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現代の若者を苦しめる「住まいの貧困」 〜2つの調査結果から読み解く住宅事情

第81回

大内裕和(武蔵大学教授)

 2026年2月、労働者福祉中央協議会(中央労福協)が30代以下の働く若者3000人を対象に実施した「若年層における住宅に関する意識・実態に関する調査」の結果を公表しました。中央労福協がこの調査を行うに至ったのには、次のような経緯があります。

 遡ること22年4月、私は中央労福協から「教育費負担軽減へ向けての研究会」の主査を依頼されました。主査を引き受けた私は、「高等教育費負担軽減へ向けての研究チーム」「学びと住まいのセーフティネット研究チーム」という2つの研究会を結成。そのうち、学びと住まいのセーフティネット研究チームは24年10月、「『若者の「離家」』・『若者の自立』・『学び』・『子育て』を支援するための住宅費負担軽減に関する提言」を取りまとめて発表したのです。今回の調査はこの提言を受けて実施されたもので、提言作成に関わった私もとても嬉しく思いました。

 この調査では、働く若年層の住宅への意識や実態を探るため、15〜39歳の3000人を調査対象としました。その際、収入が高い層では住宅に関して問題を抱える人はあまり多くないだろうと想定し、中間的な収入層までを対象としました。具体的には厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」などの年代別の平均・中央値を参考に、未婚の単身者は個人年収500万円未満、既婚者の場合は配偶者の収入を足して世帯年収が700万円未満の人に限定しています。

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 これまで若者の住宅問題にアプローチした研究としては、ホームレスや貧困問題に取り組むNPO法人ビッグイシュー基金が14年にまとめた「若者の住宅問題―住宅政策提案書[調査編]」(住宅政策提案・検討委員会編)という調査レポートがあります。こちらの調査も住宅事情から「若者の貧困」にアプローチしており、極めて先駆的かつ画期的な内容でした。

 ビッグイシュー基金の14年調査では、調査対象は首都圏(東京・埼玉・千葉・神奈川)と関西圏(京都・大阪・兵庫・奈良)の在住者、年齢は20~39歳、未婚、年収200万円未満の個人でした。これに対して中央労福協の26年調査は、調査対象を500万円/700万円未満と中間的な収入層まで拡大しています。居住地域も都市部に限定せず全国に拡大しました。26年調査は三大都市圏(関東・近畿・中京)が58.8%で、三大都市圏以外が41.2%です。

 また、26年調査は未婚者だけでなく既婚者も調査対象に含め、既婚者が全体の22.1%を占めました。調査対象を拡大することによって、住宅問題の影響をより広く捉えることが可能な設計となっています。

 26年調査では、住んでいる家の延べ床面積について質問しています。というのも国土交通省の「住生活基本計画(全国計画)」では長年、健康で文化的な生活に不可欠な住宅の広さの目安として最低居住面積水準を定めてきました(26年3月に閣議決定された新たな計画では削除)。それによると単身者の最低居住面積水準は25平方メートル、2人以上の場合は10平方メートル×人数+10平方メートルとされています。たとえば既婚の夫婦のみの世帯では、最低居住面積水準は30平方メートルとなります。

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 26年調査によると、未婚の単身世帯で住居の延べ床面積が25平方メートル未満の割合は32.9%に達しました。また夫婦2人の世帯で延べ床面積が30平方メートル未満と答えた人も17.0%となっています。

 ただし、この数字は正確とは言えません。なぜなら住んでいる家の延べ床面積が「わからない」との回答が非常に多く、全体の50.0%にも上っているからです。そこでこの分を除いて計算し直すと、未婚の単身世帯で最低居住面積水準を満たさない割合は52.5%、夫婦2人世帯のほうも29.7%に上昇。このことから、国が定めていた「健康で文化的な生活に不可欠な住宅の広さ」を下回る住環境で生活している若者が大勢いることが分かります。「住宅の質」という点で、若者の多くが劣悪な状況に置かれているのです。

 住んでいる家の延べ床面積を「わからない」とする回答が多かったことも、若者の住環境の劣悪さを示唆しています。一定面積水準以上の広さの場所に居住することが「人権」として意識されていないことが、「わからない」という回答の多さにつながっているように思います。

