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経済万華鏡

潜在成長率のパワーアップは必要ない

浜矩子(同志社大学大学院ビジネス研究科教授)

 このところ、「潜在成長率」という言葉があちこちでチラホラ話題に上るようになっています。IMF(国際通貨基金)などが、先進国諸国に潜在成長率を引き上げるよう要請したりしています。日本でも、問題は潜在成長力不足なのだという言い方が少しはやり始めています。そのうち、潜在成長率談議が大ブレークするかもしれません。しかしながら、本当に、そこが問題なのでしょうか。

 潜在成長率というのは、ある国の経済がその潜在力をフルに発揮した時の成長率です。いわばフル稼働成長率ですね。
 実現成長率が潜在成長率と一致するとは限りません。一致しない場合の方が圧倒的に多いと考えていいでしょう。実現成長率が潜在成長率を下回る経済は、実力を十分に発揮出来ていない経済です。低稼働状態にあるということです。実現成長率が潜在成長率を上回る経済は、稼働率が生産能力を超えてしまっている。背伸びのし過ぎですね。
 このように、潜在成長率は、一国の経済がどのような稼働状況にあるかを診断するための評価基準として用いられる指標です。基本的に、その性格が強いのです。
 それなのに、実現成長率を上げるために潜在成長率を引き上げなければいけない、と考えることには、注意を要します。無理やりに潜在成長率を引き上げようとすれば、どうしても、経済活動の構成要素に負荷が掛かることになってしまいます。

 リオ・オリンピックが近付いてきました。各国のコーチ陣は、選手たちの潜在力と実現パフォーマンスの関係に、さぞや、気を配っていることでしょう。潜在力をいかんなく発揮してもらうためには、どうするか。それを必死で考えているに違いありません。
 それは結構なことです。ですが、そこを通り越して、アスリートたちの潜在力そのものを、オリンピックまでに引き上げることを考え始めると、少々、雲行きが怪しげになってきますよね。そうなると、ドーピングという毒の甘い香りに迷うことになりかねない。潜在力の短期速成的パワーアップを指向すると、その道は薬物投与の世界に通じる。怖いことです。

 潜在成長率の大きな規定要因が人口です。人口が伸びなくなれば、潜在成長率は低下して当たり前です。それが嫌なら、産めよ増やせよと、人々を鼓舞することになります。さもなくば、1人当たりの生産性を引き上げる方法を必死で探すことになるわけです。
 いずれにしても、自然体とは異なる方向に人々を引っ張っていくことになってしまいます。潜在成長率は、やっぱり、自然体が一番だと思います。

著者情報

同志社大学大学院ビジネス研究科教授

浜矩子

はま のりこ

1952年生まれ。一橋大学経済学部卒。三菱総合研究所ロンドン駐在員事務所長等を経て、現在に至る。『グローバル恐慌』『スラム化する日本経済』『ユニクロ型デフレと国家破産』『浜矩子の「新しい経済学」~グローバル市民主義の薦め~』など多数の著書がある。

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