X JAPANが世界で評価される理由
津田直士(作曲家/音楽プロデューサー/音楽家)
他の日本人アーティストが成し得なかったこのような快挙を、X JAPANが初めて成し遂げられたのはなぜでしょうか。この理由を考えるにあたり、逆に「なぜ他のアーティストは海外で成功できないのか」を考えてみます。
それは「海外で成功しなくても、幸せになれるから」ではないでしょうか。日本のアーティストは国内で成功すれば、経済的にも恵まれ、好きなことが自由にできるような立場になります。これはポップミュージックが「国内でビッグビジネスになりやすい」という性質を持っているためです。しかしその性質は、恩恵を受ける人たちにとっては素晴らしい反面、「既得権益や利権が発生する」「作品の芸術性やアーティストの才能より、ビジネス性が優先される」といった代償を伴います。
さて、そういった恩恵を受けている日本のアーティストが海外で成功しようとすると、そこには言葉の壁や環境の違いなど、多くのリスクと困難が待ち受けています。そもそも、それらを克服するためには、日本を離れて海外へ長期滞在する必要があります。音楽先進国のアメリカでの成功を目指せば、そこには世界中から才能あるアーティストが集まっていますから、日本での成功とは比べものにならないほど、厳しい努力や鍛錬を強いられます。
一度日本で成功したアーティストにとっては、プライドが傷つく可能性も高く、リスクも高く、相当な覚悟がなければ成功は難しい。そのような熾烈な経験を、日本で幸せでいられるアーティストがわざわざする必要はないわけです。
では、X JAPANの場合はどうだったのでしょうか。
リーダーのYOSHIKIは、1992年から25年間、ずっとアメリカを活動拠点としています。音楽ビジネス上の交渉を直接できるレベルの語学力を自力で習得し、音楽ビジネスを地道に展開しながら独自の人脈を築き上げつつ、自力で買い取ったスタジオで、ひたすら音楽作品を生み続けました。
そもそも、X JAPANは、日本ではミリオンセラーを生み出す成功者です。バンド解散後、YOSHIKIが日本の音楽業界の中に居続けて、幸せな生活を続けることは可能でした。しかし、彼の中には「そのような生きかたを決して選ばない強いエネルギー」が存在していました。それは、とても純粋でマグマのような熱い魂が生む「音楽への情熱」。YOSHIKIにとって、生み出す作品は「芸術」そのものです。日本で成功して楽しい時間を過ごすことよりも、自らの芸術作品を世界に向けて伝えていきたい、という情熱の方が遥かに強いのです。X JAPANが海外で成功している背景には、「世界に通用する芸術を生み続けたい」という志の高さが生み出す、YOSHIKIのエネルギーがあったわけです。
ところで、音楽業界以外のジャンルを考えてみると、作品を生み出すアーティスト=芸術家にとって「純粋な作品への情熱」は特別なものではありません。その理由はおそらく、音楽業界ほど「ビジネスマター主導」ではないからでしょう。
夏目漱石、三島由紀夫、村上春樹……
葛飾北斎、草間彌生、村上隆……
黒澤明、宮崎駿、北野武……
それぞれのジャンルで、国境を超えて愛される芸術家は、日本にも数多くいます。作品にきちんと力があれば、国境という壁も消え、本来、音楽の世界も同じであったはずです。しかし、音楽、とりわけポップミュージックの場合、その壁を高くしてしまっていたのは、皮肉にも他の芸術と比べて、簡単にビッグビジネスになりやすいという性質でした。
幸か不幸か、CD不況によってその性質が壊れ始めた今こそ、音楽というカルチャーが芸術という本来の力を取り戻すチャンスだと筆者は考えています。加えて、今日では、世界中の人たちとダイレクトにつながることのできるネット環境があります。これもまた、ビジネスマター主導という呪縛を解く、強い味方です。才能のある日本の若い人たちが、オリジナリティーあふれる素晴らしい芸術作品を生み、世界に発信していくことに期待しながら、そのような明るい未来を、X JAPANの成功から感じ取ってもらえたら大変うれしく思います。
著者情報
作曲家/音楽プロデューサー/音楽家
津田直士
つだ なおし
1961年生まれ。早稲田大学卒業。大学在学中よりプロ・ミュージシャン活動を始め、卒業と同時にCBS・ソニー(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)に入社。2003年、フリーランスとなり、作曲家・音楽プロデューサーとして活躍。1989年、周囲の誤解や偏見を乗り越えて、X JAPANと改名する前のXのメジャーデビューを実現させ、制作からマネジメントまで携わった。1992年にXがX JAPANへと改名し、アメリカのアトランティック・レコードに移籍した後の最初の作品にして約30分におよぶ大作「ART OF LIFE」の共同プロデューサーも、レコード会社の壁を超えて務めている。
著書に、『すべての始まり エックスという青春』(クレスタコレクション、2009年)があるほか、CDブックレットのライナーノーツ(バンド及び作品の解説)もファンの間では有名。