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ハエとの距離感に悩む

迷惑だけど役にも立つ、ややこしい彼らとの付き合い方

葛西真治(国立感染症研究所 昆虫医科学部第三室 室長)

 ハエはまた、実験動物として私たちに多大なる貢献をしています。小型で飼育が容易であり、世代交代が早く、さまざまな突然変異体のストックがあるショウジョウバエは特にモデル生物として重要な実験動物であり、この昆虫の研究から歴史的にも重要な発見が数多くされてきました。
 2011年にノーベル生理学・医学賞を受賞されたフランスのホフマン博士の研究は、ショウジョウバエの実験動物としてのメリットを生かして、昆虫の新たな免疫機構を発見したものでした。後にこの機構がヒトをはじめとする哺乳動物にも共通に備わっていることが明らかとなり、受賞につながりました。
 ホフマン博士の研究はショウジョウバエを用いた抗カビたんぱく質の研究に端を発したものです。腐敗した環境を好む別のハエを用いた研究では、抗生物質に耐性を獲得した細菌に対しても効果が期待される抗菌たんぱく質の存在も明らかになり、医薬品としての実用化に向けた研究が進められています。

どう付き合っていけばいいのか

 ゴミの収集・処分方法が改善されて住環境の衛生状態が格段に向上し、散歩中のペットの糞に対するマナーも浸透してきている最近の日本。ハエは以前ほど身近な存在ではなくなってきました。それでも、窓を開けっ放しにすれば、彼らは今でも結構な確率で家の中に入ってきますし、先の震災のように有機物が散乱する状況になれば、たちまち大発生する状況となりえるでしょう。
 しかし、時として恐ろしい病気を媒介するハエも、一方では逆に人の命を救ったり、重大な事件を解決したり、さらには今後の医学界発展のための貴重な実験材料になっているのです。この小さな昆虫がもたらす大きな貢献に少し思いを巡らせながら、彼らとの距離感を上手に保っていきたいものです。

著者情報

国立感染症研究所 昆虫医科学部第三室 室長

葛西真治

かさい しんじ

1970年生まれ。筑波大学大学院農学研究科博士課程修了、農学博士。アメリカ・コーネル大学博士研究員を経て2000年から国立感染症研究所研究員となり、主任研究官を経てコーネル大学客員研究員を務めたのち、現職。蚊、ハエ、ゴキブリ、シラミのように病気を媒介する衛生害虫の防除対策や、殺虫剤抵抗性分子機構の解明と抵抗性のモニタリング、殺虫剤の新規作用点の探索などを研究。著書に『分子昆虫学 ポストゲノムの昆虫研究』(共著、共立出版、2009年)、『招かれない虫たちの話』(共著、東海大学出版部、2017年)などがある。

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