imidas - 情報・知識&オピニオン

連載

変革への闘い

「ストリートチルドレン」と呼ばれて16  変わる社会、路上、NGO

工藤律子(ジャーナリスト)

 2017年3月末、ダビは、15年間勤めたNGO「カサ・アリアンサ・メヒコ」を辞めた。路上活動ではない部署への異動を命じられたからだ。そして翌月から、NGO「プロ・ニーニョス・デ・ラ・カジェ(以後、プロ・ニーニョス)」で働き始める。仕事はもちろん、ストリートエデュケーター。しかし、ダビの路上活動の機会は、メキシコ社会の変化と「ストリートチルドレン支援NGO」が直面する課題も絡んで、徐々に狭められていく。

路上活動の最中に、地下鉄駅の出入口で見かけたストリートファミリーに声をかけるダビ(水色のシャツの男性) 撮影:篠田有史

路上活動の危機

 ダビが辞めた後、「カサ・アリアンサ・メヒコ」は、2019年、事務所を含むすべての施設を統合した新たな拠点を、メキシコシティ南部の郊外にオープンした。それからまもなく、新型コロナのパンデミックを機に、ストリートエデュケーターの活動を停止。中心街に持っていた、路上の子どもたちが通える施設も閉鎖する。それ以来、メキシコシティ中心での路上活動を再開しなかった。それは単なる一NGOの事業内容変更ではなく、私たちがよく知る「ストリートチルドレン支援NGO」すべてが直面する現実の反映だと、考えられる。
 世界全体のGDP(国内総生産)の8割以上を占める、先進7カ国(G7)と新興国で構成される「G20(Group of Twenty)」のメンバーであるメキシコは、現在、経済指標上はもはや「途上国」ではない。「世界経済力ランキング」に用いられる名目GDPでは、2024年、国連統計で韓国に次ぐ世界13位となり、オーストラリアやスペインよりも上に位置する。ただし、格差が激しいため、1人当たり名目GDPとなると80位以下にまで下がるのだが、先進各国は国際協力の支援金提供先を決める際、そこまで考えない。「メキシコはもう貧しくないから、支援は不要」。そう判断する。だから近年、メキシコでは、多くのNGOが資金繰りに苦労している。
 それならば、発展した国内産業・経済界から支援を受ければいいではないか。そう思うかもしれない。だがそれも、一筋縄ではいかない。世界全体が新自由主義的資本主義のグローバル化の流れにどっぷり浸かっている今、どこの国の金持ちも、コスパの悪いことには資金を出さないからだ。
 NGOがひとつのプロジェクトに資金を提供してもらうには、国内外の財団や国際協力組織、企業などに、その活動の効果を明確に示す必要がある。つまり、すぐに結果が見える内容のプロジェクトでなければ、助成金や支援金は得られない。そうなると、真っ先に切り捨てられるのが、どう頑張っても効率よく結果が出るはずのない「ストリートエデュケーターの活動」だ。
 加えて、観光立国でもあり、真の先進国入りを目指すメキシコの首都メキシコシティ中心部の再開発と美化の流れは、警察を使った路上生活者の強制排除を強化している。路上の人々は、警察に持ち物を押収され、力ずくで移動させられることを怖れて、日中の目立つ時間帯に大勢で道端にいることを避けるようになった。それと同時に、肥大化した麻薬カルテルの下部組織が、あちらこちらのスラムの子どもや若者を取り込み、薬物の密売で「簡単に稼ぐ方法」と「家庭以外の居場所」を提供するように。それが、家出少年・少女を路上ではなく、スラムの犯罪組織へと導き、「ストリートチルドレンはいなくなった」という錯覚を引き起こしている。
 そのため、「プロ・ニーニョス」においても、これまでのような路上活動を続けることの意味を、疑問視する声が出始めていた。

