“普通の日本人”のあいまいな不安 第6回 外国人叩きで「連帯」する人たち ~勝てないリベラル、ゆがむ自民党
雨宮処凛(作家、活動家)
SNSで排外的な投稿やリポストをしつつ、自己紹介欄には「右派でも左派でもない普通の日本人」「ただ普通に日本を愛しているだけの日本人」――そんな言葉を載せているアカウントは少なくない。日の丸をアイコンとするそのような人々を総称して『日の丸クラスター』と呼ぶネットスラングもあるそうだが、今、そんな“普通の日本人”の裾野がどんどん広がっているように感じる。
そのきっかけとなったのが「日本人ファースト」という言葉だ。
日の丸の小旗を振り、「ニッポン」とコールしながら移民政策反対デモに参加する一方、職場や家庭では「善良な隣人」だろう人々の姿が2025年の夏以降、突然、可視化された。
そんな“普通の日本人”が抱える不安や剥奪感から、分断の瀬戸際に立つに至った日本社会の行く末を、さまざまな専門家との対話を通じて考える。
たまたま乗ったタクシーで遭遇した中国人貶し
東京の高田馬場から親戚と乗ったのだが、運転手さんが突然、中国人の悪口を言い始めたのだ。
話し好きの運転手さんらしく、最初は「この辺は日本語学校が多い」という話題だった。しかし、「だから外国人が多いんですよ」から「最近は中国人ばかり」と嘆き始めるまで、わずか1秒。
雲行きの怪しさを感じて黙っていると、「中国人は好きな人種じゃないんですよね」と一人語りを始める。戸惑いつつも「そうなんですね」などと曖昧な相槌を打つ親戚。
それに気をよくしたのか、運転手さんはヒートアップ。
「そもそも習近平が日本に行くなって言ってるんだから来なきゃいいんですよ」
「お前らもういらないって感じじゃないですか?」
運転しながら軽快な口調でいう運転手さん。歳の頃は私と同じくらいだろうか。
「いやぁ、ははは……」
親戚は困った様子で笑っていたが、運転手さんはその笑いを「共感」と受け止めたのか、東日本大震災の時、中国人が逃げたのが「許せない」と滔々と語り始めた。
「放射能が怖いって言うけど、放射能より怖いのお前らだよ」
忌々しげにそう吐き捨てたが、あの時、中国人に限らず多くの外国人が帰国した。その一方で、震災後に多くの国の人々がボランティアに訪れてくれたし、中国からは救援隊も駆けつけ、また救援物資や義援金も多く寄せられた。
と今なら書けるが、その場ではただただ驚き、フリーズしていた。瞬発力が高い人なら何か言えるのかもしれない。しかし、こういう時、私はどぎまぎするばかり。しかも、同乗しているのは高齢の親戚。タクシーという密室で、命を預けている運転手さんの機嫌を損ねたくなかった。
目的地に着いて車を降りた後も、しばらくモヤモヤが続いた。
ショックだったのは、その運転手さんがこれまでの人生で一番くらいに「感じのいい」人だったこと。乗った時の挨拶やトランクへの荷物の収納など、とにかくすべてがきめ細やかでサービスが行き届いていた。そして「中国人が」という話は、そんなサービスの一環という感じだった。
運転手さんの発言は文字にするとトンデモないが、その口ぶりには「中国人をはじめとする外国人が大きな顔してて我々日本人、大変ですよねぇ」というニュアンスが含まれていた。それは「被害者同士のうっすらとした連帯トーク」といった趣で、おそらく、初対面の者がひとつの車に乗り合わせる時の「潤滑油」や「おもてなし」として日常的に使っている技なのだろう。私たちは、「おもてなしとしての中国人貶し」を受けたのだ。
その経験をしたのが、2026年6月。「日本人ファースト」という言葉が登場して、ちょうど1年のことだった。
著書に、日本の戦後ナショナリズムについて書いた『〈民主〉と〈愛国〉』(新曜社)や、全共闘世代を検証した『1968』(上・下巻、同)、日本を支配する社会の慣習をデータから読み解く『日本社会のしくみ』(講談社現代新書)などがあり、インドのヒンドゥー・ナショナリズムに触れた著書もある。
そんな小熊さんの目から「日本人ファースト」以降の日本はどう見えているのか、話を聞いた。
雨宮処凛氏(左)と小熊英二氏(右)
変わらない、「保守」と「革新」の割合
小熊さんは言った。
「予想はしていませんでした。こういうことに関心を持つような学者も予想していなかったと思います。日本には移民がそんなに多いわけではないし、移民がイシューになったこともないので、それを掲げてそんなに票が動くということは思っていなかったでしょうね」
背景にあるものとして小熊さんが指摘したのが「フレーミング」。情報の提示方法によって受け手の印象や判断が変わることだという。
「政治の側が働きかけて、問題としてフレームを作ったことが一番大きいと思います。参政党もそうですし、それに呼応した自民党の動きもありました。結果、社会の中に薄く広く存在した“反外国人感情”のようなものが表出しやすくなった面はあると思います」
以降、この国では「移民政策反対デモ」が全国で起きるようになり、昨年(2025 年)10月、11月、今年5月と全国で開催されている。このような外国人敵視、今後も続くのだろうか。
「一定数は続くのではないかと思います。2000年代は嫌韓や歴史認識が注目されましたが、日本には在日コリアンに対する敵対感情、差別感情などはずっとあったし、それらのイシューは消えたことはない。それが今回、カギカッコ付きの『保守』のイシューとして認知されたのだと思います。潜在的にはそれで投票行動をする人が数百万人くらいいるかもしれないし、街頭行動をする人が数千人くらいいるかもしれない」
それは大きな脅威だ。
「はい。ただ、日本に有権者は1億人いますから、数百万人というのは数%。それでも3~4%票が動くと大きく議席に影響することは事実です。しかし25年の参院選や26年の衆院選で参政党が1000万票、2000万票集めたわけではない」
それでも参政党は25年の参院選で2議席から15議席に、26年の衆院選で2議席から15議席へと躍進。一方、自公が過半数割れとなった参院選でもリベラル勢は票を伸ばさず、衆院選では大きく議席を減らした。いや、参院選、衆院選にはじまったことじゃない。24年の都知事選でも兵庫知事選でもリベラルは負け続けている。なぜなのか。