【弟子が語る】ノーベル賞作家ガルシア゠マルケスに学ぶジャーナリズム
ネルソン・フレディ・パディージャ(ジャーナリスト、作家)
(構成・文/工藤律子)
ジャーナリズムと文学
コロンビアには、伝統的に、小説や児童文学、物語を書くジャーナリストが多くいます。エル・エスペクタドールの創立者フィデル・カノ・グティエレスも、その一人です。彼は、19世紀末、フランス語詩の翻訳家でしたが、この新聞を創刊し、「ニュースと文学の新聞」と定義しました。私も、学生時代にこの新聞社で働き始めてから、ガルシア゠マルケスに触発され、文学を学んで、今は子ども向けの物語や小説も書いています。
私にとって、ジャーナリズムと文学のつながりは、とても意味深いものです。ガルシア゠マルケスのジャーナリズム作品の研究者は、彼が新聞で書いたことがどのように小説に反映されているかを分析しました。そして、「ガルシア゠マルケスは、ジャーナリズムを通して得た情報や事実、体験を肥やしとして、小説を書いている」と結論づけます。コロンビアでは、歴史的にも、ジャーナリズムと文学が深く繋がっているのです。
ガルシア゠マルケスは、世界中の小説を読み、多くの詩を暗唱し、とても豊かな語りを身につけました。コロンビアに蔓延る暴力を描く際も、人間味を持って語りました。ジャーナリズムの視点で物語を綴る方法を、よく知っていた。フィクションかノンフィクションかは、どうでもいい。それが語られることが、重要なのです。
1994年には、カルタヘナ・デ・インディアスに、「イベロアメリカ新ジャーナリズム財団」を設立し、若いジャーナリストたちが、一流の記者や小説家などの講義を受ける機会を作りました。彼が大切だと考えていた「包括的な作家」を育てるためです。

G・ガルシア゠マルケスの『百年の孤独』は、1966年、刊行に先立ち、第1章がエル・エスペクタドールに独占掲載された=撮影:篠田有史
マルチメディア脳
私は今、大学院で「ジャーナリズムと文学」という講義を担当しています。そこに集うのは、様々な年齢の異なる専門を学ぶ学生です。ジャーナリスト志望もいれば、美術や映像製作、経済学、社会福祉学を学ぶ人も。ラッパーもいます。現在のテーマは、「第二次世界大戦と文学」です。先週は、『アンネの日記』を読んで、各自が「無垢」について考え、それをグラフィティやラップ、文章など、独自の表現方法で作品にしました。
21世紀の語り手となるためには、そのように現代のマルチメディアの世界を生かした表現力を育む必要があります。現実を表現する方法は、多様だからです。その意味で、ガルシア゠マルケスは、未来を生きる表現者としての力を身につけていました。「マルチメディア脳」を持っていたからです。彼は、素晴らしい語り部であるのはもちろんのこと、ジャーナリズムを担い、雑誌づくりやテレビについても学び、詩や音楽、映画にも強い関心を持って、メキシコでは映画製作にも取り組みました。ですから、私は学生たちに、「ガルシア゠マルケスから、21世紀に通用する表現方法を学ぶように」と、伝えています。「ガルシア゠マルケスのように書く」のではなく、彼から学び、インスピレーションを得て、独自の書き方、新たな表現方法を見つけるように、と。

エル・エスペクタドールの会議室で、大学院生にG・ガルシア゠マルケスの仕事について語るネルソン(奥左)=撮影:篠田有史
現代においては、一つの物語にたどり着く道筋は、様々です。ジャーナリストになるためにはまずジャーナリズムを学ばなければならない、というわけではない。法律や経済、システム工学、デザインを学んでも、いいジャーナリストになることはできるのです。
大切なのは、テクノロジーの進歩、デジタル技術の進化を、私たちの語りに貢献するような形で使いこなす術を身につけること。今どきのSNS文化は、30秒で読み飛ばせるようなスピード重視の短文メッセージで形づくられていますが、それをやっても意味がない。私の授業では、学生たちと一つの物語を紡ぐために、スマートフォンを含む映像音響機材を活用しますが、それは最新の技術を生かすことで、今どきの読み手でさえじっくり読んでみたくなるようなものを創るためです。人々が、進んで記事や文学作品を読み、自ら深く考えたくなるよう誘う。それが、私たちジャーナリストの仕事の意義だと思います。
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大きく変わろうとしている世界において、そこで起きていることをより深く正確に知り、理解し、伝えるために、私たちはマルチメディアの視点で物事を捉え、語るG・ガルシア゠マルケス的な脳を育てる必要がある。それが、ネルソンからのメッセージであるだろう。(工藤律子)
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著者情報
ジャーナリスト、作家
ネルソン・フレディ・パディージャ
ねるそん・ふれでぃ・ぱでぃーじゃ/Nelson Fredy Padilla
1968年、コロンビア生まれ。ラ・サバナ大学でジャーナリズムを学び、コロンビア国立大学で文学の修士号を取得。1996年からアルゼンチン最大の日刊紙「クラリン」の特派員、1998年からガブリエル・ガルシア=マルケスが主宰する雑誌「カンビオ」の記者、2008年からコロンビアの全国紙「エル・エスペクタドール」の編集者などを歴任。現在、同紙日曜版編集長を務めるほか、コロンビア国立大学などの大学院で「ジャーナリズムと文学」を教えている。長年コロンビア内戦を取材した功績で、1995年に米州新聞協会(IAPA)マイアミ・ヘラルド賞、2000年にオルテガ・イ・ガセット賞を受賞。そのほか、ドン・キホーテ賞、ミゲル・エルナンデス賞、ボゴタジャーナリスト協会賞など、国内外で数多くのジャーナリズム賞を受賞。