デイセンターで、子どもに服の洗濯の仕方を教えるダビ 撮影:篠田有史

ターゲットを変える

「路上に子どもがいなくなったわけじゃない。見えづらくなっただけ。それに、子どもだけではなく、家族で路上暮らしを続けるケースが増えた」
 2018年夏、「プロ・ニーニョス」で再会したダビは、そう語った。新たに路上へ出てくる子どもが減る一方で、この連載で紹介したカルロスのように路上で大人になった「元ストリートチルドレン」の若者たちが、そこで家族を持ち、子連れで路上生活をしているという。
 カルロスと同じ世代の路上少年・少女は、生き延びていればもう30歳前後の大人になっている。2000年代に入ってから路上に来た子でも、もう子どもがいてもおかしくない年齢だ。彼らが路上生活を抜け出せないまま、「ストリートファミリー」となった。そんなケースが結構あるという。
「中には、夜は路上ではなく、家族で安ホテルや都心に近いスラムの一角に部屋を借りてすごす若者もいる。常に警察の目を警戒しているからだ。もし捕まれば、子どもと引き離される可能性が高いからね」
 ダビの説明によれば、警察にとって、路上家族の親たちは、「親としての義務を果たしていないから、親権を持つ資格がない」。そのため、子どもが警察に「保護」されると、実親から親権が奪われ、公的施設に収容される場合が多い。それを回避するために、親たちはなるべく目立たない方法を工夫しているのだ。
「子どもには危険な路上暮らしをさせたくないと考える親も、いるしね」
 ダビは、1日ずっと路上にいるのではなく、夜だけでも安心して眠れる部屋を確保しようとするのは、親の愛情でもある、と指摘する。ただ、「代金が払えないと、ずっとは続けられない」とも。
 路上暮らしが長い親は、大抵、子ども時代と同様、交差点で信号待ちをする車の前で芸をしたり、フロントガラスを磨いたり、薬物を売ったりして日銭を稼いでいる。だから、収入は不安定だ。その子どもは、生まれた時からそんな生活を続けているために、それが普通になっている。放っておけば、彼らもまた、「ストリートチルドレン」の第三世代を生み出すことになる。負の連鎖を断ち切るには、親子を同時に支え、その未来を変える必要がある。
 そう考えたダビは、「プロ・ニーニョス」で、ある提案をする。路上活動とデイセンターでの支援のターゲットを、「少年」から「少年・少女」へと拡大し、路上の子どもたち全員を対象にすることにしたのだ。
「プロ・ニーニョス」では、彼らの親たちへの積極的な支援も始めた。特に母親たちが、親としての役割を学び、理解し、子どもと共に路上以外の人生を選び取っていけるように支えることを目指す。
 この方針転換により、「プロ・ニーニョス」のデイセンターはやがて、5〜6歳から11〜12歳という、比較的年齢の低い子どもたちで賑わうようになる。それ以前の数年間は、日よっては3〜4人しか子どもが来ないこともあったので、大きな変化だ。

デイセンターには、様々な遊具がある。様子を見にきたダビ(右端)とサッカーゲームを楽しむ子どもたち 撮影:篠田有史

サンドラ母子

 2022年9月。ダビは、相変わらず、毎日、路上をまわり続けていた。この時、「プロ・ニーニョス」には、ボランティアを除けば、ストリートエデュケーターは彼を含めて2人しかいなかったため、それぞれが違う地域をカバーしていた。ダビは、「プロ・ニーニョス」の支援対象ではないがつながりのある若者にも声をかけながら、未成年者のいる路上の家族を訪ね、親に、子どもを昼間デイセンターへ預けるよう勧めた。その先には、子どもがデイセンターから学校へ通うことが想定されている。そして、通学を始めた子どもの親は、「プロ・ニーニョス」のスタッフから、学校の送り迎えをはじめ、親としての役割を学び、それを果たすためのアドバイスを受けるのだ。入学など、必要な書類を揃えて行わなければならない手続きは、ダビが請け負った。そうして多くの子どもたちが、デイセンターに通い、午後はそこから学校へ行くようになっていった。

デイセンターで朝食をとりながら子どもたちの話を聞くダビ(左から2番目) 撮影:篠田有史

著者情報

ジャーナリスト

工藤律子

くどう りつこ

1963年大阪府生まれ。東京外国語大学地域研究研究科修士課程在籍中より、メキシコの貧困層の生活改善運動を研究するかたわら、フリーのジャーナリストとして取材活動を始める。著書に『仲間と誇りと夢と』(JULA出版局)、『ストリートチルドレン』(岩波ジュニア新書)、『マラス 暴力に支配される少年たち』(集英社、開高健ノンフィクション賞受賞)、『マフィア国家 メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々』(岩波書店)、『ルポ 雇用なしで生きる スペイン発「もうひとつの生き方」への挑戦』(岩波書店)、『働くことの小さな革命 ルポ 日本の「社会的連帯経済」』(集英社新書)などがある。NGO「ストリートチルドレンを考える会」共同代表。

関連記事

新着記事

imidasの更新情報をお届けします。