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連載

奨学金返済問題への関心が再加熱 〜マスコミ報道の広がりから国会審議の場へ

第80回

大内裕和(武蔵大学教授)

 前回の本連載「奨学金に翻弄される若者の今 〜円安・物価高対策で返済負担が上昇!?」では、2026年5月18日に「奨学金問題対策全国会議」(大内裕和共同代表)が行った文部科学省記者クラブでの記者会見を取り上げました。この会見においては、日本銀行の利上げによる金利上昇で、有利子奨学金利用者の返済負担が急増する危険性を提起しました。

 この記者会見にはマスコミ各社が注目しました。まず毎日新聞が5月19日、「金利上昇、奨学金返済困難に 借りずにバイト漬けの学生も」という記事を出し、金利上昇による奨学金返済の負担増加の実態と、アルバイト漬けで学業に困難をきたしている学生の声を報じました。朝日新聞は5月22日、「物価や金利上昇、のしかかる奨学金返済 弁護士らが23日に電話相談」という記事で、奨学金返済の負担増に加えて物価高が「若者の貧困」に与える影響にも詳しく言及し、奨学金問題対策全国会議が同23日から実施した全国一斉の「ホットライン」についても紹介しました。

 さらに共同通信も「奨学金の利率上昇で相談会 23日に全国一斉」(47NEWS、26年5月19日)という記事を配信しました。この記事は北海道新聞、静岡新聞、福井新聞、中国新聞、愛媛新聞、西日本新聞、沖縄タイムスなど全国の地方紙にも掲載され、この問題がマスコミ各社によって大きく報じられたことが分かります。

 6月3日、産経新聞東京版の朝刊に「奨学金の返済、若者生活圧迫 長期金利上昇で利率5年前の10倍超」(オンライン版は6月2日配信)という記事が掲載されました。この記事は有利子奨学金の返済負担増について、当事者への取材を踏まえた詳しい内容となっており、私も記者からのインタビューに答えています。

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 実はこの産経新聞東京版の記事が、国会の審議の場で取り上げられたのです。

 6月5日、立憲民主党の塩村あやか参議院議員が参議院予算委員会で質疑に立ち、この記事を紹介して松本洋平文部科学大臣に「奨学金返済が大変になっていると文科大臣は感じませんか?」と尋ねました。これに対して松本大臣は、「きめ細かな対応が重要だと考えている」「奨学金の負担というものをなるべく減らしたい」と答弁したのです。

 続いて塩村議員は高市早苗首相に、「金利がある世界になって総額700万円を返済するというケースも出てきている」「借りた額よりも100万円多く返さなきゃいけない」「こうしたことに対する総理の認識をお伺いしたいと思います」と、奨学金返済の負担について質問しました。これに対して高市首相は、「確かにご家庭を持つ時期に奨学金の負担が多いということは大変だと思います」「大変だという認識を持っております」と答弁。この後、塩村議員は奨学金返済について税額控除を求めました。高市首相は「一つの提案として胸に留めさせていただきます」と、税額控除の導入に即賛同はしなかったものの、検証はすると述べています。

 この高市首相の答弁には、重要な気づきがありました。本連載第76回「高市早苗首相『必要のない奨学金を借りる』答弁の問題性」で書いたように、26年2月26日の参議院本会議では、立憲民主党の斎藤嘉隆議員が奨学金返済減税を求めたのに対し、「奨学金の貸与を受けなかった方との公平性や必要のない奨学金を借りるといったモラルハザードなどが起こる可能性」があると反論しています。今回は有利子奨学金返済の負担増に関する報道が増え、返済負担の軽減を求める声が強まっていることで、高市首相自身が対応せざるを得なくなったのだと思われます。

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 このように新聞等での報道が広がる中、「デモクラシータイムス」というWebメディアから私に出演依頼がありました。出演に誘ってくれたのは、ジャーナリストの竹信三恵子さんです。竹信さんは同チャンネルで「竹信三恵子の信じられないホントの話」という番組をもたれています。企画時点で竹信さんから、「今、取り上げるべきテーマは何かありますか?」と尋ねられ、私はすぐに「金利上昇による奨学金返済負担増を取り上げるべき」と応じ、タイトルは「金利上昇で膨らむ 奨学金地獄」(26年6月4日配信)と決定しました。そしてもう一人のゲストとして、東京大学の現役学生である金澤伶さんにも出演してもらうことにしました。「奨学金返済の負担増」というテーマを議論する上で、学生・若者当事者の声を直接聞くことが重要と考えたからです。

