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“普通の日本人”のあいまいな不安 第2回 東西格差のもと、極右政党が躍進するドイツの「自国ファースト」

東京大学教授・板橋拓己さんに聞く

雨宮処凛(作家、活動家)

 SNSで排外的な投稿やリポストをしつつ、自己紹介欄には「右派でも左派でもない普通の日本人」「ただ普通に日本を愛しているだけの日本人」――そんな言葉を載せているアカウントは少なくない。日の丸をアイコンとするそのような人々を総称して『日の丸クラスター』と呼ぶネットスラングもあるそうだが、今、そんな“普通の日本人”の裾野がどんどん広がっているように感じる。
 そのきっかけとなったのが「日本人ファースト」という言葉だ。
 日の丸の小旗を振り、「ニッポン」とコールしながら移民政策反対デモに参加する一方、職場や家庭では「善良な隣人」だろう人々の姿が2025年の夏以降、突然、可視化された。
 そんな“普通の日本人”が抱える不安や剥奪感から、分断の瀬戸際に立つに至った日本社会の行く末を、さまざまな専門家との対話を通じて考える。

 

板橋拓己氏(右)と雨宮処凛氏(左)

ドイツの極右政党はどう躍進してきたか

「米政権、難民受け入れ7500人に」
 2025年10月末、こんなニュースが世界を驚かせた。
 トランプ大統領が10月30日、今後1年間の難民受け入れ数を7500人に制限すると発表したのだ。バイデン前政権下での難民受け入れ上限は12万5000人だったことを考えると、あまりにも急な、そして大幅な削減である。
 一方で11月17日、イギリス政府は難民政策の抜本的な見直しを発表。
 これまでは難民認定されると5年間保護対象となり、最初の認定から5年が経てば永住権申請ができた。が、新たな制度では2年半ごとの更新が求められ、永住権申請までの期間も原則20年になるという。
 難民受け入れに「寛容」な姿勢を示してきたように見えるイギリスの、突然の方針転換。
 思えばイギリスでは同年9月の「反移民デモ」に15万人が参加し、また24年夏には殺人事件の犯人がイスラム系移民という誤情報が広まった果てに、難民申請者が滞在するホテルが襲撃されるなどの事件が起きている。
 そんなイギリスでは現在、移民・難民に厳しい姿勢を見せる改革党(リフォームUK)が支持率30%とトップを独走中だ。

 さて、今回は、日本を飛び出して世界に目を向けてみたい。
 ご登場いただくのは、ヨーロッパのポピュリズム、とりわけドイツの問題に詳しい板橋拓己・東京大学教授。
 ドイツと言えば、15年の欧州難民危機の際、100万人を受け入れたことで知られている。
 そのドイツでは25年2月、連邦議会選挙で移民排斥を訴える極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が第二党に躍進。
 背景には、移民・難民問題だけでなく、ベルリンの壁が崩壊し、東西ドイツが統一して35年が経っても埋まらない「格差」の問題もあるようだ。旧東ドイツ出身者の間に燻(くすぶ)る、「自分たちは二級市民」という思い。そんな旧東ドイツ側で支持を拡大させているのがAfD。
 人口の約3割が移民の背景を持つと言われるドイツで、一体何が起きているのか。歴史家であり国際政治学者である板橋さんの目には「日本人ファースト」以降の日本はどう見えているのか。そして日本とドイツにはどんな共通点があり、また移民・難民問題に揺れるヨーロッパ諸国から学ぶべきことや解決策のヒントはあるのか。
 はからずも参議院議員選挙直後の8月、参政党の神谷宗幣氏はAfD共同党首のクルパラ氏と会談している。
 板橋さんに話を聞いた。

「半分予想していたのと、遂に来たかって感じでしたね」
 ドイツやヨーロッパを長く見ていた板橋さんの目から、参政党の躍進はどう見えていましたか? そんな質問をすると、板橋さんはこう答えた。そうして16年から18年、ドイツに留学していた頃の話をしてくれた。
「その頃ドイツでは右翼ポピュリズム政党というか排外主義的な政党が出てきていて、他のヨーロッパ諸国も同じ動きの中にありました。一方、アメリカではトランプが1期目の大統領をつとめていました。そんな中、よく聞かれたのが『なんで日本にはそういう政党がないのか』ということです」
 その疑問に板橋さんは、日本には移民・難民が欧米諸国と比較すると少ないこと、また政権与党である自民党が幅広い政党で、極右から中道まで含んでいることなどを話したそうだ。
「ただ、ヨーロッパを見ていると、結局外国人は不満の矛先なんですよね。実は移民・難民の多い少ないはそれほど関係なくて、不安や不満の矛先。だとすると、日本でも遅かれ早かれそのような政党が出てくるとは思っていました」
 その中でも、トランプが17年に大統領となった影響は大きいと指摘する。
「グローバル化、情報化が進んでネットの言論もトーンが変わってきました。とりわけトランプの『我々も虐げられている』みたいな言説の影響はとても大きいと思います。こうした背景から、ヨーロッパでも排外主義的な政党が勢いづく。同時にいろんな国で中間層が痛んでいる。言説のグローバル化ってすごく重要だと思うんですが、日本もそんな流れの中にいる気がします」
 そんな中、「ドイツのための選択肢」(AfD)はどうやって人々の心を掴み、躍進してきたのか、これまでの経緯を振り返ってもらった。
「13年の連邦議会選挙のために結党されたんですが、もともとは移民政策などは関係なくて、脱ユーロ政党でした。リーマンショックの後、ヨーロッパでは、ギリシャの債務隠しが発覚してユーロ危機が発生します。EU諸国はギリシャを救済しようとするのですが、そこで一番負担せねばならないのは経済大国のドイツです。ただ、自分たちのお金を “怠け者”のギリシャに使うなんて許せん、という自国ファーストの人たちも当然いる。そういう流れの中で、AfDが出てきたんですね」
 しかし、13年の選挙では議席を獲得できずに終わる。その2年後に起きたのが、欧州難民危機。シリアをはじめとして、中東や北アフリカから難民となった人々がヨーロッパに押し寄せたのだ。会)

著者情報

作家、活動家

雨宮処凛

あまみや かりん

1975年、北海道生まれ。作家、活動家。反貧困ネットワーク世話人。バンギャル、右翼活動家を経て、2000年に自伝的エッセー『生き地獄天国』でデビュー。自身の経験から、若者の生きづらさについて著作を発表する傍ら、イラクや北朝鮮へ渡航を重ねる。その後、格差や貧困問題について取材、執筆、運動を続ける。『生きさせろ! 難民化する若者たち』でJCJ賞受賞。著書に『一億総貧困時代』『「女子」という呪い』など多数。

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