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「ムーアの法則」を超えて

半導体の細密化はどこまで進むのか?

和田恭雄(慶應義塾大学理工学部訪問教授)

 「ムーアの法則」は「半導体細密化」の代名詞である。細密化限界説がささやかれつつも、半導体メーカーは「ムーアの法則」を懸命に順守してきた。しかしその限界は、いつかやってくる。「ムーアの法則」の限界とは、半導体仕組みのパラダイムの転換を意味している。

「ムーアの法則」とは何か?

 最近、「ムーアの法則」という言葉が広く使われている。これはもともと、今から40年以上前の1965年に、インテルの共同創立者であったムーア(G.Moore)が、経験則として提唱した「半導体集積回路の集積度(1チップの素子数)は毎年2倍の割合で増大してきた。今後もこのペースで10年間は増大するだろう」という論文を発表したことに、端を発していると言われている。
 その後、18カ月や24カ月と、様々な周期が提案されているが、いずれにせよ、そのような素子数増加のトレンドが、40年間以上続いていることは事実で、現在、最も集積度の大きいものは、トランジスタ数にして10億個を超える。(
 このように、年代に対し対数的に増大する技術的進歩は「ロジスティック曲線」と呼ばれ、多くの産業や技術の分野で見られる。航空機の速度や、鉄鋼の生産量など、ほとんどの産業で、年代とともに一定の割合で指数が増大を続ける時期があり、40~100年程度続くことが一般的である。
 世界最初のコンピューターであるENIACエニアック)がアメリカで誕生したのが1946年で、1600m2の広さに、30tの重量を要し、用いられた真空管の数は1万8000本を数えた。
 その後、科学技術はより迅速で、より高度な計算のために、細密化技術の限界を追い求め続けて、真空管からトランジスタ、集積回路(IC)と進歩は続けられてきた。
 現在のICチップは、エニアックの約1万倍の速度であるが、その技術的進歩の背景には飽くことのない、高速度化と細密化への要求が存在した。
 情報処理の性能が、{速度×素子数}という単純な積で表されるという原理が存在する。少しでも早く、少しでも多くの素子を使ったシステムを作り出そうという人類の本能(動物にはない情報に対する第三の本能)が、「ムーアの法則」を作り出したといっても、過言ではない。

なぜ「ムーアの法則」か?

 これまで40年以上にもわたり「ムーアの法則」が成り立ってきた理由は、1974年に、IBMのデナード(R.H.Dennard)が提唱した、「スケーリング則」の効果による。これは、「トランジスタの寸法を半分にすれば、性能は倍になり、消費電力は4分の1になる」という原理である。
 つまり、寸法を半分にすれば、単位面積当たりの素子数は4倍になるが、消費電力は不変である。一般に、情報処理の性能は速度と素子数の積に比例する、という原理から、寸法を半分にするだけで、同じ消費電力で単位面積当たりの性能が8倍(速度2倍、素子数4倍)になるスケーリング則は、まさに人類の本能にうってつけの原理だった。
 その結果、少しでも性能の高い情報処理システムを実現するため、素子の寸法を縮小する努力が続けられてきた。
 このため、1970年のマイクロプロセッサーの「発明」以来、5年間でプロセッサー性能が10倍になるというトレンドは35年間以上続いており、1000万倍近い性能向上が達成された。
 この間に素子の寸法は、10数μm(マイクロメートル)程度から、65nm(ナノメートル)へと約200分の1になった。「素子数が毎年2倍」ということは、寸法を半分にするのに2年間かかるということであり、24カ月で2倍ということは、4年かかるということである。
 これは技術の開発に必要な時間、すなわち技術者の血と汗と涙が結晶するのに必要な時間を表しているのであって、決して「法則」と呼ばれるような必然的な値ではない。

「ムーアの法則」はいつまで続くのか?

 より高い性能の情報素子を実現するため、人類の努力は永遠に続くと考えられる。無論、シリコンを使った現在のシステムは、遅かれ早かれ、技術的な限界に到達するであろう。ちょうどプロペラ機の性能が限界に達した時に、ジェット機が出現したように、シリコンに代わる新しい材料を用いたシステムが、それに代わると考えられる。それはいつ頃であろうか。
 ITRS半導体技術ロードマップ専門委員会)という国際的な組織があり、半導体技術の進み方を予想しているが、それによれば、今後の技術の進展は次のようになっている。
(1)モア・ムーア(More Moore 半導体の微細化を推し進めるトレンド)
(2)モアザン・ムーア(More Than Moore 半導体技術にセンサーなど周辺技術を追加して、より多様な性能を実現するトレンド)
(3)ビヨンドCMOS(Beyond CMOS 新しい原理に基づいた素子が半導体集積回路を置き換えるトレンド)
 この3方向が予想され、2020年ごろには現在の集積回路技術は、「スケーリング則」の限界を迎えると予想されている。したがって、20年後に日本の情報産業が生き残るためには、その先にある「ビヨンドCMOS」を制覇することが必須である。

「ビヨンドCMOS」とは何か?

 ビヨンドCMOS(CMOSを超える技術)、すなわち「20年後の主流素子は何か」という問いに、現在のところ定まった答えはない。「Beyond CMOSはCMOS」という半導体屋もいるし、「Beyond CMOSは分子」と答える研究者もいる。
 世界中の誰もが、「Beyond CMOS」が何かという問いに対し、異なった答えを持っている。いずれにせよ、人類の第三の本能を満たすための研究は必須であり、これを制した国が40年後の世界のヘゲモニー(主導権)をにぎるという図式は間違いない。()
 そのためにはさまざまな可能性を考慮した、幅広い研究開発が必要である。これをできる国は現在のところ、世界にアメリカ、日本、ヨーロッパだけである。日本はこれまでに蓄積した深く広い技術を駆使して、この分野で世界を制するチャンスが大いにある。その芽を育て、われわれの子孫に繁栄をもたらす努力をするのが、現在のわれわれの務めである。

著者情報

慶應義塾大学理工学部訪問教授

和田恭雄

わだ やすお

1946年生まれ。東京大学大学院工学系研究科修了。日立製作所 基礎研究所主任研究員、早稲田大学ナノテクノロジー研究所教授、東洋大学大学院学際・融合科学研究科教授を経て、2012年より現職。著書に「超LSI製造技術」(1989年、日経BP)、「ナノエレクトロニクス」(2004年、オーム社)、「分子エレクトロニクスの基盤技術と将来展望」(監著、09年、シーエムシー出版)がある。

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