 26年調査では、住宅費の負担率も質問しています。月収のうち住宅関係費が占める割合を10%ごとに見ると「20~30%未満」が27.1%と最も多く、平均は25.3%(未婚者25.6%、既婚者24.0%)でした。未婚者の約半数は親同居であるのに既婚者よりも負担率が高いのは、一人暮らしの場合にかかる住宅関係費の負担率が29.4%と高くなっているためです。いずれにせよ、若者にとって住宅費の負担は相当重くなっていることが分かります。

 さらに住宅費の負担感についても質問していますが、その結果は衝撃的です。住宅費について「かなり負担を感じている」33.5%と、「やや負担を感じている」41.9%と合わせると、負担を感じている人の割合は何と75.4%となります。未婚者の一人暮らしで78.4%、既婚者に限るとその割合は83.9%にも達します。中間層を含む低・中所得層の若者の大半が、住宅費について負担を感じていることが分かります。

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 26年調査では親と同居している人に、その理由も聞いています。親の家に住んでいる理由を10項目から複数回答で選んでもらったところ、「独立した場合の住居費の負担の重さ」が32.3%と全体のトップになりました。2番目の理由は「炊事・洗濯などの家事の負担の軽さ」29.7%ですが、3番目は「住居費以外の費用負担の軽さ」25.3%で、やはり経済的理由が大きいことが分かります。

 では、若者は親との同居をどう思っているのでしょう? 親と同居している人に「親の家を出たいかどうか」を質問したところ、「親から独立して暮らしたい」が16.7%、「どちらかといえば独立したい」は22.4%で、合わせると「独立したい」が39.1%と約4割に達しています。一方、「同居を続けたい」との回答は25.9%で、「独立したい」若者の割合が「同居を続けたい」割合を上回っていました。すべての若者が親との同居に納得しているのではなさそうです。

 さらに「親の家を出たい」若者の割合を暮らしの状況別に見ると、「大変苦しい」と答えた人が54.5%、「やや苦しい」が46.9%と、「普通」31.3%や「ゆとりがある」32.5%と答えた人たちを大きく上回っています。この結果から、実家から「離家」(=親元を離れて別世帯で暮らす)したいと思っても、経済的理由からそれができない若者が多数存在することが見てとれます。

 これらの調査結果を分析する際に、先ほど紹介したビッグイシュー基金の14年調査の結果を参照すると、若者にとっての住宅問題の深刻さがより深く見えてきます。14年調査では、親同居の割合が77.4%におよび、およそ4人に3人が親と同居している状況が明らかになりました。その理由を尋ねると、「親の家を出ても、住居費を自分で負担できない」の回答率が53.7%と最も高くなっており、年収200万円未満の低所得の若者にとって、住宅費を負担することの困難が「離家」できない理由として明確に示されました。

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 未婚者で個人年収500万円未満と、既婚者で世帯年収700万円未満までの若者を対象とした26年調査では、親同居の割合は全体で38.4%と14年調査の77.4%よりもかなり低い数値となっています。調査対象を中間的な収入層まで拡大したことによる、平均所得の差から考えれば妥当な結果でしょう。しかし未婚者に対象を絞ると、親同居の割合が47.3%にまで上昇する点は見逃せません。しかも理由のトップは、「独立した場合の住居費の負担の重さ」ですから、この点では14年調査における親同居の若者たちと同様の状況と言えます。

 26年調査において、一人暮らしや親からの独立など「離家」している若者の割合は、14年調査よりも高くなっています。しかし、住宅費の割合はいずれも月収の4分の1を上回っています。そして住宅費の重さに負担を感じている割合は75%以上と、若者の大半を占めています。26年調査において、「離家」している若者の圧倒的多数は、住宅費の高さに苦しんでいることは間違いありません。これは彼らが「ハウジングプア=住まいの貧困」の状況に置かれていることを意味します。

著者情報

武蔵大学教授

大内裕和

おおうち ひろかず

1967年、神奈川県生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得。松山大学教授、中京大学教授を経て2022年度より現職。「入試改革を考える会」代表。「奨学金問題対策全国会議」共同代表。著書に「ブラックバイトに騙されるな」(集英社)、「教育・権力・社会」(青土社)、「ブラック化する教育 2014-2018」(青土社)などがある。

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