imidas - 情報・知識&オピニオン

連載

第15回 三上智恵「歴史に学ぶ」

軍隊は軍隊しか守らない

三上智恵(ジャーナリスト、映画監督)

(構成・文/朴順梨)

「……私は東京で生まれたというだけで、東京出身という意識はないんです。よく『出身はどこ?』とか『あなたの故郷は?』と聞く人がいますが、ルーツをたどると祖母は樺太生まれで三上家は青森と北海道の人間で、母は栃木県出身です。親子三代にわたって東京生まれだから江戸っ子というカテゴリーだと言われたこともありますが、私が一番長く住んだ場所は沖縄だし、これからも関わって生きていく場所は沖縄だと思います。だから『あなたは東京の人なのだから、自分の土地に帰って』と言われてもピンとこないし、誰もが生まれと自分が生きていく場所が一致しているわけではないので、『故郷に帰れ』という物言いは、とても残酷なものですよね?
 私は沖縄国際大学で沖縄民俗学を教えていますが、最初の授業で生徒に『あなたはどこの人?』と聞いています。すると『僕は那覇で生まれて、育ったのは宜野湾で今も住んでいます。でも父は宮古島で、母は石垣島の出身。お盆になると石垣の祖父母にアンガマ(先祖供養の踊り)を見せられてきたから、自分も石垣の人間なのかもしれない。でも本当のところ、どこの人間なのだろう?』みたいに、迷い始める子が結構いて。そう考えると自分がどこの人間かは安易に規定できるものではないし、アイデンティティーは生涯かけて探すものですよね? だから、『自分の生まれ故郷を大事にしなさい』なんて簡単に言ってしまう人は、アイデンティティーがあまりブレたことがない人なのではないかと思います。
 じゃあ、なぜ沖縄なのかと問われると、取材で話しても滅多に文字にしてもらえないから言いたくないんですけど……(苦笑)。12歳の時に旅行先の沖縄で姉とお墓の見学をしたら、姉妹そろって祟られてしまったんです。熱も出て気分も悪くなって辛くて仕方なかったのに、羽田に戻る飛行機に乗ったらものの30分で憑き物が落ちたように楽になって。その時は『怖いから沖縄に行くのはもうやめよう、これからは大好きな北海道に行くことにしよう』と決めたのに。……多分まだ落ちてないんでしょうね(笑)」

何より伝えたい思いがあった

 琉球朝日放送に移ったあとはローカルワイドニュースのメインキャスターを務めるかたわら、ドキュメンタリー番組の制作にあたってきた。2013年に公開された初監督映画「標的の村」(13年)も、同局での番組がベースになっている。

「キャスターなのにドキュメンタリー制作もしてたの? と思うかもしれませんが、地方局ではアナウンサーが取材するのは当たり前のこと。キャスターは記者が撮影してきたニュースを視聴者に伝えなくてはならないのですが、限られた放送時間の中でどう伝えればわかってもらえるかを考えることに、全神経を集中させなくてはならない。でも27年も続けてきたのに、伝えられていないことの方が多くて。どうしたらいいのか、もう少し時間をかけて経緯や背景まで説明すれば伝わるのかなと模索した結果、自分で番組を作るようになりました。私はキャスターだから、自分が取材していなくても映像も情報も自分を通して人々に伝えてきた。他の記者が撮影した映像も使って特集や番組を作っていましたが、ある時、先輩記者にこう言われたんです。『自分だったら他人が取材した映像を使って〈私の番組です〉なんて図々しいこと、とても言えないよ』って。その時はじめて『周りの記者はそんなことを思ってたんだ!』と、気づいたんですよね(笑)。
 多分私は、記者としてのプライドがなかったのでしょう。でも『琉球朝日放送の取材陣は、こんなに素晴らしい映像を撮れるんです!』と自慢したい気持ちもあって、テレビ版の『標的の村』を作りました。『人のふんどしで勝負するな』と言われたこともありますが、何より伝えたい思いがあったので、局内の誰が撮ったかなんてたいした問題ではないと思っていました。『戦場ぬ止み』からは、自分ですべてやるしかなくなったわけですが……(笑)」

軍隊が配備されることの意味

 タイトルになっている「風かたか」は、風よけという意味を持っている。それは子どもを愛する母であり、自身や仲間のために声をあげる女性であり、高江や辺野古の自然を守るべく抵抗を続ける人たちであり、中国の脅威を封じ込める防波堤にされつつある沖縄そのものでもある。今作はこの“風よけ”を巡る物語だと、三上監督は明かす。

「先ほども言いましたが、全国の方に見て欲しいと思いながらも、沖縄の人にこそ見てくださいと言いたいんです。映画の中で防衛省職員とやり取りをしている沖縄県選出の照屋寛徳衆議院議員が、そのあまりにも不誠実な態度にしびれを切らして『わかるか? さる大戦では軍隊は住民の命を守らなかった。軍隊は軍隊しか守らない。これは沖縄の実相であり教訓なんだ。さらに、あの悲惨な沖縄戦では、軍隊が駐留し配備されている島がみんな攻撃されたんだ!』と、声を荒げています。これに対してすべての沖縄県民が『はい、わかります』と言える状況では、もはやないと思うんですよ。それは戦後の平和教育や、私たちメディアの伝え方が足りなかったことに大きな原因があると思います。だから忸怩(じくじ)たる思いを抱えながら『まずは沖縄の人たちが、軍隊が配備されるということがどういうことなのかを、自分たちの島の歴史から学ばないでどうする』と思う。沖縄戦で、そして米軍占領下で苦しんだ島の先達の思いは、子孫に同じ苦労をさせないことに尽きるはず。彼らの悔しさを教訓として生かさない限り次の世代を守れない。そのために私は今作を作ったんです」

「標的の島 風かたか」は沖縄に次いで3月25日より、東京都中野区のポレポレ東中野で上映されている。4月からは大阪や兵庫、愛知など全国で公開される予定だが、近くに劇場がない場合は自主上映会(問い合わせ先:合同会社 東風http://www.tongpoo-films.jp/ )も募集しているそうだ。

著者情報

ジャーナリスト、映画監督

三上智恵

みかみ ちえ

東京都生まれ。大学卒業後の1987年、毎日放送にアナウンサーとして入社。95年、琉球朝日放送(QAB)の開局と共に沖縄に移り住む。夕方のローカルワイドニュース「ステーションQ」のメインキャスターを務めながら、「海にすわる~沖縄・辺野古 反基地600日の闘い」「1945~島は戦場だった オキナワ365日」「英霊か犬死か~沖縄から問う靖国裁判」など多数の番組を制作。2010年には、女性放送者懇談会放送ウーマン賞を受賞。初監督映画『標的の村~国に訴えられた沖縄・高江の住民たち~』は、ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、キネマ旬報文化映画部門1位、山形国際ドキュメンタリー映画祭監督協会賞・市民賞ダブル受賞など17の賞を獲得。現在も全国での自主上映会が続く。15年には辺野古新基地建設に反対する人々の闘いを追った映画『戦場ぬ止み』を公開。ジャーナリスト、映画監督として活動するほか、沖縄国際大学で非常勤講師として沖縄民俗学を講じる。著書に『戦場ぬ止み 辺野古・高江からの祈り』(大月書店、2015年)『女子力で読み解く基地神話』(かもがわ出版、2016年)。

関連記事

新着記事

imidasの更新情報をお届けします。