座談会 「1995」とは何だったのか/④「リベラル」とは何か?
(構成・文/加藤直樹)
(「③「小春日和」の終焉」からの続き)
1995年を再検証する、4人の論客による座談会。話は援助交際からリベラルにまで及ぶ。
(収録日2026年4月4日)
援助交際はいけない、と言えない時代?

浜崎洋介氏(左)と雨宮処凛氏(右)
AV女優が撮影で大怪我をして逮捕者が出たバッキー事件は当然として、その界隈には加害があちこちにあったけど有耶無耶にされていた。取っ散らかった90年代のいろんなことが、「MeToo」以降にやっと問題化されて、今、いろんなところで議論されているのかなと思います。
それにちなんで言えば、その後の2000年代には、立川談春『赤めだか』のヒットを含む落語ブームが来ますが、私の目には、それは手ごたえのある他者関係を取り戻したいという願望の表れに映った。そして、その流れのなかから、安倍政権の国家論(再配分)が話題に上ってくる。特に、2010年代からは、市場における自己決定(ネオリベラリズム)に対する異論が噴出してきますが、それは、まさに90年代の裏返しの現象でしたね。
当時、高卒フリーターだった私の目には、リベラルって援交オッケーに見えてたんですよ。フェミニストもそう。「なんでもあり」みたいな無秩序な人たちなんだろうと思ってた。今ではそうではないとわかりますが、当時はなんとなくの雰囲気でそう見えていた。
1995年のリベラルとは?
ただ、冷戦崩壊以降、その意味が転換していきます。マルクス主義の旗を振れなくなったときに、「革新」の側が「リベラル」を新しい旗印にした。それで、「保革対立」が、「保守対リベラル」になるわけです。
だから日本のリベラルって、単に旗印を変えたというだけで、標語に過ぎないんですよ。反共リベラルや大正教養主義的な自由主義のような価値観を持っているわけではなく、自己決定権やジェンダー平等といった新しい争点以外では、変わらず「護憲」が結節点になっている。
ただ、リベラルな価値観そのものは、昔と比べたらずいぶん浸透してきたと思います。たとえば男女平等について言えば、NHKの意識調査で見ても、80年代は「男性は仕事、女性は家庭」という価値観への賛否が半々だったのが、今はもう1対9くらいです。そういう考え方に賛成する人は1割しかいない。
ただ、そうした価値観が日本で選挙の争点にはならないし、有権者もリベラル的価値観を最重要視して投票しているわけでもない。リベラル的価値は「脱物質主義的価値観」とも言い換えられますが、近代的な物質的価値の方がずっと訴求力を持っているし、全般的な社会の困窮化で、むしろそれが強まっている。これが選挙でリベラルが負け続ける理由なんだろうと思います。

吉田徹氏
著者情報
作家、活動家
雨宮処凛
あまみや かりん
1975年、北海道生まれ。反貧困ネットワーク世話人。バンギャ、フリーター、右翼活動家などを経て2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。2006年からは貧困問題に取り組み、『生きさせろ! 難民化する若者たち』(2007年、太田出版/ちくま文庫)は日本ジャーナリスト会議のJCJ賞を受賞。著書に『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社、2023年)、『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書、2024年)など多数。
医師
香山リカ
かやま りか
1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。
文芸批評家
浜崎洋介
はまさき ようすけ
1978年埼玉生まれ。雑誌『表現者クライテリオン』編集委員。京都大学大学院特定准教授。2022年『小林秀雄の「人生」論』(NHK出版新書)で、第31回山本七平賞奨励賞受賞。そのほかの著書に『福田恆存 思想の〈かたち〉イロニー・演技・言葉』(新曜社)、『反戦後論』(文藝春秋)、『三島由紀夫 なぜ、死んでみせねばならなかったのか』(NHK出版)、『ぼんやりとした不安の近代日本』『小林秀雄、吉本隆明、福田恆存――日本人の「断絶」を乗り越える』『日本人の「作法」 その高貴さと卑小さについて』(いずれもビジネス社)がある。
同志社大学教授
吉田徹
よしだ とおる
1975年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。専門は比較政治学、ヨーロッパ政治。著書に『ミッテラン社会党の転換』(2008年、法政大学出版局)、『二大政党制批判論』(2009年、光文社新書)、『ポピュリズムを考える』(2011年、NHK出版)、『感情の政治学』(2014年、講談社)、『「野党」論』(2016年、ちくま新書)、『アフター・リベラル』(2020年、講談社現代新書)などがある。