男性の「更年期」? LOH症候群について知ろう~(前編)中高年男性が悩むさまざまな不調の原因は?
イミダス編集部
(構成・文/加藤裕子)

女性だけではなく男性にも「更年期」がある。そのことを知らずに、症状があっても「これくらいたいしたことない」と我慢する男性も少なくないようだ。だが、早めに対処することで、仕事のパフォーマンス低下やさまざまな健康リスクを防ぐことができる。本人が自覚していないことも多いため、家族など周囲の声掛けも大切だ。男性更年期はなぜ起こるのか、どのような人がなりやすいのか、病院を受診するときの目安など、知っておきたい基礎知識を、泌尿器科医で聖隷浜松病院・生殖機能医学科部長の今井伸医師にうかがった。

今井伸医師(泌尿器科医、聖隷浜松病院・生殖機能医学科部長)
【前編の目次】
・P1
「男性更年期」を自覚している人は少ない
・P2
受診の目安になる症状は?
男性ホルモンの検査値だけではわからない
「男性更年期」を自覚している人は少ない
――最近、「男性更年期」という言葉をよく聞くようになりました。いつ頃から言われるようになってきたのでしょうか。
男性更年期の正式名称は、加齢男性性腺機能低下症候群(LOH〈Late Onset Hypogonadism〉症候群)と言います。男性ホルモン(編集部註:本記事では男性ホルモンのうち約95%を占めるテストステロンを指す)の分泌量が加齢やストレスに伴って下がることにより、女性の更年期同様、さまざまな症状が起こります。そのため、「男性更年期」とも言われるようになりました。

日本では、2002年頃、クイズ番組などでも活躍した漫画家のはらたいらさんが自分の経験を公表し、「男性にも女性の更年期のような症状が起こる」ということが知られるようになりました。私はその頃からLOH症候群の患者さんを診ていますが、テレビなどで取り上げられると一瞬、関心が高まり、しばらくすると忘れられるという状況が何度か繰り返されてきました。
2024年に発表された「更年期の仕事と健康に関する定量調査」(パーソル総合研究所)によれば、40〜50代正社員男性の4割弱に軽度レベル以上の更年期症状があるということです。しかし、症状が軽〜中程度では8〜9割、重度レベルであっても7割弱が、自分の不調が更年期症状だと自覚していません。女性の更年期と比べると情報が行き渡っておらず、泌尿器科やメンズヘルスクリニックを除けば、男性更年期について認識している医療者もまだ少ないのではないかと思います。そのため、内科などで検査しても「異常なし」と言われたり、精神科で処方される薬を飲み続けているのに症状が改善しなかったりして、「原因不明の不調」に悩まされ続けるということが起こってしまっています。医療者も含め、もっと多くの人が男性更年期について知るようになれば、そうした事例を減らすことができるでしょう。
最近、こうした状況も少しずつ変化してきています。経済産業省が男性の更年期症状による経済損失が年間1兆2000億円に上るとの試算を発表し、政府の「骨太の方針(2025年)」でも、男性更年期について記載されました。それらを受けて、大企業を中心に男性更年期について研修を行うなどの動きも出てきています。
――「男性更年期」は女性の更年期と何が違うのでしょうか。
大きな違いは、「更年期」になる年齢の目安の有無です。性ホルモンは男女とも、20歳頃をピークに分泌量が緩やかに低下していきますが、女性ホルモンは50歳前後に閉経で急減するのに対し、男性の場合、そのようなわかりやすいタイミングがありません。LOH症候群の患者は40〜50代以降が多いものの、早ければ30代後半から40代前半、遅い人では60〜70代で発症することもあります。また、女性の更年期は閉経前後の10年間で、それが過ぎれば症状が落ち着きますが、男性の更年期にそのような明確な区切りはありません。
テストステロンが減る原因は加齢だけではなく、ストレスも大きく関係します。何かのきっかけで多大なストレスを受け、ガクッとテストステロンが下がる、そのギャップに対応できないとき、LOH症候群の症状が出てくることが多いのです。実は僕自身も、仕事環境の変化に伴う強いストレスを経験したことで、LOH症候群を発症しました。もともと楽天的な性格だったのに、前向きな思考ができなくなり、かなり無理をしないとやるべき仕事に取り組めないという状態が続きました。今はストレスの原因もなくなり、症状も改善していますが、LOH症候群の患者さんのつらさを実感しました。
――LOH症候群の症状は多様だということですが、例えばどのような症状が出るのでしょうか。
テストステロンは、骨格や筋肉の発達、性機能に働く他、チャレンジ精神や決断力等のメンタル面、動脈硬化予防、造血、抗炎症など多岐にわたって作用します。そのため、テストステロンが減少することで、いわゆる不定愁訴と呼ばれるような多様な症状が現れます。どの症状が強く出るかは、ケースバイケースです。
それらを大きく分けると身体的症状(全身の倦怠感、筋力低下、肥満や内臓脂肪の増加、発汗異常、のぼせ、関節や筋肉の痛み、骨粗鬆症など)、精神的症状(抑うつや不安感、気分の落ち込み、やる気・集中力・記憶力の低下、睡眠障害など)、性機能症状(性欲低下、勃起不全〈ED〉)の3つに分類されます。中でも、早朝勃起(朝立ち)の減少は、典型的症状です。また、排尿器症状(頻尿、尿のキレが悪くなる、残尿感など)も、LOH症候群の症状に含まれます。
