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一語千金

設備投資

[capital investment]
消費と並ぶ景気の牽引役

玉手義朗(エコノミスト)

 渥美清主演の映画「男はつらいよ」に登場する、太宰久雄演じる「タコ社長」。印刷工場を経営しているタコ社長は、いつも汗をふきながら「経営が苦しい」と騒ぐのがお決まりだが、第32作「口笛を吹く寅次郎」には、とても上機嫌なシーンが出てくる。
 さくら(倍賞千恵子)の夫の博(前田吟)が、親の遺産をタコ社長の会社に投資してくれたことで、念願のオフセット印刷機を購入することができたのだった。これで仕事の幅が広がり経営が楽になると、タコ社長は笑顔だったのだ。
 工場や事務所の拡張、新しい機械の購入、IT関連の情報システムの整備などの設備投資を、いつ、どの程度の規模で行うかは企業経営の最重要課題の一つだ。設備投資がうまくいけば、生産の増加や品質の向上につながり、利益の増加につながる。これが次の設備投資を可能とし、さらなる生産増加と利益向上という好循環をもたらすことが可能となる。
 一方で設備投資は、それを供給する側の売り上げや、利益の向上を生み出すという相乗効果も持っている。設備投資は、経済全体を活性化し、景気を良くする重要な役割を担っているのだ。
 国内総生産(GDP)に占める設備投資の比率はおよそ15%で、55%程度を占める個人消費支出に次ぐ規模を持っている。日本経済を巨大な旅客機、その高度をGDPと考えると、設備投資は、消費に次いで2番目に大きな出力を持つエンジンとなるわけだ。設備投資が順調に出力を上げると、GDPという高度が上昇し、好景気になる。反対に出力が低下すると高度が下がり、景気が悪くなるわけなのだ。  
 1980年代後半の日本のバブル景気を支えたのは、旺盛な消費意欲と、企業の積極的な設備投資であった。二つのエンジンの出力が急上昇したことで、空前の好景気が生まれたのだった。
 しかし、設備投資は大きなリスクを伴う。設備投資によって生産が増えても、それが売り上げ増加に直結するわけではない。売れないものを生産するために設備を拡大すれば、過剰設備となって企業経営を圧迫する。また、設備投資を行うための資金は、銀行からの借り入れなどに頼る場合が通常となるため、当然、元金と利息をきちんと払い続けられるだけの成果が求められることになる。
 バブル崩壊後、日本経済が長く深い景気低迷に苦しんだのは、消費の低迷に加えて、バブル期の過剰設備を引きずり、設備投資が極端に手控えられたことで、景気全体の足を引っ張る事態となったためなのである。
 こうしたことから、設備投資を十分にコントロールすることが、経済政策の重要課題となる。設備投資をコントロールする一つの方法が、金利水準の変更だ。金利を引き上げれば、高い金利支払いに見合うだけの収益が得られるものに限定されることから、設備投資は抑制される。反対に金利を下げれば、あまり収益性の高くない設備投資でも実行が可能となり、設備投資は促進される。
 また、税制を使った設備投資の刺激策が実行されることもある。設備投資を行った企業には税金を安くする、設備投資減税などがその例だが、これによって、企業が設備投資に踏み切りやすい環境を整えようというわけである。
 オフセット印刷機購入という設備投資を行ったタコ社長。これによって、日本のGDPはオフセット印刷機の金額だけ増加、景気の拡大に貢献することになる。しかし、問題は設備投資の後であり、オフセット印刷機の購入に見合った業績拡大を実現し、さらに新たな設備投資という好循環につなげられるかどうかだ。
 その後の「男はつらいよ」の中で、「今月の給料が払えない!」と毎回大汗をかいているタコ社長を見る限り、設備投資が成功したとは言えそうにないが、果たしてどうだったのか…。
 どんな設備投資を、いつ、どれだけの規模で行うのか。経営者の、正確で思い切った決断が重要となる設備投資。その動向は、消費と並んで、景気の行方を大きく左右することになるのである。

著者情報

エコノミスト

玉手義朗

たまて よしろう

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。その後、テレビ局で経済部デスクなどを経て、現在はフリー。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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