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一語千金

オプション

[option]
損失を補償する「相場保険」

玉手義朗(エコノミスト)

「毎月3000円の掛け金で、死亡時には1000万円の保険金!」
 生命保険のおなじみのセールストークだ。保険は支払う掛け金に比べて、大きな保障が得られるのが特徴だが、期限までに何も起こらなければ掛け金の大半は戻ってこない。しかし、万一の時には頼りになる存在で、多くの人が「安心を買う」ために加入している。
 外国為替や株式、国債に商品など、様々な分野で発達している「オプション」。その基本的な仕組みも「保険」であり、通常の取引を補うために誕生した「デリバティブ」の中心的存在となっている。 
 外国為替取引の場合を例にとる。ある輸出企業が、半年後に100万ドルの輸出代金を受け取る予定だとしよう。採算が確保される「社内レート」は1ドル=100円で、現在の為替相場は105円、決算日の前に為替取引を行う「為替予約」を取って為替相場を確定すると102円になる。
 一番安全なのは為替予約を取ることだ。しかし、その後に円安・ドル高が進み、代金を受け取る際に110円になった場合には悔しい思いをすることになる。しかし、反対に95円といった円高・ドル安になると、採算を割り込む危険性もあり、判断に迷うこととなる。
 100円という採算ラインを確保しながら、より大きな利益を求めることはできないのか…。ここでオプションが登場する。オプションは、将来のある時点で、決められた相場で決済する「権利」で、銀行などの金融機関が販売している。例えば、半年後に100万ドルを1ドル=100円で決済できる、という「権利」がオプションなのだ。
 オプションを銀行から購入しておけば、仮に決済時のドル・円相場が95円になった場合でも、権利を行使して100円で決済できるから安心だ。逆に110円になっていた場合には、オプションを破棄して110円で決済することができる。オプションはあくまで「権利」であり、行使するかどうかは購入者の自由なのだ。これは、最悪でも100円で決済できるという「相場保険」に入っているのと同じなのである。
 しかし、保険同様にオプション取引にも「掛け金」が必要となる。それが「オプション料」だ。通常は「1ドルにつき○円」という形で徴収され、オプションを販売する金融機関が、引き受けるリスクによって決めている。期間が長くなればオプション料は高くなるし、相場が乱高下してボラティリティと呼ばれる相場変動率が大きい場合にも高くなる。半年後に100円で決済するためのオプション料が1ドルについて1円なら納得できるが、状況によって10円となることもある。この場合、仮に100円で決済できても、オプション料を差し引くと実質的には90円で決済することになり、「保険貧乏」になりかねないのだ。
 相場の変動が激しい時にオプション料が高騰するのは、金融機関がリスクを背負いきれなくなるからだ。オプションを提供する金融機関は、受け取ったオプション料以上のお金をもらうことはない。一方で、例え1ドル=90円になっても100円で決済を迫られるなど、損失は無限大になる。生命保険の高齢者の掛け金が、若年層より高く設定されるのと同じと考えればよい。
 オプションは極めて高度な技術が必要で、その基本となっているのは、確率論を駆使した「ブラック・ショールズ方程式」という超難解な偏微分方程式。わずかな掛け金で巨額の保険金を支払うためには緻密な計算が必要なので、保険に入る方は楽だが、引き受ける方は大変なのである。
 オプションは安心を提供する「相場保険」だ。近年では、変動金利に上限を設ける「キャップ」、下限を設ける「フロア」など、生命保険同様に多種多様なものが開発されている。金融市場が激しい動きを続ける中、その重要性は高まる一方となっているのである。

著者情報

エコノミスト

玉手義朗

たまて よしろう

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。その後、テレビ局で経済部デスクなどを経て、現在はフリー。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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