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社会問題

水運都市東京、復活!

水都・江戸から受け継がれてきた水上交通網を見直そう

陣内秀信(法政大学特任教授)

松田法子(京都府立大学大学院生命環境科学研究科准教授)

 また、2011年に日本橋のたもとに中央区が船着き場をつくったことで、そこを起点に東京の運河を巡るツアーが活発になっています。こうした動きをもっと骨太な舟運復活に結びつけたいところです。

松田 東京で水上交通に真剣に取り組むとしたら、例えば、水辺で多くの人口を抱えているタワー型マンション群などとの接続を考える必要があるように思います。成否を分けるポイントは、レジャーや観光だけでなく、ある地域の生活インフラになりうるかどうか。住民の需要をうまくコーディネートできれば、買い物や通学、通勤の足として水上交通が使われる可能性も開けてくるのではないでしょうか。

陣内 まさにそうです。実際、すでに近い試みが行われている例として、芝浦アイランドがあります。40人ほどが乗れる「アーバンランチ」という船が、芝浦〜お台場海浜公園〜豊洲を結ぶ定期航路を日中約1時間おきに4〜8便運行しています。運営者は、浅草とお台場、豊洲をつなぐ「ヒミコ」などの水上バスを運行している東京都観光汽船株式会社です。アーバンランチには、犬や自転車をのせてもかまわない。特に自転車は、電車やバスよりもスムーズに乗降できる点で、船との相性がいいツールです。

松田 もう一つ重要な点として、水上交通が都市内で近距離の地点間を結ぶ効率的なインフラとして定着するかどうかは、各事業者の経営が成り立つかどうかにかかっていますよね。水上交通へのアクセスの良さや、水上交通それ自体の魅力が、住宅を選ぶ際に付加価値になる可能性はあるか。旅客ではまず羽田空港から都心までの片道交通が、乗り場や料金の利便性を高めて成り立つか。それから、旅客の他に物流に使えるか否か。運送会社が都内の物流に運河を使う可能性はあると思いますか? 水上バスを利用する旅客の手荷物運送については、ヤマト運輸などが社会実験をして、宿泊施設などとの連携を試みていますが。

陣内 可能性は充分にあると思いますよ。水上交通や水辺の活性化を本気で考えるなら、イベントや文化活動だけでは駄目なんです。採算がすぐに取れるはずはないけど、企業が率先してそういう先進的な取り組みをするというのは夢があるし、企業のイメージアップにもつながるかもしれないですよね。

魅力的な水辺をつくるには

松田 現状、東京の町を歩いていて、そもそも運河の方に向かう動機がほとんどないですよね。だいたい通りは運河に近づくにつれて暗くなっていくし、護岸が壁のようだったり、遊歩道があっても水面が遠かったりと、不安を煽る感じがして、足が向かない。まずはどう足を向けさせるか、というところからだという気もします。

陣内 水辺の魅力がまだまだつくれていないんです。第一に、照明がよろしくない。
 東京都は少し前から、隅田川の関連区(台東区、墨田区、中央区、江東区、荒川区)とともに、「隅田川ルネサンス」というプロジェクトに取り組んでいます。行政関係者は基本的に、別の行政区と同じテーブルにはつかないのですが、同じ隅田川の流域だから、ということで何とか集まって、さらに各区の観光協会と専門家が加わった。協議の過程で、照明が重要だと認識し、照明デザイナーの面出薫(めんで・かおる)さんに頼み、社会実験をしてもらいました。それなりに成功しましたが、東京都はそういう動きを最後まで実現する方向にはなかなか進んでくれない。

松田 その点、うまく水を活用してきた大都市といえば、日本ではまず大阪を挙げられるように思います。東京との違いはどんなところにあるでしょうか。

陣内 大阪には水の都としてのプライドとノウハウの蓄積、こだわりがありました。それから大阪は、東京に比べてまちづくりのテーマを水に絞りやすい。東京は発展志向、開発志向で、土地に対する経済行為の比重が高く、都市としてのテーマも選択肢が多すぎて、文化や歴史にちゃんと向き合うことが実はまだまだできていないのではないでしょうか。一方の大阪は、都市型の水の空間を生かす方向で頑張り続けてきたので、ノウハウの蓄積があるのです。あとは、自治体が総力を挙げて取り組んでいるかどうかの違い。東京にも水辺活用を呼びかけるグループがいくつかありますが、動きがばらばらです。加えて、都も財界もなかなか本腰を入れてくれません。大阪はそこが違うんです。水辺を活用したい団体がひとつにまとまるし、府、市、財界からの応援や経済的な後押しもすごい。商工会議所には水都大阪のための研究会があって、プランナーもNPOもみんな参加している。東京と大阪ではそういう迫力が全然違います。

松田 水辺活性化のポイントがよくわかりますね。

東京の水辺が本当に活性化するには?

