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精緻の極み、昆虫竹細工の世界

独学で作り込む、小さな生き物たちの一瞬の姿

齋藤徳幸(昆虫竹細工作家)

齋藤 初めはインターネットでいろんな作品を見て、竹細工で一般的な鈴虫から始めました。「かわいい」と言われるような、ほのぼのした作品でしたね。構造も簡単だったので、その頃は一晩に一つくらいは作っていたかな。そこから少しずつ改良して、だんだん今の形になりました。
 どんなものに影響を受けたかというと、僕は自在置物(江戸時代中期~明治時代に流行した、生き物の動きを再現させることのできる金属製の置物)がとても好きなんです。現在も一人だけ自在置物を作れる満田晴穂(みつた・はるお)さんという職人さんがいるのですが、その作品の迫力が凄い。他にも、大竹亮輔さんという木彫作家が作った、イセエビの木製自在置物も素晴らしい。一切の色がないのに本物かと思うほどの再現度です。二人のような若いアーティストから刺激を受けて、今のような複雑さ、再現性、鋭さや迫力が作品に表れてきたように思います。
 どんどん複雑な形になってきたので、今は1カ月に一つ作れるかどうか。本業が別にありますから、平日は1~4時間くらい作業に没頭しています。仕事が休みで、終日かかりきりになれるときにはずっと制作しています。完成が近づくと楽しくなって止められません。

――総作品数はどのくらいになりますか?

齋藤 もう数百点にのぼりますね。特に海外の方から「売ってほしい」とよく言われますが、繊細すぎて送れないので、基本的にはお断りしています。ただ、知人を通じての委託販売や、展示会での直接販売などで、少しずつ数が減ってきてはいます。
 作り方を教えてくれと言われることもありますが、私の昆虫竹細工は系統立てて学んだものではありませんし、制作中も試行錯誤を繰り返しているので、たとえ設計図があって、材料があったとしても難しいでしょうね。

生命の一瞬をとどめる

――改めて見て、正面だけでなく、背中や腹、脚の先まで、360度、どこから見ても「隙」がない作りです。

齋藤 作品には「裏面」を作らないようにしています。正面からは見えない部分、腹が接地面だとしても手を抜かずに作ります。持ち上げて見てももちろん大丈夫。脚や触角も、体に穴をあけて挿すのではなく、必ず胴体から関節を作り、一つ一つのパーツをつなげて作っていくことで、生き物としてのリアリティーが出る。このカマキリは首を動かすこともできるんですよ。
 昆虫の一瞬の姿をどうやってとどめるか。昆虫標本は実体があり、色もきれいですが、生きてはいませんよね。躍動感がありません。写真は1000分の1秒を捉えますが、立体ではないので一つの角度からしか見ることができない。標本でも写真でも出し切れないリアリティーを、昆虫竹細工で表現したいと思っています。
 竹細工は色がなく、見た目が地味ですから、子どもたちはあまり興味を示しません。むしろ素通りしてしまいます。しかし、それなりに人生経験を重ねている人が見ると、「まるで本物のようだ」とか、「本物よりも素晴らしい」などと言ってくれることがあります。おそらくは、虫の動きや彩り、命の息づきを想像し、補完して見てもらえているのではないでしょうか。そういう余地があるところが竹細工の面白みかなと思っています。

*齋藤徳幸さんの作品は、下記HP「昆虫竹細工 BAMBOO INSECTS」で見られます。
http://take64.wixsite.com/musi(外部サイトに接続します)

*写真の複写・転載を禁じます。

著者情報

昆虫竹細工作家

齋藤徳幸

さいとう のりゆき

1967年生まれ。中央工学校建築設備設計課卒業。東京の建築会社で機械設備設計業務に従事。現在、地元の建築設備会社にて設計教務に従事しながら竹細工の製作を行っている。

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