 番組の冒頭で金利上昇による有利子奨学金の返済負担増加の実態を紹介した後、「奨学金問題の経緯」について私が解説しました。1980年代半ばにおける有利子奨学金の導入と「きぼう21プラン」以降の第二種(有利子)奨学金の拡大による奨学金制度悪化の経緯を紹介し、また教員や大学などの研究者になると奨学金返済が免除される制度が、98年からは小・中・高の教員、2004年からは大学などの研究者について廃止されたことを説明。無利子が中心だった時代と有利子の急増後の時代、返済免除制度があった時代となくなってからの時代で、奨学金に対する認識に大きな世代間ギャップがある点も強調しました。

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 私の解説を受けて、パーソナリティーの竹信さんは「私は無利子世代」と断った上で、「私と同世代の人たちは『何で返さないんだ』みたいなことを軽く言う」「奨学金の現状を理解していないご年配の方は、この重さが理解できない」とコメントしました。奨学金制度が変化したことを知らない人も多く、自身と同世代の人々に奨学金返済の深刻さが伝わっていないではないか、という現状を指摘されたのです。

 1960年代〜70年代には、現在に比べて大学の学費が圧倒的に安かったことから、借りる奨学金の額も少なくすみました。また労働組合の春闘によるベースアップで毎年賃金が上昇する労働者の割合が高かったこと、時のインフレによって無利子奨学金の借入額が実質的には「目減り」を続けていたことなどが、奨学金返済の重みを感じさせなくする社会的条件となりました。その当時、奨学金を返済することは、全体として現在よりもはるかに容易であったと思われます。そうした社会的条件を前提にすると、ある世代以上の人には奨学金返済に苦しむ現在の若者の困難を理解することが難しくなると想像できます。

 このような世代間ギャップは、有利子奨学金の返済負担増の問題を解決する妨げになるので、竹信さんの発言はそこを埋めるという点で意義深いものでした。

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 2000年~12年にかけての有利子奨学金の利用者増による奨学金制度の悪化を説明した際に、金澤さんから出たコメントも示唆に富むものでした。金澤さんは、有利子奨学金利用が増えた時期に卒業した世代の人から、「奨学金返済のために、卒業後もブラック企業に押しとどめられたまま抜け出せなくなった」という声を聞いたことがあること、また「学費値上げ反対緊急アクション」が行った学費値上げの撤回と高等教育予算の拡充を求める要請書の賛同フォームには、上の世代から多数の賛同が寄せられ、賛同フォームの中の自由記述欄を読むと奨学金返済の困難が継続していることを実感したと語られました。

 金澤さんのこの発言は、私に大きな気づきを与えてくれました。00年~12年にかけて無利子奨学金の利用者がほとんど増えない中、有利子奨学金の利用者が激増し、返済の困難がクローズアップされました。そこで私たちは13年に奨学金問題対策全国会議を結成し、奨学金制度の改善を目指したのです。その後、延滞金賦課率の引き下げ、返済猶予期限の延長、無利子奨学金の増加と有利子奨学金の減少、そして給付型奨学金の導入……と、奨学金制度が着実に改善してきたことは事実です。

 しかし新規の利用者に対する制度改善が進む一方で、既利用者についての返済負担の軽減はなかなか進まず、返済期限猶予の延長や月ごとの減額返還制度の導入と改善のみにとどまっています。ということは、有利子奨学金の利用者が急増した世代の人たちの返済負担の重さは、現在も続いていると見ることができます。特に奨学金返済は最長20年間に及び、猶予制度を利用すればその期間はさらに延びることになります。

著者情報

武蔵大学教授

大内裕和

おおうち ひろかず

1967年、神奈川県生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得。松山大学教授、中京大学教授を経て2022年度より現職。「入試改革を考える会」代表。「奨学金問題対策全国会議」共同代表。著書に「ブラックバイトに騙されるな」(集英社)、「教育・権力・社会」(青土社)、「ブラック化する教育 2014-2018」(青土社)などがある。

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