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連載

変革への闘い

「キューバに生きる」6 グローバル資本主義の波間で

工藤律子(ジャーナリスト)

「米国に行った家族には、向こうで暮らさないかと誘われました。ビザは持っているので、これまでも何度か訪ねては、米国の生活習慣や文化を学んできましたが、それは必ずしもキューバ人に合ったものではありません。キューバ人は米国の方ばかり見ますが、それは向こうに行ったキューバ人が、たくさんの土産を持って里帰りし、夢のような話ばかりするからです。」

 パピートは、米国で見た現実を、こう語る。

「米国暮らしのキューバ人は、隣人づきあいがほとんどない上に、『自分は家も車も持っている』と言いますが、大抵は長期にわたるローン払いで自分のものではありません。私の弟も、順調にやっている、と話していますが、家に泊めてもらうと毎晩、夜中に目を覚まして部屋をうろうろしています。数字を出さないと評価されない仕事のストレスで、眠れないのです。つまり、自分の健康を害してまで働いている。何のための仕事でしょう」

 パピートにとって、そんな資本主義世界の模倣は、キューバ人が大切にしてきた人とのつながりや分かち合いを捨てることに、ほかならない。お金を稼ぐことが中心で隣人の顔も見えない生活は、人の心と地域社会を貧しくする。

新たな革命

 グローバル資本主義の荒波が、世界の人々の運命を大きく変えようとしている時代に、キューバに生きる・生きていく、ということは、何を意味するのだろう。それは、社会主義国としての歩みを見直しつつ、キューバを取り巻く資本主義世界の歪みを理解したうえで、まったく異なる選択肢を見出していくという難題に挑むことなのかもしれない。

パンの配給所。国民全員に毎日一人一個のパンがただ同然の値段で売られている。撮影:篠田有史

 キューバに暮らす若者たちは、その多くが今、グローバル資本主義の便利で華やかな部分に憧れ、その世界につながりたいと願っている。しかし、その世界が抱える本質的な問題を知る機会は少なく、矛盾が十分にはわかっていない。そんな彼らにとって、既存の社会主義でも資本主義でもない第3の道を思い描くことは、かなり難しい作業だ。

 一方、世界が抱える本質的な問題を理解できていないという意味では、資本主義世界に生きる日本の若者たちの大半も、同じ状況かもしれない。グローバル資本主義の真っ只中にいながら、その矛盾を考える余裕すらないまま、歪みの中に閉じ込められているように見える。周囲の大人たちが、より人間的な社会の理想をほとんど語らないなか、若者たちは、資本主義的な競争社会の常識の枠から、なかなか逃れられない。周囲の世界のありように断固とした疑問を投げかける力を、得られずにいる。だから、異なる未来への理想を抱くことが、困難なのだ。

 思うに、もし私たちが、誰もが安心して生きられる未来を本気で望むのであれば、グローバル資本主義にはそろそろ世界の表舞台から消えてもらわなければならない。社会的連帯経済を推進する人々から学び、極端な格差のない、人の暮らしと環境を守ることを軸にした経済を創り出すこと。移民排除ではなく、多様な人間が共生する民主的な社会を実現するための政治を行うことこそが、希望ある未来への道筋だろう。

 もしもキューバが、革命が描いた理想と自らの現実のギャップを見つめ直し、世界全体を覆い尽くしている問題を熟知したうえで、真に自由で平等な社会への新たな革命を開始したならば、そのインパクトは1959年の革命以上のものになるかもしれない。

 2020年を目前に、キューバの市民の間では、これまで続いたキューバペソCUPと兌換ペソCUCの二重通貨制が廃止されることや、賃金アップと引き換えに食料・生活必需品の配給制度をなくすことなど、様々な変化が議論されている。大学生の友人ユーヒは、相変わらず、そんな噂話に気を揉む日々を送る。変化の先に何があるのかは、まだ誰にもよくわからない。

 しかし、私は信じたい。キューバで出会った若者たちが、21世紀の革命の担い手となることを。そして、彼らの歩みをこれからも追い続け、共に挑みたい。グローバル資本主義の荒波に揉まれながらも、その波間にすっと浮き上がり、新たな理想へと進む航海に。革命はまだ始まったばかりだ。

著者情報

ジャーナリスト

工藤律子

くどう りつこ

1963年大阪府生まれ。東京外国語大学地域研究研究科修士課程在籍中より、メキシコの貧困層の生活改善運動を研究するかたわら、フリーのジャーナリストとして取材活動を始める。著書に『仲間と誇りと夢と』(JULA出版局)、『ストリートチルドレン』(岩波ジュニア新書)、『マラス 暴力に支配される少年たち』(集英社、開高健ノンフィクション賞受賞)、『マフィア国家 メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々』(岩波書店)、『ルポ 雇用なしで生きる スペイン発「もうひとつの生き方」への挑戦』(岩波書店)、『働くことの小さな革命 ルポ 日本の「社会的連帯経済」』(集英社新書)などがある。NGO「ストリートチルドレンを考える会」共同代表。

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