imidas - 情報・知識&オピニオン

探究

政治・経済

「AIが描いた絵」は誰のもの?~テクノロジーと著作権の新たな関係を考える

福井健策(弁護士(日本・ニューヨーク州)/日本大学芸術学部・神戸大学大学院・iU 客員教授)

(構成・文/イミダス編集部)

 さらに、フランスではすでにAIの生成物が著作物として登録されています。ヨーロッパでもフランスといえば、人間中心主義の象徴のような、著作権に関しても作家をとても重視する国ですが、フランス版のJASRACで、170年もの歴史を持つ「SACEM」という音楽著作権団体のデータベースには、EUが開発・運営に関わるAI作曲家「AIVA」が生成した音楽が1800曲以上も登録されています。つまり、著作物として管理・許諾されています。
 歌詞を人間がつけていれば作詞家名も著作者として明記されますが、インストゥルメンタル曲ならAIVAのみが著作者です。

 加えて、AIVA自身が自分の著作権を「売って」います。AIVAの使用条件は、無料か、月額11ユーロ、月額33ユーロの3コース。登録すればAIVAにいくらでも作曲させることができますが、無料コースの場合は楽曲データを所有(=ダウンロード)できるのは月に3曲まで、著作権はユーザーではなく「AIVA」に帰する、という制限があります。しかし、月額33ユーロ(日本円にして約5000円)払えば、月に300曲をダウンロードできて、著作権はユーザーに帰属するという規約です。

AIVAの料金表(https://www.aiva.ai/をもとにイミダス編集部作成)

 楽曲のクオリティは、仮にコンサートなどの演奏曲の水準にまでは至らずとも、ネットに動画をどんどん上げる人がお金をかけずに大量のBGMが欲しいと思ったときにはじゅうぶん使えるレベルです。

 すさまじい価格破壊でもありますし、このように、いくら建前上、AI生成物に著作権は「ない」ことになっていても、現実にはすでに、AI生成物はさまざまな形で、著作物のように運用されはじめているのです。

画像生成AIを使ううえで注意するべきこと

 ほかの誰かの著作権を侵害してしまう可能性があることを知っておくべきでしょう。
 著作権を侵害したかどうかは、「依拠」(よりどころがあること、何かに基づいていること)の有無で判断されます。おおまかに言うと、「もとの著作物を知っていて似せた」はNGです。「知らなかったがたまたま似た」ときは、著作権法上は許容されます。世の中には無数の作品があるから、「意図しない偶然の一致」は許容されるのですが、しばしば本当に偶然なのかをめぐって争いになります。

 これをもとに考えると、ItoI(画像をもとに画像を生成させる方法)タイプの画像生成AIを使うときにはだいぶ注意が必要です。
 誰かが描いた「A」という画像をAIに読み込ませた結果、「Aに似た絵」が生成されてきて、それを自分の作品として発表したとします。この場合、現行法のもとでも、「A」に依拠している=「A」に対する著作権侵害であるとみなされる可能性が高いでしょう。いわゆる「トレパク」(トレースによるパクリ行為)と同様です。生成された絵に自分なりにアレンジを加えたとしても、裁判になれば、どのくらい似ているのかが検証されることになるでしょう。

 判断が難しいのは、AIにテキストで「〇〇さん風の絵」という指示を出したら、AIが機械学習したその作家の絵のどれかに、かなり似たものが出力されてしまった、というような場合です。
 ここでポイントになるのは、AIが機械学習したデータは「依拠」となるのかどうか、です。仮に、あるAIにレンブラントの全作品を学習させたとします。このとき、学習後のAIは、1枚1枚の画像を保存して個別に記憶しているわけではありません。絵に共通する筆致、色使い、コントラストなどの作風を示すパラメータ、つまり「レンブラント風とみなされる傾向」をデータとして持つのでしょう。
 レンブラントだけを学習させたこのAIに、新しく絵を描いてみろと指示した場合、「レンブラント風」の傾向を強く有する絵が生成されるのは間違いありません。仮にそれがレンブラントのどれかの絵と実際にソックリだった場合、個別の絵との類似は偶然の一致と見るのか、それとも依拠があるとみなすべきなのか。今後の争点となるでしょう。

「依拠」ではありませんが、AIの学習データをめぐり、すでに何件かの訴訟が起こされています。フォトストックサービスを展開するゲッティイメージズ社(アメリカ)は、自社が所有する膨大な数の画像を無断でAIの機械学習に利用されたとして、イギリスやアメリカで、「Stable Diffusion」の開発元を訴えました。どのような判決が下されるのか注目です。

今後の議論や、法整備は?

