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連載

私が「冷笑系」だった頃〜「リトルひろゆき」たちとの楽しくも不毛で、だけど必要だった日々

雨宮処凛(作家、活動家)

 結局、その右翼団体も2年でやめた。もともと動機が「完全燃焼したい」だけだったのだ。そうして25歳で物書きデビューしたのだが、今もふと、あの時デビューしていなかったら何をしていただろうと時々思う。

 生活費はアルバイトで稼ぐしかないのでバイトしつつ、居場所のなさを埋めるため右翼団体に戻っていたかもしれないし、リトルひろゆきたちとずーっと誰かを批評していたかもしれない。そうしてネットの普及と同時に2ちゃんねるの「祭り」なんかに参加していたかもしれないし、今だったらSNSの炎上に嬉々として参加し、誰かをブッ叩いていたかもしれないとさえ思う。それだけではない。ひろゆき氏の辺野古のTweetに「いいね」した28万人の一人になっていたかもしれない。

 90年代からネット掲示板でのコミュニケーションを注視してきたという成蹊大学教授の伊藤昌亮氏は、雑誌『世界』2023年3月号(岩波書店)に掲載した「ひろゆき論――なぜ支持されるのか、なぜ支持されるべきではないのか」にて、彼を「『ダメな人』のための『優しいネオリベ』」と書いている。以下、引用だ。

〈彼が生まれ育った東京・赤羽の団地には、「社会の底辺と呼ばれる人たち」がたくさんいたという。「生活保護の大人」「子ども部屋おじさん」「ニート」「うつ病の人」などだ〉

〈昨今の若者は「いい大学を出たり、いい企業に入ったりして、働くのが当たり前」だという「成功パターン」から外れると、「もう社会の落伍者になってしまうから死ぬしかない」などと思い込みがちだが、しかしこうした「ダメな人」は「太古からずっといた」のだから、気に病む必要はない。むしろ「ダメをダメとして直視した」うえで、「チャンスを掴む人」になるべきだと彼は言う〉

〈というのもこれまでの日本では、「ダメな人」は「横並び」の体制についていくことができなかったが、しかし昨今では、「会社で働けないタイプの人」でも「一人で稼ぎ」「一人で利益を受け取る」ことが可能になったため、プログラマーやクリエイターとして成功することができる。実際に彼自身も「コミュ障」だったが、「プログラミングという武器がある」ことでうまくいったという〉

 これを読んで、私は彼の人気の理由に深く納得した。

 だって、「どんなに努力しても一部の人は絶対に報われない社会」になってもう30年くらい経つのだ。そんな中、「報われない社会」に放り出された第1世代が私やひろゆき氏と同世代のロスジェネである。

 が、どれだけ貧乏くじを引かされようとも、ロスジェネもゆとり世代もさとり世代もミレニアル世代もZ世代も「みんなで連帯して運動して社会を変えよう」なんてことにはなっていない。周りを見渡せば、30年近く非正規で働きながら今も「自分だけ勝ち抜こう」と夢見ている人たちがいる。そんなロスジェネからZ世代までに顕著なのは、「経営者マインド」をナチュラルに搭載していることだ。

 末端の労働者なのに、発想は経営者。例えば自身が時給制で働いているのに、「時給を上げろ」なんてデモを見ると「バイトの時給なんか上げたら企業が潰れる」「バイトがその額に見合った働きなどしない」などと口にする。なぜそのようなことになるかと言えば、「自分がずっと労働者でい続けると思ってる人」=上昇志向がないダメ人間という価値観の社会で育ってきたからである。ロスジェネとそれより若い世代にとって、労働組合や労働運動なんかよりも、「いつか一発逆転すること」の方がずっとずっとリアリティがあるのだ。それがどれだけ夢物語だとしても。

 そんな層にとって、成功した実業家であるひろゆき氏は一発逆転を体現している人である。特別な学歴や家柄やコネがなくとも、しかもコミュ障でも、経済的成功を勝ち取ったスターなのだ。

 23年5月5日こどもの日、朝日新聞に、ひろゆキッズについての記事が掲載された。

 西日本のある教諭は、ひろゆき氏の「それってあなたの感想ですよね」を真似る子どもに「そういう言い方は他の人に嫌われてしまうで」と伝えたという。

 その指摘は正しくて、だけど根本的に間違っている。

 なぜなら子どもたちは、人に嫌われることも厭わないひろゆき氏のスタンスこそに憧れていると思うからだ。

 翻って周りを見れば、大人たちは常に空気を読み、「上」の顔色を窺い、いつも組織の中での立場や人間関係に汲々としている。子どもも例外ではない。教室の空気を読み、スクールカーストに見合った振る舞いをしないとたちまち地獄と化す窮屈な場所にいる。

「それってあなたの感想ですよね」は、そんな中にいながら、相手の発言を無意味・無価値にするささやかな意地悪なのかもしれない。そうやって相手の心を折ってスカッとすることが必要とされるほどに、子どもの社会も閉塞しているのだろう。

 なんだか書けば書くほど、この国の息苦しさにため息が出てくる。

 だけど、冷笑や一時のガス抜きでは乗り越えられないことも多くあることを、大人の一人として伝えていきたい。

著者情報

作家、活動家

雨宮処凛

あまみや かりん

1975年、北海道生まれ。作家、活動家。反貧困ネットワーク世話人。バンギャル、右翼活動家を経て、2000年に自伝的エッセー『生き地獄天国』でデビュー。自身の経験から、若者の生きづらさについて著作を発表する傍ら、イラクや北朝鮮へ渡航を重ねる。その後、格差や貧困問題について取材、執筆、運動を続ける。『生きさせろ! 難民化する若者たち』でJCJ賞受賞。著書に『一億総貧困時代』『「女子」という呪い』など多数。

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