「ブラックバイト」から「バイト漬け」へ ~長時間労働、かけもち化が進む学生アルバイト
大内裕和(武蔵大学教授)
2026年7月22日、大学生のアルバイトについて興味深い調査結果「大学生アルバイト調査(2025年実施)」報告書が発表されました。調査したのは「UAゼンセン」政策サポートセンター。UAゼンセン(全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟)は、繊維、流通、食品、化学、外食、サービスなど人々の生活に関わる幅広い業種の労働者が参加している産業別労働組合です。
この調査は25年7月、および10月から26年1月の2回に分けて実施されました。調査対象の大学を具体的に見ると、北海道小樽市に本部がある小樽商科大学から鹿児島県鹿児島市にある鹿児島大学まで広範囲に及びます。また回答者の男女比は男性48.7%、女性49.8%とほぼ半々。有効回答数も2285件と多いことから、日本全体の大学生アルバイトの実態を調べるのに適した、優れた調査設計となっていると言えるでしょう。
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同調査ではまず、対象となる大学生の皆さんにアルバイト経験についてたずねています。すると「現在アルバイトをしている」が83.0%と大多数に及んでいます。以下、「過去にしたが現在はしていない」が8.1%、「アルバイトをしたことはない」が8.7%とそれぞれ1割弱を占めています。「現在アルバイトをしている」と「過去にしたが現在はしていない」を合わせると91.1%で、実に9割以上の大学生がアルバイトを経験していることになります。
1週間あたりのアルバイト時間についての回答は「10~19時間」が55.0%と過半数を占め、「20~29時間」(19.3%)と「10時間未満」(21.5%)がそれぞれ2割前後を占めます。学年別に見ると、大学4年生では週に20時間以上アルバイトをしている割合が高く、37.4%にも達します。卒業単位の多くを取り終わり、就職活動も終了したことなどが影響しているのでしょうが、卒業論文や卒業研究に悪影響が出ているのではないかと心配になります。
全学年を通じての1カ月のアルバイト賃金は、「10万円以上」(11.1%)は1割程度で、「5~10万円未満」が57.6%と6割近くを占めます。平均賃金は6万4731円です。学年別では平均アルバイト時間が長かった4年生が平均賃金も7万8913円と高く、「10万円以上」が21.4%と2割を超えています。
大学生の1カ月のアルバイト賃金10万円以上が1割を超えていること、そして平均が6万4731円にまで達していることに私は驚きました。近年、大学生がアルバイトで稼ぐ金額が上がっている印象はもっていましたが、それがこの調査によって裏付けられたように思いました。
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私が「ブラックバイト」という言葉をつくって学生アルバイトを社会問題として提起した13年、「株式会社リクルートキャリア(現株式会社リクルート)」が実施した調査によれば、大学生の1カ月のアルバイト賃金の平均は4万313円でした。その1年前のデータとなりますが、12年に「全国大学生活協同組合連合会」(全国大学生協連)が実施した「学生生活実態調査」の全国調査で京都事業連合が京都府、滋賀県、奈良県内の12大学2972人からの回答を集計したところ、1カ月のアルバイト収入は平均4万780円でした。2つの調査を合わせて考えると、12~13年頃の大学生の1カ月のアルバイト収入は月4万円程度であったと推測されます。
25年のUAゼンセン調査における、1カ月のアルバイト賃金の平均6万4731円という数字は、12~13年から25年にかけて大学生がアルバイトで稼ぐ額がおよそ1.5倍以上に増加したということを意味します。これは最低賃金の上昇によるものでもありますが、それ以上に学費や物価も上昇し、親・保護者からの経済的支援がない中で、多くの大学生がアルバイトに追われている状況は変わりません。
