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連載

雨宮まみさんの一読者として

雨宮処凛(作家、活動家)

 本書を読みながら、思い出したことがある。
 フリーターの頃、北海道に帰省するたびに、帰りの飛行機に乗る直前、お腹が痛くなったこと。新千歳空港までわざわざ送ってくれる母に、いつも空港の薬局で痛み止めの薬を買ってもらい、飲んだ。居場所もなく、取り替え可能な激安労働力としてしか私を必要としない東京。そんな場所に戻ることを、身体が拒否していたのだと思う。
 薬を飲む私を見るたびに、「帰ってくればいいのに」と母は言った。だけど私はいつも「絶対帰らない」と首を横に振った。本当は、帰りたかった。「帰ろうかな」という言葉がいつも喉元まで出かかっていた。だけどそれを口にすると泣き出してしまいそうで、そうしたら今まで我慢していた全てが崩れてしまいそうで、絶対に言えなかった。それほどに、私は「何か」になりたかった。その「欲望」だけは、自分でも手に負えないほどのものだった。

 そんなことを何度も繰り返して、いつからか、私は東京行きの飛行機に乗る前、腹痛を起こさなくなっていた。腹痛を起こしていたことさえ、『東京を生きる』を読むまで、忘れていた。いつから私は、痛み止めを飲まなくても、東京に「帰れる」ようになったのだろう。
 そう思って、気づいた。物書きになって、数年経ってからのことだった。なんとなく、やっていけるかもしれない、と思い始めた頃。そして自分の居場所が、ここに居ていいと思える関係性ができつつあった頃だった。
 そんなことを思い起こさせてくれる雨宮まみさんの文章は、書き手としての私の背筋を、いつもスッと伸ばしてくれる。
 会ったこともない彼女が私の中で「特別」だったのは、なんだか東京で共に闘う「同志」のような気がしていたからだ。そんな人がもうこの世にいなくて、彼女が書いたものがもう読めないと思うと、ただただ、純粋に、悲しい。
 だけど、私はこれからも、彼女の残したたくさんの言葉たちに救われることを確信している。

次回は2月2日(木)の予定です。

著者情報

作家、活動家

雨宮処凛

あまみや かりん

1975年、北海道生まれ。反貧困ネットワーク世話人。バンギャ、フリーター、右翼活動家などを経て2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。2006年からは貧困問題に取り組み、『生きさせろ! 難民化する若者たち』(2007年、太田出版/ちくま文庫)は日本ジャーナリスト会議のJCJ賞を受賞。著書に『学校では教えてくれない生活保護』(‎河出書房新社、2023年)、『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書、2024年)など多数。

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