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サイエンス

人はなぜ、ニセ科学を信じるのか(1)

科学と非科学の間にあるもの

左巻健男(同志社女子大学現代社会学部教授)

 科学の仮面を被った「ニセ科学」が横行している。おおむねは、科学を装いながら科学的な効能をうたい、人びとの欲望に火をつけて、不当な商品を売りつけるというビジネスに利用されているのが、ほとんどである。

「理科」「科学」とは何か

 誰もがイメージしやすい「科学」とは、学校で学ぶ「理科」である。高校の理科では、物理、化学、生物、地学の4教科があり、これからさらに分かれている。
 科学には「実験と観察で実証する」という特徴があり、私たちのさまざまな文化の中で、もっとも論理性や実証性を有するのが、科学である。科学は技術とともに、私たちの生活を豊かで便利なものにしている。
 誰しも科学技術の恩恵を受けて、科学に信頼性をおくので、科学に裏打ちされている説明には安心感を持っている。

「ニセ科学」とは何か

 「ニセ科学」とは、科学の専門家から見て、「科学的に装う」「科学のように見える」にもかかわらず、科学とは呼べないものを指す。一見、科学めいているだけで、科学ではないものは、ニセ科学である。英語ではpseudo scienceといい、pseudoとは「ニセ」とか「いかさま」「みせかけ」を意味する。ニセ科学はまた、「疑似科学」「似非科学」とも呼ばれる。
 もともと科学には見えない「オカルト」「心霊現象」「占い」などは、ニセ科学ではないが、「超能力」の中には「科学的に装う」ものもあるので、ニセ科学に含まれよう。()(

血液型性格判断もニセ科学

 トルマリンやゲルマニウムという物質には、何かしら体によいものが発生していて(たとえば「波動」やマイナスイオン)、その素材を原料とするブレスレットやネックレスなどを身につけると健康によい、というのはニセ科学である。
 また血液型性格判断は、心理学者らが血液型と性格の関係を統計的に何度も調査しているが、血液型と性格の間には科学的な関係はない。根拠がなくても、日本人の多くと外国では韓国人が、漠然と信じているようである。
 血液型性格判断は、コミュニケーションの道具(娯楽)として使うならともかく、これで他人の性格を決めつければ、偏見やいじめにつながり、たとえば結婚が破談になったりすれば、人生に影響を与えることになる。

インチキ商品に利用されるニセ科学

 マイナスイオンを例に、ニセ科学がどのように利用されるかを見てみよう。
 マイナスイオンとは、化学で学ぶ「陰イオン」とは別のものである。科学的にこれと近いのは、大気科学でいう「負イオン」のことである。「滝にマイナスイオンが発生している」という場合には、負イオンを指しているが、それが健康によいという根拠はない。
 マイナスイオンは、「納豆ダイエット」でねつ造が発覚したテレビ番組「発掘!あるある大事典」(フジテレビ系)が、火つけ役を果たした。1999年から2002年にかけてマイナスイオンの特集番組で、その驚くべき効能をうたったのである。
 プラスイオンは「吸うと心身の状態が悪くなる」のに、マイナスイオンは「空気を浄化し、吸えば気持ちのイライラが解消し、ドロドロ血はサラサラに、アトピーや高血圧症にも効き、健康にいい」と喧伝した。その説明の方法がニセ科学であったにもかかわらず、マイナスイオンは流行語となった。

マイナスイオン商品の数々

 これをきっかけに、名の知れた企業までが、マイナスイオン関連商品を続々と発売した。エアコン、冷蔵庫、パソコン、マッサージ器、ドライヤー、衣類やタオルなど、広範囲の商品がマイナスイオンの発生をうたったのである。(
 ゲルマニウムやチタンのブレスレットやネックレス、トルマリン入りの商品、トルマリン水や磁石を使った水の処理機械などの「健康機器」が市場に出された。
 これらの商品を「マイナスイオン測定器」で測定すると、「1ccあたり数十万個」という数値を提示するが、空気の分子数と比べると、微々たる数値であることにも、十分注意を払う必要がある。
 「実体が不明で健康によいという証拠はない」などの批判で、ひと頃のブームは去った。しかし、まだそのことを知らない消費者をねらって、実体の不明な商品の購買意欲をさそうのに、いまだにマイナスイオンが利用されている。

ニセ科学による「波動」解釈

 科学や物理学の用語で使う「波動」は、「空間や物体の一部に加えられた状態の変化が、次々に周囲の部分にある速さで伝わっていく現象」を言う。水面に小石を投げ入れたり、地震による揺れが伝わったりするのも「波動」である。音波や電波も同じものである。
 それに対し、ニセ科学の「波動」は、本来の意味も断片的に取り入れるが、基本的には別物である。ニセ科学サイドでは、マイナスイオンも「波動」として説明する。あらゆるものが、たとえば水や言葉も細菌類も「波動」を発しており、同時に、自らの「波動」と共鳴しているという。「波動」も「共鳴」も、科学や物理学用語にあるので、その連想もあり、科学に疎い人にとっては、科学的な雰囲気にかく乱されて、信じ込んでしまう。その誤解がニセ科学になってしまう。

健康と水ビジネスでまん延するニセ科学

 ニセ科学は、とくに健康をめぐる分野でまん延している。水だけも、波動水、トルマリン水、マイナスイオン水、ナノクラスター・ゲルマニウム水など、いかにも科学的な用語を駆使して万能効果をアピールし、消費者に高価なものを買わせるものがある。アトピーが治る、がんにならない、がんが治るなど、病気がらみで不安心理をあおって、つけ込み、科学っぽい雰囲気を出し、効果的な体験談で粉飾された、怪しい健康情報がテレビや新聞・雑誌などのメディアを通して迫って来るので、注意を要するのである。

著者情報

同志社女子大学現代社会学部教授

左巻健男

さまき たけお

1949年生まれ。東京学芸大学大学院修了。東京大学教育学部附属中・高等学校教諭等を経て現職。専門は理科教育、環境教育。新理科教育メーリングリスト代表。著書に『水はなんにも知らないよ』『新しい高校化学の教科書』『新しい高校物理の教科書』『新しい高校生物の教科書』など多数がある。

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