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連載

里山の大衆食堂 〜ヤブガラシ

第111回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 田んぼが色づく季節がやって来ました。近年は、お米の改良品種が出回っているせいか田植えが早くなり、夏の終わりには収穫を済ませる農家も見られます。その結果、田んぼの風景は、場所によって色づきがまばらになり、一面真っ黄色に染まるタイミングを得るのが難しくなりました。残暑が続く日には、季節はずれの入道雲が立ち上ることもあり、秋の田園の風情を味わうのに苦労します。

初秋の感じがなくなった田園風景。(撮影:今森元希)

 そんな秋の初め頃、「光の田園」の一角では、ヤブガラシの花が元気よく咲いています。ヤブガラシというと、真夏に開花するイメージがありますが、私は、初秋のヤブガラシこそが本命だと思っています。
 というのも、この頃にヤブガラシの花にやって来る昆虫たちの種類と数には、いつも驚かされるからです。蝶は、夏にもやって来ますが、秋に新たに発生するナミアゲハ、キアゲハ、アオスジアゲハ、イチモンジセセリなど、フレッシュな顔ぶれが揃うのは圧巻です。さらに、蜂やあぶの仲間もたくさんやって来ます。キイロスズメバチやコガタスズメバチ、セグロアシナガバチやスズバチなど、昆虫を観察するのが目的なら、ヤブガラシの前に座っているだけで十分だと思うくらいです。

群生するヤブガラシ。(撮影:今森元希)

 ヤブガラシの花には、なぜこんなにもいろいろな種類の昆虫がやって来るのでしょうか。その秘密は、小さな花の構造にあるようです。ヤブガラシは、直径5ミリくらいの小さな花を咲かせます。花は、手を広げたようにたくさん集まっているので、着地して歩きながら蜜を吸う蜂などには都合がよいのです。
 ひとつの花を見ると、オレンジ色をしたとてもかわいらしい姿をしています。咲いたばかりの時には、お皿のような花盤かばんの周りにおしべが伸びていて、お皿の上に蜜が溜まるようになっています。やがておしべはなくなるのですが、その後も、蜜はしばらく分泌され続け、長い期間、昆虫たちに餌を供給します。お皿の上に蜜が載っているのですから、口吻こうふんの長さにかかわらず、どんなお客さんもウェルカムなのです。ヤブガラシにはビンボウカズラという別名があるように、人々が敬遠する雑草の代表のように思われがちです。しかし、生きものたちの側から見ると、大衆食堂と言うべきでしょう。

お皿の形をしたオレンジ色の花盤に蜜が出てくる。(撮影:今森元希)

 私はこれまでに「オーレリアンの庭」に、ヤブガラシが繁茂する一角を作ろうと努力してきました。しかし、その夢は、まだ叶っていません。どこにでも生えている植物なのですが、いざ、計画的に植栽しようとすると、うまくいかないことが多いのです。理由のひとつは、ヤブガラシはつる植物で、土手や雑木林の草刈りをして管理された環境では、成長しづらいことにあります。オーレリアンの庭では、自然のままに任せる部分と、人の手で整える部分、つまり自然と人とのせめぎ合いにグラデーションをもたせることも考えていきたいところです。

ヤブガラシは、小さな花が房になっている。(撮影:今森元希)

*写真の複製・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。写真家、切り絵作家。1980年より作家活動に入る。以後、自然と人とのかかわりを「里山」と呼び、追求している。また、熱帯雨林から砂漠まで、広く世界の辺境の地の自然を取材し続ける。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアム4Kにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な著書に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『にっぽんの里山を旅する』(クレヴィス、2026年)、『マダガスカル島へ』(偕成社、2026年)ほか多数。

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