松田 近年は「ミズベリング」というネットワークが全国に広がってきていますよね。

陣内 都市の水辺を再生しよう、あるいは水辺を使って町を元気にしていこうというプロジェクトです。従来は水辺の再生というと、環境派、自然派、社会派の人たちの運動的な活動が多かった。それはそれでいいのですが、ミズベリングは、川辺でイベント、アート活動やコミュニティーづくりのほか、経済的にも面白いことができそうだし、まずは川を楽しんじゃいましょう、という軽やかな活動です。これが急速に広まっています。

 河川の整備とまちづくりの間には、長いことつながりがなかったんです。一級河川は国交省の管轄だし、自治体にとっての川は治水と防災の役割が最優先で土木事業の本丸なので、まちづくりや地域活性化とは関連がなかったんです。それが1980年代から、少しずつ川の景観にも目が向けられるようになって、まちづくりの中で川の重要性が増してきました。それから河川法の改正で、環境に配慮するための要素が入ってきた。加えて重要なことは、川のまわりを積極的に利用していこうというメッセージを国交省が発信したことです。これによって、河川区域内の公有地であっても、地元の合意が取りつけられればそこで営業をすることができるようになりました。2004年に社会実験が始まって、11年には「河川空間のオープン化」というコンセプトで、経済活動が可能になり、たとえば広島ではいくつかの川沿いにオープンカフェができたり、名古屋の堀川や大阪の北浜テラスといった活用例も出てくるようになりました。東京でもすでに4例があります。

松田 近年一挙にそういった活用例が出てきた背景としては、ルール変更に向けた国交省の一歩がまず大きいということですね。東京都は13年から「かわてらす」(京都鴨川沿いの飲食店などが、河川敷や川面の上に床を張り出す「川床」の東京版)という社会実験を始めています。日本橋周辺から始まって、18年3月には実験を終えて本格的に始動し、浅草、両国、深川、越中島、築地に対象エリアを拡大しました。これで隅田川沿いのかなりの部分が対象範囲に入ったうえ、対象エリア外や他河川での実施も個別相談に応じる、という形で規制が緩和されつつあります。水辺活用の本格的な広がりには、やはり公のバックアップが不可欠ですよね。

陣内 都や国もだんだん民間を応援してくれるようになってきています。河川利用の活発化に関するプロジェクトは国交省の中でも花形化し始めていると聞きました。担当者たちが、市民と一緒に取り組みに参加できるという喜びを実感しつつあるようです。今まで土木系の公共事業が一般の人たちの注目を浴びること、ましてや市民と一緒に何かをつくっていくなどということは、ほとんどありませんでした。国交省の職場改革や意識改革の波及効果も期待したいところですが、まずは楽しくやるのが大事ですよね。

松田 こういう動きを加速するには、ほかにどんなことが重要だと思われますか?

陣内 水辺利用を生活の中に拡げていくには、やはり民間企業の積極的な参入が必要です。そして良い事例を国交省が顕彰する。東京の場合には特に、企業にもっと関心を持ってもらって、投資してもらい、照明や遊歩道といった水辺の「ハード面」のあり方を変えていかないとなりません。今までの水辺活用の試みはほとんどが一過性のイベントで、日常につながりませんでした。欧米を回っていると、民間企業が水辺の環境の良い場所に、素敵なオフィスやくつろげる空間を設け、確実に一定の人が集まる流れをつくりだしているんです。日本、特に東京は全くそうなっていない。

 ただし、もちろん日本でも不可能なわけではありません。僕の教え子が水辺活性化に取り組んだ例があるので紹介します。彼は芝浦運河沿いにある築20年ほどのマンションをリノベーションして、1階にイタリアンレストランを誘致しました。このマンションの敷地は運河に接しているのですが、行政が護岸目的でつくったプロムナードと内側の民地の間に植栽や柵があり、運河に降りることができなくなってしまっていた。彼はその状況を変えるために行政と話し合って規制を突破し、最終的にはレストランの前から運河まで続く階段状のテラスを設計して、そこにテーブルや椅子も置き、それは素敵な外観に仕上げました。

松田 水辺の使い方に関する規制を、個人が突破できる例もあるということですね。根気が必要ですが、どうやって制約に風穴を開けることができたのかという個別事例が共有されていけば、これからチャレンジする人への参考にもなりますね。

陣内 あと、僕はエリアマネジメントの効果を今すごく意識しています。

松田 特定エリアを対象に、官民が連携し、または民間が主体となって、まちづくりや地域経営を行っていこうという取り組みですね。

陣内 大阪の道頓堀は南海電鉄がエリアマネジメントを担っています。まちづくりの会社も徐々に増え、実績もあらわれてきました。

著者情報

法政大学特任教授

陣内秀信

じんない ひでのぶ

1947年福岡県生まれ。東京大学工学部建築学科卒業、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。イタリア留学後、法政大学工学部助教授、同教授、法政大学エコ地域デザイン研究所所長を経て2007年から法政大学デザイン工学部教授。1985年に『東京の空間人類学』(筑摩書房)でサントリー学芸賞を受賞するなど、受賞歴多数。著書に、『水辺都市 江戸東京のウォーターフロント探検』(89年、朝日選書)『イタリア海洋都市の精神』(15年、講談社)、『イタリア都市の空間人類学』(15年、弦書房)ほか多数。

京都府立大学大学院生命環境科学研究科准教授

松田法子

まつだ のりこ

1978年生まれ。京都府立大学卒業、京都府立大学大学院博士後期課程修了。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻客員研究員などを経て2018年から現職。専門は「水際の土地の居住に関する社会・文化・技術・景観の研究」「温泉場・温泉町の空間・社会研究」など。著書に『絵はがきの別府』(左右社、12年)、『シリーズ 遊廓社会2 近世から近代へ』(共著、吉川弘文館、14年)、『危機と都市 Along the water』(共編著、左右社、17年)など。

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