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常識を疑え!

大阪の中1遺棄事件をなぜ防げなかったのか?

香山リカ(医師)

 大阪府の中学1年生男女2生徒が犠牲となった、殺害・死体遺棄事件。逮捕された山田浩二容疑者は、事件の2日前に東京で職務質問を受けていたことが明らかになった。また、事件後には職場のある福島に戻っていたこともわかっている。決して孤独な生活ではなく、友人、交際している女性、さらには獄中結婚した妻と子どももいたという情報もある。周囲の人たちからの評判もそれほど悪くなかったようだ。

 子どもを狙った犯罪の場合、加害者は「社交性がなく無口、引きこもりがちな人間」というイメージがあるが、山田容疑者は違う。行動力もコミュニケーション能力もそれなりに備わっているようだ。

 しかし、それとは裏腹に、2002年にも複数の男子中高生を対象にした監禁事件で逮捕された経歴を持つ。いずれも大阪府寝屋川市の路上で、男の子に「寝屋川市駅はどこか」などと声をかけ、手錠や粘着テープなどを使って車内に監禁したという。今回も職務質問されたときにはそれらの用具を見つけられているので、計画的な犯行の可能性も高い。

 つまり、残虐で危険な内面と人あたりのよい外面との間に、とんでもないギャップがある。いささか大げさに言えば、ニコニコと親切な人を装いながら心の中では常に子どもを暴力の対象にする計画のことばかり考えている、というイメージだ。

 もし山田容疑者が精神鑑定を受けることになったら、現在の精神医学のガイドラインでは「衝動を制御できない」「良心の呵責(かしゃく)を感じない」ということで「反社会性パーソナリティー障害」と診断されるのではないか。その場合、もちろん責任能力は完全にありということになる。

 しかし、一部の精神科医たちはこの「反社会性パーソナリティー障害」とは独立したものとして、「サイコパス(精神病質)」という診断概念をもうけるべきだ、と主張している。この「サイコパス」は「良心の欠如」「罪悪感が皆無」など多くの点で「反社会性パーソナリティー障害」とも重なっているのだが、「自尊心が過大で自己中心的」「口が達者で表面は魅力的」という特徴を持つ点が違っている。つまり、オモテの顔とウラの顔に著しい違いがあり、それを使い分けることを何とも思っていないのが「サイコパス」ということになる。

 この概念を主張している精神科医たちは、「サイコパス」の人たちは必ずしもすべてが犯罪者になるわけではない、と言っている。それどころか、大企業の経営者や敏腕弁護士、有名タレントなどいわゆる社会的成功者の中にも、この傾向を強く持っている人たちが少なくないとまで言う。つまり、自分に絶対の自信があり、「他人は自分のために存在する」と確信して利用することを何とも思わず、さらに欲望を実現させるためにはウソをついたり裏表を使い分けたりするのも平気というタイプなので、その「欲望」の向かう先が殺人やレイプなどの犯罪行為ではなくて「金」や「名声」ならば、社会的成功につながる可能性もあるのだ。

 この山田容疑者の場合は、「欲望」は「子どもの監禁、子どもへの暴力」という最悪のものであった。そのため今回のような痛ましい事件につながってしまったが、まわりの友人や家族を「なぜその異常性に気づかないのか」と責めることはできないだろう。彼らの前では「ちょっと変わってはいるが悪い人ではない」と思われるように振る舞うことくらい、「サイコパス」の人には簡単だからだ。

 では、どうやって「欲望」の向かう先が犯罪行為になるような事態を防げばよいのか。「サイコパス」の研究をしている精神科医は、人生の早い段階で誰かがその兆候に気づき、矯正プログラムにつなげることが大切だとしている。私はこれまで、「このままでは自分が大きな問題を起こしそう」と自ら受診した人の相談にも何度か乗ったことがある。まずは「外目はよい人、でも内面は良心が欠如」という「サイコパス」の存在と彼らにも回復のためのプログラムがある、ということを多くの人が知ることから始めるしかないのではないだろうか。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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