印象深い寄生植物 〜ナンバンギセル
今森光彦(写真家/切り絵作家)
田園の柿の木に橙色の実が目立つようになりました。昨年は数年に一度の豊作だったため、今年の実はあまり密集していません。野鳥たちは、食べどきを逃すまいと、完熟するのを手ぐすね引いて待っていることでしょう。
そんな頃、田んぼの土手ではススキが穂を広げています。本来、この時期の土手は草刈りを終えたばかりの状態なのですが、斜面が急な場所や水路に近い所などは、足元が悪く、仕事がしにくいこともあり、手をつけずに放置されていることがあります。この状態は管理不足ともいえるのですが、時には豊かな環境をつくることもあります。
ナンバンギセルが見られるススキの土手。(撮影:今森元希)
ススキの近くに腰を下ろして茎元をよく観察すると、紅紫色をした風変わりな植物を見つけることがあります。それはナンバンギセルです。花の下には、ひょろひょろと細い茎のようなものが伸びているだけで、葉は見当たりません。何という不思議な植物なのでしょう。それもそのはず、この植物はススキに寄生し、そこから養分をもらっているのです。決して珍しい植物ではありませんが、覆い茂ったススキの下に隠れるように生えているため、ただ歩いているだけではほとんど気づきません。

ススキの茎元に生えるナンバンギセル。(撮影:今森元希)
ナンバンギセルは、そのユニークな姿から、昔から人々の関心を集めてきた植物です。
名前は、どうやら江戸時代の頃に付けられたようです。由来は、戦国時代から江戸時代にかけて渡来したポルトガルやスペインの人たち(南蛮人)が持っていた煙管のような形をしているからだといいます。煙管の火皿と筒状の花、雁首の形状とうつむく花の付け根、細い花柄などが、瓜二つといってよいほど似ています。それにしても、昔の人の想像力にはまったく脱帽します。
ナンバンギセルは、その名前が付くよりもはるか昔、奈良時代にはすでに知られていたようです。うつむきがちに咲く姿を恋に物思う人になぞらえ、「思い草」と呼ばれ、『万葉集』の和歌にも登場しています。
正面から見えるナンバンギセルの雌しべ。(撮影:今森元希)
また、生涯にわたり植物を愛した植物学者・牧野富太郎の図鑑にも、ナンバンギセルが登場します。私の手元にある昭和9年刊行の『日本植物図説集』の第八十図版には、ボタニカルアートとも言える図の中に、この花を正面からのぞき込むと見える黄色い雌しべが、驚くほど美しい線で描かれています。
食用にもならないこの地味な植物が、日本人にとってとても印象深い存在であったことがわかります。
ナンバンギセルは、11月に行われる晩秋の草刈りでススキとともに刈られ、翌年の夏頃、再び花を咲かせます。

牧野富太郎『日本植物図説集』(昭和9年刊行)に描かれているナンバンギセル。(撮影:今森元希)
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