 世界でも、AI生成物に関する法の議論は、まだまだ進んでいません。ただ、今後はやはり、AI生成物を法律上、どのように位置づけるのかは、各国で喫緊の課題となるはずです。
 例えばアメリカは非常に直截的に、著作物は「思想や感情の創作的な表現」であり、創作は人間固有の営みであると定義しています。AIには思想や感情がないから著作物を生み出すことはありえない、AIによる創作を現行法は想定していない、という立場です。
 これに基づき、アメリカはAI生成物だとわかると著作権登録を拒絶します。しかし、それに怒った開発者などが、AI生成物に著作権登録を認めるように求めて、裁判を起こす例が出ています。判例がひとつずつ、積み重なっていくことでしょう。

 一方で、AI生成物をどうみなすのか、という議論の始まりは意外と古く、欧米や日本では、1970~90年ごろに一度、コンピューターによる創作物は著作物か、議論が交わされたことがあります。ただ、その後は各国ではあまり議論が深まりませんでした。AIの生成物よりも、AIそのものの有用性や使用法、危険性などについての議論のほうが先行しており、AI研究者たちの会議で採択されたアシロマAI 23原則(2017年)や、OECDのAIに関するガイドライン(2019年)にも、AI生成物に対する言及はありません。

 それに比べると、日本はかなり先進的で、2015年、AIと著作権に関して深く踏み込んだ議論が行われました。ゼロ年代以降では世界でも初めてだったかもしれません。私もその委員会に加わり、少なくともその時点では、著作物として認める必要はまだないんじゃないか、認めなくてもさほど困らないんじゃないか、という意見を述べて、全体としてもその流れで落ち着きました。
 欧米も、ほんの2~3年前からまたAI生成物の著作物性について議論を始めましたが、日本も2015年の議論をもとに発信して、世界をリードすることだってできたはずだと思うと少しもったいないですね。

 日本はもともと、AIやロボットに親しみを抱く文化的な素地があります。人工知能を備えたロボットといえば「鉄腕アトム」であり、「ドラえもん」である、つまり「友だち」なのです。生成系AIに対しても、大きく言えば「面白い絵描きや会話相手」、またはお遊びツールとみなして楽しんでいる人が多いように感じます。これは、AIやロボットを「敵」「脅威」と考えがちな欧米ではあまり見られない柔軟なまなざしです。
 その柔軟さを活用して、AIの絵は著作物かどうかだけでなく、いろいろと考えてみてください。「コンピューターが作曲・演奏する動画」や、「ロボットの描く物語」にお金が払われるべきか。自分の絵が、どこかでAIに「トレパク」される可能性に、社会はどう対応すべきか……?

著者情報

弁護士(日本・ニューヨーク州)/日本大学芸術学部・神戸大学大学院・iU 客員教授

福井健策

ふくい けんさく

1991年 東京大学法学部卒。1993年 弁護士登録(第二東京弁護士会)。米国コロンビア大学法学修士課程修了(セゾン文化財団スカラシップ)、シンガポール国立大学リサーチスカラーなど経て、現在、骨董通り法律事務所 代表パートナー。著書に「改訂版 著作権とは何か」「誰が『知』を独占するのか」(集英社新書)、「エンタテインメントと著作権」全5巻(シリーズ編者、CRIC)、「18歳の著作権入門」(ちくまプリマ―新書)、「ロボット・AIと法」(共著・有斐閣)、「エンタテインメント法実務」(編著・弘文堂)ほか。多くのコンテンツ企業・クリエイターの顧問、内閣府知財本部・文化庁ほか委員、デジタルアーカイブ学会・ELN理事、緊急事態舞台芸術ネットワーク常任理事・政策部会長、日本文学振興会評議員などを務める。https://www.kottolaw.com Twitter: @fukuikensaku

関連記事