ブラックバイトが社会問題化し、16年に拙著『ブラックバイトに騙されるな!』(集英社クリエイティブ)が刊行されて以降、大学生がアルバイト先で「不当な扱い」を受けているという実態は多くの人に知られるようになりました。職場での不法行為については一定の改善が進みましたし、学生アルバイトの相談体制も充実しました。しかし、一向に改善されない大学生の経済的な困窮の深まりは、「アルバイトで稼ぐ」必要性をより一層高めました。結果、長時間労働やアルバイトの「かけもち」を促進し、学生生活との両立を困難にしています。
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UAゼンセン調査では、アルバイトをする理由についても順位をつけて3つ以内の選択方式でたずねています。彼らが第1位として選んだのは「趣味や交際費」(57.1%)で、2位の「生活費」(22.6%)を大きく引き離しています。これだけを見ると特に年配の方などは、「今の学生もやはり遊ぶためにアルバイトをしているのではないか」と思われるかも知れません。
しかし、ここでの「趣味や交際費」には自分の趣味だけではなく、大学のサークル活動やゼミ活動の費用、通信費なども含まれることが、「友人を作る・コミュニティを広げる」など他の選択肢から予想されます。さらに3つ以内で選ばれた理由のうち、「生活費」が52.8%と5割を超します。学生がアルバイトをする目的は、広い意味で「学生生活を続けるのに必要なお金」を含んでいると捉えるのが妥当でしょう。
もう一つ重要な問題として、学生生活を続けるためにこれまで以上のアルバイトを強いられている大学生が、職場でハラスメントを受けていることがあります。同調査によると、セクシュアル・ハラスメント(セクハラ)を「受けたことがある」との回答は3.8%で、これに「受けたことはないが見聞きした」(12.3%)を合わせた「受けた+見聞きした」は16.1%となります。また「受けたことがある」の回答のうち、女性の割合は5.7%に達します。
パワー・ハラスメント(パワハラ)を「受けたことがある」が6.2%、これに「受けたことはないが見聞きした」(14.1%)を合わせた「受けた+見聞きした」は20.3%と2割を上回ります。
カスタマー・ハラスメント(カスハラ)を「受けたことがある」は17.3%で、セクハラやパワハラを大きく上回ります。これに「受けたことはないが見聞きした」(17.5%)を合わせると、「受けた+見聞きした」は34.8%と、全体の3分の1を上回ります。
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セクハラ、パワハラ、カスハラはいずれも職場で引き起こされる深刻な人権侵害です。同調査ではそうしたハラスメントのいずれかを「受けたことがある」と回答した層を対象に、ハラスメントの経験による影響を複数選択で質問しています。「特に影響はなかった」という回答が30.9%であることから、7割近くの学生が、ハラスメントを受けたことによる影響があったと回答していることになります。具体的には「仕事へのモチベーションが下がった」が53.6%、「アルバイトに行きたくなくなった」が36.6%となりました。
ハラスメントを受けた後の行動としては、「アルバイト先の同僚に相談」が30.7%、「アルバイト先の正社員などに相談」が26.8%、「家族に相談した」が23.7%、「アルバイト先以外の友人に相談」が22.4%と、職場の仲間や家族・友人などへの相談が中心で、「アルバイト先の労働組合に相談」(0.2%)、「アルバイト先の相談窓口に相談」(0.9%)などは、極めて少数となっています。
ちなみに、「特になにもしなかった」が31.2%にも達しているのは、とても深刻な問題です。この調査に協力された埼玉大学の金井郁教授は、「労働組合は、労働組合の役割や機能、ひいては意義について、学生アルバイトの認知を職場で高めていく必要がある」と、労働組合としての課題を的確に指摘されています。
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こうした学生の状況に対して、労働組合だけでなく、大学を含む教育機関も何らかの対策をすべきだと思います。読者の皆さんの中には、「アルバイト先で起きているトラブルは、大学の外で起きていることなのだから、大学は対策をする必要がない」と考える人もいるでしょう。あるいは、「アルバイト先で何か問題が起こるたびに大学が対策を強いられたら、学校側がやらなければならないことが増え過ぎてしまう。教育機関が何でもかんでも対応して抱え込む傾向こそ問題だ」と思う人もいるかも知れません。