャーナリスト会議のJCJ賞を受賞。著書に『学校では教えてくれない生活保護』(‎河出書房新社、2023年)、『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書、2024年)など多数。

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

文芸批評家

浜崎洋介

はまさき ようすけ

1978年埼玉生まれ。雑誌『表現者クライテリオン』編集委員。京都大学大学院特定准教授。2022年『小林秀雄の「人生」論』(NHK出版新書)で、第31回山本七平賞奨励賞受賞。そのほかの著書に『福田恆存 思想の〈かたち〉イロニー・演技・言葉』(新曜社)、『反戦後論』(文藝春秋)、『三島由紀夫 なぜ、死んでみせねばならなかったのか』(NHK出版)、『ぼんやりとした不安の近代日本』『小林秀雄、吉本隆明、福田恆存――日本人の「断絶」を乗り越える』『日本人の「作法」 その高貴さと卑小さについて』(いずれもビジネス社)がある。

同志社大学教授

吉田徹

よしだ とおる

1975年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。専門は比較政治学、ヨーロッパ政治。著書に『ミッテラン社会党の転換』(2008年、法政大学出版局)、『二大政党制批判論』(2009年、光文社新書)、『ポピュリズムを考える』(2011年、NHK出版)、『感情の政治学』(2014年、講談社)、『「野党」論』(2016年、ちくま新書)、『アフター・リベラル』(2020年、講談社現代新書)などがある。

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