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社会問題

消費もできなくなった若者の不安(後編)

“正社員でなければ一生不利”という仕組みを変えよ

山田昌弘(中央大学教授)

 新卒時に正規雇用の枠組みからはずれると、不安定な生活状況からなかなか抜け出せない。「自己責任」という言葉で放置され続けた若者は、保守化せざるをえなくなった。“努力が報われない社会”と感じる「若者の不安」の後編。若者の希望をつなぐにはどうしたらよいのだろうか。

10万人を超える就職浪人

 文部科学省の集計によると、2010年3月の大学卒業生54万1000人中、就職したものは32万9000人、就職も進学もしないで卒業したものは、8万7000人にのぼることが明らかとなった。これに、就職が決まらないから留年したものや大学院に進学したものを加えれば、就職活動をしたのに就職が決まらなかったものは、10万人を下らないだろう。高卒者の状況はもっと悪い。就職も進学もしないものは5万9000人だが、正社員職が見つからず、派遣などの一時的な職に就いたり、専門学校や大学にしかたなく進学するもの、そして、中退者を含めると、就職したくてもできなかったものはかなり多くなる。
 昔、フリーターが問題になったとき、ピーター・バラカンさんと対談したことがあった。日本で、正社員になれずにアルバイトしている若者が何百万人になったと私が言うと、バラカンさんが、そんなのイギリスでは当たり前だよ、やっと日本も欧米に近づいてきたねと言われたのを覚えている。

「学卒後に正社員」の時代は終わった

 そうなのだ。欧米では、若者が学校卒業後すぐに企業の正社員になれるという時代はとうの昔に終わっている。大卒者でも、卒業後アルバイトをしながら、自分の進みたい道を探すものが多い。正社員になっても転職や離職は当たり前。少し前に、城繁幸さんの書いた「若者はなぜ3年で辞めるのか?」(光文社新書)という本がベストセラーになったが、欧米では、自分に合わない会社で無理して勤めている方が問題だと考えるだろう。
 欧米人から見れば、大学新卒者の6割が正社員として就職していれば、こんな恵まれた状況はなく、なぜ日本では問題になるのかといぶかしがるに違いない。かつ、日本は、親同居未婚者が多く、学卒後就職できなくても、とりあえずは親が生活を支えるので、欧米のように低収入の若者が町にあふれることもない。

新卒一括採用システムの弊害

 しかし、日本は、「新卒一括採用システム」が一般的である。一般的と言うよりも、新卒の時が安定した企業の正社員となれるほとんど唯一のチャンスである。そこで、失敗することは、単に学卒時に職がないということだけではなく、一生涯、まともな就職が難しくなることを意味する。一度、正社員になれば、転職や起業するにも有利であるが、正社員経験がないアルバイトは、就職においてほとんど絶望的な状況に置かれる。アルバイトから同じ企業で正社員という道は細いし、別の企業での正社員採用も難しい。しかたなく、中小企業の中でも不安定な会社に就職し、また、失職するといったことの繰り返しになる可能性が高い。

正社員になれないものは一生損!?

 つまり、新卒時に、正社員グループと、非正規社員グループに振り分けられて、一度非正規社員グループに入ると一生損をしてしまい、挽回はほぼ不可能という構造になっているのだ。そして、おまけに、正社員グループから非正規社員グループに移ることは簡単だが、逆は極めて難しいという状況がついてくる。
 だから、学生は、新卒というチャンスを逃すまいと、就職活動に必死になる。つまり、非正規社員グループに振り分けられまいと努力し、就職できたらできたで、自分に合わないと思っても、一生勤めようとしがみつくという態度が生まれる。これが、新入社員の終身雇用願望につながってくる。

政府の対策では基本構造に変化無し

 政府は対策としてトライアル雇用などを行った企業に助成金を出すとか、日本学術会議は学卒後3年は新卒扱いを求める提言などをしている。これらの施策、提言は、今の「新卒一括採用」という慣習をそのままにして、それを少し緩和させることを言っているだけに過ぎない。結局、学校卒業時に、正社員、非正社員の二つのグループに振り分けて、その後は非正規社員への一方通行しかないという基本的構造には手をつけないまま、対策がなされているのだ。それなら、結局、若者は、不安の中で学生時に就職活動に一所懸命になるしかなく、正社員になれなかったグループは、一生、正社員になれないと諦めてしまう構造はなかなか変わらない。

若者の入職構造を変えよ!

 もう、新卒時に一括採用して、正社員になったら安心、なれなかったら一生不利という若者の入職構造自体を根本的に変える必要がある。企業は採用時に、年齢や学卒年を聞いてはいけないとか、アルバイトの中から一定の割合を正社員にすることを義務づけるなどを行う必要があるだろう。つまり、学卒時に正社員にならなくても、採用でまったく不利にならないシステムを作るのだ。新卒者だけではなく、企業でアルバイトをしていたもの、転職組、海外を放浪してきたものなど多様な経歴をもったものから、企業は正社員を選抜する。そうすれば、新卒で就職しない人が多くなっても、大きな問題にはならない。オランダのようなシステムが参考になるだろう。

やりたい仕事をみつける機会を

 新卒で採用されることに特別の有利さがなければ、学校に通っている間、自分のやりたいことを追求できる。そして、学卒後すぐに就職できなくても、海外に行って見聞を広げる、さまざまなアルバイトをこなして自分のやりたい仕事をみつける、大学院や専門学校に入り直してみるなど、自分の向き不向きを確かめながら、創意工夫し、最終的に正社員としての自分に合った就職先をみつけることが可能になる。
 とにかく、若者が安定した職をみつけるシステムを徹底的に変革していかなければ、若者の不安意識はますます高まり、若者の貴重なエネルギーを就職活動につぎ込むしかなくなる。そして、正社員となれた若者は安心して海外勤務を嫌ったり、逆に自分に合わない仕事だと思っても、やり直しがきかないがゆえに、しかたなく仕事をし続けるものが増えるのでは、と心配している。

著者情報

中央大学教授

山田昌弘

やまだ まさひろ

1957年生まれ。81年東京大学文学部卒業。86年同大学院社会学研究科博士課程退学。東京学芸大学教授を経て現職。専門は家族社会学。愛情やお金を切り口として、親子・夫婦・恋人などの人間関係を社会学的に読み解く試みを行う。“パラサイト・シングル”“格差社会”という流行語を生んだ『パラサイト・シングルの時代』『希望格差社会』をはじめとして、『新平等社会』『少子社会日本』『なぜ若者は保守化するのか』、また共著に『「婚活」時代』、編著に『「婚活」現象の社会学』など著書多数。

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