推し活歴40年近く、いよいよ様子がおかしくなってきた
雨宮処凛(作家、活動家)
露出多めの衣装に身を包み、観客席でダンスを踊る女性たち。数年前、台湾チアガールのリン・シャンが有名になったが、それの韓国版と言えばいいだろうか。
が、最初に見た頃は素人っぽくやる気がない感じでごく簡単な振り付けをしていたチアガールだが、ある時期からどんどん垢抜け、プロ顔負けのパフォーマンスを披露するようになり、私の関心はなくなった。あくまでバイト的な感覚で適当にやっている姿に惹かれていたのだ。
さて、そんな私がTikTokで最近ハマっているのは中国の美少女(とか書いたら怒られそうだが、そうとしか表現しようがないので勘弁してほしい)。
アニメや漫画から飛び出してきたような女の子で、そんな美少女がただ歌ったり踊ったりしているのを眺めるのが至福の時間だ。最近は、その美少女が日本語で自分の名前を考えたいと言っていて、それを見た私は3日間くらい熟考に熟考を重ね、「小川葵(あおい)」という名前を考えた。
51歳女が何をしているかという話なのだが、ここまでのことを私は「いいね」などの反応をするでもなく、ましてやコメントをするわけでもなく、ただただ自分の脳内だけで完結させているのである。自分でも、そんな自分がうっすらと怖い。
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さて、最近、初めてそんな「中国の美少女」について口に出す機会があった。
飲んでいる時にTikTokで何を見ているかという話になり、その場の流れで話したのだ。深夜、一人の部屋で小さなスマホ画面で何を見ているかというのはかなり秘匿性の高いことである。しかもそういった環境で見ているゆえか、会ったこともないのになぜかこちらは相手に対して「1対1の親密さ」すら感じているわけである。シラフであれば「中国の美少女が好きで……」なんて隠し通したところだが、酔いが回っていたのだろう、つい口に出してしまった。そうしたら、「初めてあの美少女について話す」という行為が思いのほか嬉しくて、「ものすごく可愛くて、本当に人形みたいで」と熱弁。すると同席していた人は、思いがけないことを口にした。
「それってAIじゃなくて?」
その瞬間、頭が真っ白になった。
ちょうどその数日前、TikTokでその子を見ながら、彼女に会えるイベントなんかがあったらそれを理由に中国に行きたいな、と漠然と考えていた。それは実現可能性の低いふんわりした願望だったけれど、その正体がAIだったとしたら――。
21世紀版の「キツネにだまされた話」みたいで最高ではないか。
その日から、私はTikTokでその美少女を見なくなった。実在するのかAIなのか、確かめたくないからだ。謎は謎のまま、残しておきたい。答え合わせをしてしまいたくない。この気持ち、おわかり頂けるだろうか。
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さて、そうして私は今も日々TikTokを見ているのだが、見ている時の自分はものすごく無防備で受動的で何も考えていないことに時々心底ゾッとする。
バンギャの私は10代や20代、「ライヴハウスに行ってたまたま見たバンドを好きになる」という、身体を用いたことをしていた。
しかし今は、アルゴリズムによって流れてくる動画――文脈も知名度もどういう界隈のなんなのかもまったくわからないもの――を、瞬時に快・不快で判断し、興味がなければ秒でスワイプ。それがまた蓄積されていき、私好みと判断された動画が次々と流れてくるわけである。そうして単純接触効果により、うっすらといろんな人――AIかもしれないが――を好きになっている。
だけど動かしているのは指先だけで、気がつけば瞬きもあまりしていない。「ああ、これって寝たきりになっても楽しめるな」と思いつつ、そんなことを思ったのは、その状態が「介護」に近いからという気がしてちょっと怖くなった。メンタルというか、「脳波」みたいなものを至れり尽くせり介護されている気がするのだ。
ちなみに最近は、40歳のメンバーがいる福岡のメンズアイドルグループStar☆Princeの動画がやたらと流れてきて、油断するとその曲を口ずさんでいたりするので気持ちを強く持っているところだ。
それにしても。動画でこんなにも簡単に好意を抱くのがチアガールや美少女だからいいものの、これが政治的なプロパガンダだったらイチコロだな……と冷静に誰かの人体実験を見るような目線のもう一人の自分もいる。
それでも私は誰かを「推す」ということを決してやめないだろう。なぜなら、複数の推しで脳内を忙しくさせてないと、なんだかすぐに死にたくなるからだ。
これは中学生くらいからの症状で、だから私はそこから気を逸せるためにずーっと推し活しているのだと思う。
世の中「推し活」が花盛りだが、みんなもそうなのだろうか。それともそういうわけではないのだろうか。
このことも、確かめたいけど、確かめたくない。