少子化問題を解消するために何をするべきか~経済学的に効果的な子育て支援を考える
山口慎太郎(東京大学大学院経済学研究科教授)
実は、制度という点から見れば、日本の男性の育休制度は世界的にかなり充実しています。2019年にユニセフが、育休日数×給付金で算出した育児休業制度のランキングでは、OECDとEU41カ国中、日本が第1位なんです。ところが、日本の男性は、キャリアへの悪影響や同僚や上司の目を気にして、なかなか育休取得が進みません。2021年の女性の育休取得率が85.1%であるのに対して、男性は14.0%にとどまっています。
男性の育休取得率が7~8割に及ぶ北欧などでも、以前はキャリアへの悪影響を気にして育休を取得しにくい環境だったのですが、勇気のある一部の人が育休を取得したことで、それが周囲にも伝播し、どんどん増えていきました。近年日本でも、「産後パパ育休」の認知が広がったことなどで、急速に育休を取得する男性が増えつつありますが、まだまだ少ないと思います。
――国の政策で出生率を上げることはできるのでしょうか?
政策で上がる出生率というのは、0.1~0.3程度だと考えられています。国の少子化対策はもちろん重要ですが、それだけではどうしても限界があるというのも実情です。
これは研究上の根拠があるわけではありませんが、日本では、社会の中で子どもの存在が歓迎されていないような空気が見受けられます。ベビーカーで公共交通機関を利用するのは迷惑だと言う人も一部にはいる。国が少子化対策で手厚く子育て支援をしたとしても、そうした空気の中では、子どもを持ちたいとは思えないだろうな、と強く感じます。
例えば、出生率が非常に高い(2019年の合計特殊出生率が全国平均の1.36を大きく上回る2.95)ことで注目されている岡山県・奈義町という町があります。同町では、子育て支援のために、給付金制度が整っていたり、住宅が提供されたり、子育て支援サービスが充実しています。もちろん、そうした政策も重要なのだと思いますが、奈義町のケースを見ると、町全体が「子どもは宝」という空気に満たされています。そうした空気の中だったら、より子どもを育てようと思うようになるのかもしれません。
子どもは、将来の自分たちや社会を支えてくれる存在であり、子育て政策は次世代への投資です。日本の社会全体で子育てしやすい環境をつくっていくためにも、男女平等や働き方改革を推し進めて、子どもに対する社会の意識を変えていくことが、大事なのだと思います。
著者情報
東京大学大学院経済学研究科教授
山口慎太郎
やまぐち しんたろう
1999年慶應義塾大学商学部卒業。2001年同大学大学院商学研究科修士課程修了。2006年アメリカ・ウィスコンシン大学経済学博士号(Ph.D.)取得。カナダ・マクマスター大学助教授、准教授、東京大学准教授を経て2019年より現職。内閣府・男女共同参画会議議員、朝日新聞論壇委員、日本経済新聞コラムニストなども務める。専門は労働経済学、家族の経済学。著書に『「家族の幸せ」の経済学』(光文社新書、第41回サントリー学芸賞)、『子育て支援の経済学』(日本評論社、第64回日経・経済図書文化賞)がある。